9. 「増やす」より「減らさずに渡す」。子世代への資産承継を早めに考え始めた70代のご相談をファイナンシャルアドバイザー・橋本優理が解説します
日々ご相談をお受けしていると、60代・70代以上の方から、「自分が使うためのお金」ではなく「子どもに残すためのお金」をどう扱えばよいか、というテーマでお話をうかがう機会が増えています。ここでは、70代の方からのご相談をもとにした一事例として、資産の承継を早めに考え始めるとき、どこから手をつけるとよいのかという考え方をご紹介します。
9.1 預金のままでは目減りが心配。「元本に手をつけずに子どもへ残したい」という迷い
まとまった資産をお持ちの方ほど、預金に置いたままでは物価の上昇によって実質的な価値が目減りしていくことを気にされています。一方で、大きく増やす必要はないともおっしゃいます。相談の場では、次のような声を耳にします。

こうしたご相談では、目的が「増やす」ことなのか「減らさずに渡す」ことなのかを、最初に言葉にして整理します。目的がはっきりすると、選ぶべき運用の形もおのずと絞られていきます。手続きへの不安まで含めて先に片づけておこうと判断できるかどうかが、その後の進みやすさを左右する場面は少なくありません。
9.2 【ファイナンシャルアドバイザー・橋本優理が回答】目的を「増やす」から「減らさずに渡す」へ置き換える
目的によっては、最適な資産の預け先は異なります。
どうしたら良いか、と迷っている間に物価の上昇が起きたり、自身の医療や介護問題に直面して資産承継どころではない事態に陥ってしまうリスクもあります。
まずは、資産を取り崩さない仕組みを先に作り、そのうえで資金の配分(どこにどれだけ預けるか)を考えていきましょう。
9.3 ポイント1:取り崩さない仕組みを先につくる
早めに動く価値は、商品選びそのものよりも「渡すまでの形を自分で決めておけること」にあります。まず整えたいのは、資産を取り崩さずに済む仕組みです。元本が戻る時期と利息を受け取る時期があらかじめ決まっている債券などを軸に据えると、資産そのものに手をつけずに定期的な収入を得る形をつくりやすくなります。受け取れる金額を事前に試算し、生活費のどこまでを賄えるかを確認しておくと、判断の材料がそろいます。
9.4 ポイント2:守りと攻めを分け、置き場所を決める
次に決めたいのは、資金の配分です。すべてを一つの商品や一つの通貨に寄せると、金利や為替の動きがそのまま資産全体に響きます。減らしたくない部分と、値動きを受け入れる部分を層のように分けたうえで、証券会社と保険会社それぞれの仕組みの違いも踏まえて置き場所を決めていきます。どの配分が適切かに唯一の正解はなく、いつ渡す想定なのか、どこまでの値動きなら受け入れられるのかによって変わります。
9.5 ポイント3:手続きの導線を元気なうちに整える
最後に、事務手続きの導線です。口座の開設、必要書類の準備、途中で一部だけ解約できるかどうか。こうした確認は後回しにされがちですが、いざというときにご家族が動きやすいかどうかを左右します。専門家の手を借りながら、早めに済ませておくと安心につながります。
なお、外貨建ての商品は為替の水準によって円に戻したときの金額が変わり、満期を待たずに解約すれば元本を下回る可能性もあります。手数料の水準も商品ごとに異なります。債券も含め、元本や利回りが常に保証されるわけではない点は押さえておきたいところです。
また、相続や贈与に関わる税金の取り扱いは、対象となる資産や適用の要件、非課税となる金額、申告の期限などがご自身の状況によって異なり、制度改正もあり得ます。要件・金額・期限を断定せず、国税庁など公的機関の最新情報や税務署の窓口、税理士などの専門家に必ずご確認ください。
ここでご紹介したのは一事例であり、資産の規模も家族構成も、渡したい時期も、前提は一人ひとり異なります。実際に進める際は、契約内容や解約条件をご確認のうえ、金融機関の窓口や公的機関の最新情報にあたり、税務・法務を含めて専門家に個別にご相談ください。
10. まとめにかえて
2026年度の年金額は、国民年金が前年度比1.9%増、厚生年金(報酬比例部分)が2.0%増となりました。国民年金は満額で月7万608円、厚生年金はモデル夫婦世帯で月23万7279円。ただしこれは額面で、実際の手取りは天引き後の金額になります。
1歳刻みの一覧表を見ると、65歳以降の厚生年金は14万円台から16万円台、国民年金は5万円台から6万円台で推移していました。64歳までは繰上げ受給や特別支給の老齢厚生年金の影響で水準が下がります。
男女差については、厚生年金が5万8554円に対して国民年金は4013円。制度によって14.6倍の開きがあり、差のほとんどが2階部分で生まれていることがわかります。
そして2026年4月からは在職老齢年金の基準額が月収51万円から65万円へ緩和され、働ける賃金の枠が月14万円分広がりました。標準報酬月額の上限も2029年9月にかけて75万円へ段階的に引き上げられます。
まずはねんきん定期便やねんきんネットでご自身の見込額を確認し、振込通知書で天引きの内訳まで見ておいてください。終身で受け取れる年金でどこまで生活費を賄えるかが分かれば、自分たちが使う分と残す分を分けて考える段階に進めます。
参考資料
- 日本年金機構「公的年金制度の種類と加入する制度」
- 日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大」
- 日本年金機構「厚生年金保険の保険料」
- 日本年金機構「国民年金保険料」
- 日本年金機構「令和8年4月分からの年金額等について」
- 日本年金機構「年金振込通知書」
- 日本年金機構「年金から介護保険料・国民健康保険料(税)・後期高齢者医療保険料・住民税および森林環境税を特別徴収されるのはどのような人ですか。」
- 厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 日本年金機構「年金の繰上げ受給」
- 厚生労働省「年金制度改正法が成立しました」
- 厚生労働省「社会保険の加入対象の拡大について」
- 日本年金機構「在職老齢年金の計算方法」
橋本 優理
