5. 【元銀行員の視点】受給額差を家計に落とし込む
厚生年金と国民年金の差を家計にどう反映するかを整理していきます。額面と手取りを分けて考えるところが出発点です。
5.1 額面と手取りの差を先に把握
厚生年金の平均月額15万289円は額面の金額です。ここから介護保険料・国民健康保険料または後期高齢者医療保険料・所得税・住民税が天引きされるため、実際の手取りは1〜2割ほど少なくなります。月2万〜3万円の天引きを想定しておくと、家計の実額を掴みやすくなります。
国民年金の平均月額5万9310円も同じく額面です。住民税非課税に該当する場合は所得税・住民税の天引きがない一方、介護保険料の特別徴収は始まります。加入医療保険料も国保加入者ならその分の天引きが乗ります。
5.2 世帯単位で見た年金月額
共働き夫婦の場合、それぞれが厚生年金の平均に近い水準なら世帯月額は28万円前後になります。片働き(会社員+第3号被保険者)の場合は世帯で20〜22万円前後です。世帯単位での家計設計は、この差を前提に組み立てる必要があります。
6. 同じ制度でも、加入履歴で結果はここまで割れる
平均月額の差は制度の設計上の要因が大きい一方、個人の加入履歴によっては平均から大きく上下します。銀行窓口では、次の2つのパターンに驚かれる方が多くありました。
6.1 厚生年金なのに10万円未満のケース
厚生年金の受給者でも、月額10万円未満の方が全体の19.0%(女性では38.2%)います。加入期間が短い、または平均標準報酬月額が低い水準で推移した方が該当します。「厚生年金だから安心」とは限らない点は、加入履歴で見ておく必要があります。
6.2 国民年金でも満額に近いケース
自営業でも20歳〜60歳の40年間しっかり保険料を納めていれば、国民年金は満額の月7万608円(令和8年度)に届きます。付加年金や国民年金基金を組み合わせている方は、さらに上乗せがあります。「国民年金だけだから少ない」と単純化せず、個別の準備状況を確認することが大切です。
7. 自分の数字を当てはめて試算する
厚生年金と国民年金の平均差月9万979円は大きな数字ですが、この情報を家計にどう活かすかは次の3ステップで整理していけます。
7.1 ステップ1|自分の見込額をねんきんネットで確認
まずは自分の受給見込額を、ねんきん定期便やねんきんネットで確認します。平均と比べて自分がどの水準にいるかがわかると、次の準備の方向性が見えてきます。
7.2 ステップ2|天引き4項目を試算
額面から差し引かれる介護保険料・国保/後期高齢者医療・所得税・住民税を、居住自治体の水準で試算します。手取りベースでの家計設計になると、より実感に近づきます。
7.3 ステップ3|NISA・iDeCoで補完設計
見込額と生活費の差を、NISAのつみたて投資枠やiDeCoで長期積立して補完する設計が有効です。国民年金だけの場合は特に、私的年金の積み上げが老後の可処分所得を左右します。金融機関やファイナンシャル・プランナーで個別相談を受けると、家計に合う配分が見えてきます。
8. まとめにかえて
厚生年金と国民年金の受給額差は月約8万9000円と大きく、この差は現役時の働き方の違いから生じています。「平均」はあくまで参考値であり、自分自身の見込額はねんきん定期便やねんきんネットで確認しておくのが確実です。
不安がある場合は、日本年金機構の年金事務所や街角の年金相談センターに相談すると、記録の抜けや今後の対策について具体的なアドバイスが受けられます。金融機関のリテール窓口も、額面と手取りを分けて考える相談の場として活用できます。
参考資料
中本 智恵