3. 育児・家事は妻が夫の約4倍——女性の厚生年金が伸びにくい構造

共働き世帯が増えたとはいえ、家庭内のタスク分担には依然として大きな偏りがあります。令和7年版「厚生労働白書・日本の1日」の調査では、6歳未満の子どもがいる家庭において、夫の家事・育児時間が1日平均「1時間54分」であるのに対し、妻は「7時間28分」でした。

妻が夫の約4倍もの時間を家庭に割いているという現実は、女性がキャリアを維持し、厚生年金に長く加入して将来の年金額を増やすうえでの大きな障壁となっています。年金制度の議論だけでなく、こうした「家庭内の働き方改革」が進まない限り、女性の老後資金格差を埋めるのは容易ではないでしょう。

3.1 【試算】家事・育児時間の差は、1年間で何時間になるか

1日あたりの差を1年に換算してみます。前提は「妻7時間28分・夫1時間54分という1日平均を365日続けた場合」で、休日と平日の違いは考慮していません。

  • 妻:1日7時間28分 × 365日 = 約2725時間/年
  • 夫:1日1時間54分 × 365日 = 約694時間/年
  • 差:約2030時間/年

年間で約2030時間の差は、1日8時間×年250日というフルタイム勤務のほぼ1年分(2000時間)に相当します。つまり数字の上では、妻がもう1つのフルタイムの仕事を担っているのと同じ時間量ということです。前のページで見た「厚生年金の男女差5万8554円」「第3号被保険者の女性が約628万人」という数字は、この時間配分と切り離しては考えにくいでしょう。

4. 「何が不安なのかも分からない」——家計の見える化から始める

年金の受給が始まる前後は、調べようと思えばいくらでも情報が出てきます。そのぶん、何が自分に関係するのかを選べなくなり、手続きも運用も止まってしまう。次のような声は少なくありません。

4.1 60歳代に多い「情報が多すぎて動けない」という悩み

60歳代に多い声
老後のことは気になって調べてはいるのですが、情報が多すぎて何から手をつければいいのか分かりません。保険もいくつか入ったままで、結局どこにいくらあるのかも整理できていない状態です。

まず動かすのではなく、まず並べる。順番を変えるだけで、判断できることが増えていきます。

4.2 【ファイナンシャルアドバイザー・長井祐人が回答】まず動かすのではなく、まず並べて見える化する

長井 祐人

まずは自分自身の資産情報を把握するところから始めてみましょう。預金額であれば通帳、保険であれば保険証券、証券であれば取引残高報告書といった書類で確認をすることができます。手元にない場合には、直接「銀行・保険会社・証券会社」に問い合わせをしてみるのも一つの方法です。

その次に、毎月の収入と支出、その内訳についても1枚の紙にまとめてみましょう。併せて、今後使う予定のあるお金を「いつ・どれくらい」使うかも一緒に書き出してみましょう。

ご自身の状況を「見える化」することで、お金の使い方や将来の目標と現時点での差を把握することができます。また、その他にも自分に合った商品や運用方法を決める材料になってくれるメリットがあります。

見える化は、道具ではなく手順の問題です。次の三つの順序で進めるとまとめやすくなります。

4.3 ポイント1:毎月の収入と支出を一枚にまとめる

年金や就労収入がいくら入り、生活費がいくら出ていくのか。過不足が数字になれば、備えが必要なのか、実は足りているのかがはっきりします。夫婦世帯であれば、二人分の年金額をそれぞれ書き出しておくことが大切です。前のページで見たように、同じ世帯でも金額に差が出るのが一般的だからです。

4.4 ポイント2:資産と契約を並べる

預金、保険、証券口座を、金融機関をまたいで一覧にする。同じような保障を重ねて持っていたり、置きっぱなしになっている資金が見つかることもあります。

4.5 ポイント3:使う予定のあるお金から順に並べ替える

近く使う予定のものと当面動かさないものを分けておくと、どこから手をつけるべきかが自然に決まります。すべてを同時に見直す必要はありません。

年代別の貯蓄額の平均・中央値と比べながら現状を確認したい場合はこちらの記事でくわしく解説しています。あわせてご参考ください。
【全世代(20~70歳代)比較】貯蓄額の平均・中央値はいくら?単身・二人以上世帯で比較すると見えた「お金がある人・ない人の差」 差が生まれる3つの要因を確認

長井 祐人

年金額の男女差や第3号被保険者の人数は、制度の話として読むと他人事に見えます。ですが「自分の世帯ではどちらがいくらなのか」に置き換えた瞬間から、判断できることが出てきます。ねんきん定期便やねんきんネットで二人分の見込み額を並べる、それだけでも十分な出発点です。

そのうえで、これから働き方を選べる年代の方には、厚生年金に加入して働く期間が将来の金額に直結するという点を知っておいていただきたいところです。目先の手取りだけで判断すると、受給が始まってから差に気づくことになります。

なお、年金の受給額や各種給付には要件があり、請求しなければ受け取れないものもあります。ご自身が対象になるかどうかは、年金事務所やお住まいの自治体にご確認ください。運用商品には元本割れの可能性があります。

5. まとめにかえて

本記事では、厚生年金の平均月額が〈全体〉15万289円・〈男性〉16万9967円・〈女性〉11万1413円であること、月30万円以上を受け取る人は全体の約0.12%にとどまること、そして第3号被保険者約641万人のうち女性が約628万人を占め5年連続で減少していることを確認しました。あわせて、第1子出産後も53.8%が仕事を継続しているという変化も見てきました。

また、男女の平均額の差が20年間でいくらになるかの試算と、家事・育児時間の差を1年に換算した試算、そして家計を見える化する3つの手順も紹介しています。

年金額の差は、制度がつくったものではなく、働き方の積み上がりとして生まれます。だからこそ、平均額を眺めて終わるのではなく、「自分と配偶者はそれぞれいくらの見込みなのか」を数字で確認することが出発点になります。ねんきん定期便やねんきんネットで二人分の見込み額を並べることから始めてみてください。

参考資料

長井 祐人