4. 退職した翌年度の国民健康保険料に驚く人は多かった

失業給付でいくら入ってくるかは気にしていても、退職後に何が出ていくかまで見ている方は多くありません。自治体で保険料の計算を担当していた頃、退職した翌年度の国民健康保険料の通知を持って窓口に来られる方が毎年いました。

4.1 保険料は前年の所得をもとに計算する

国民健康保険料は、その年度の収入ではなく前年の所得をもとに計算します。年度の途中で退職して収入が大きく減っても、翌年度の保険料には在職中の給与がそのまま反映されます。「もう働いていないのに、どうしてこの金額なのか」という相談は、この仕組みから生まれるものでした。

会社の健康保険から国民健康保険に切り替わると、これまで会社が半分負担していた分も自分で払うことになります。負担が急に増えたように感じられるのは、この点も理由の一つです。

4.2 非自発的な離職なら、前年の給与所得を100分の30とみなす軽減がある

倒産や解雇、雇止めなどで離職した方には、国民健康保険料の軽減措置があります。厚生労働省の通知では、雇用保険の特定受給資格者、または受給資格のある特定理由離職者を「特例対象被保険者等」と定めています。この対象になると、前年の給与所得を100分の30とみなして保険料を計算します。

軽減の対象となる期間は、離職日の翌日が属する月から、その月が属する年度の翌年度末までです。対象は離職日の時点で65歳未満の方に限られます。

ただし、この軽減には注意したい点もあります。まず、自動では適用されないため市区町村への届出が必要です。次に、軽減されるのは給与所得の部分だけで、それ以外の所得は対象になりません。さらに、自己都合による退職は原則として対象外です。自分の離職理由がどの区分になるかは、雇用保険受給資格者証などに記載された離職理由コードで決まります。

5. 60歳代前半は、年金と失業給付を同時には受け取れない

60歳代前半で退職を考える方にとって、見落としやすいのが年金と失業給付の調整ルールです。

5.1 特別支給の老齢厚生年金は、いったん全額が支給停止になる

日本年金機構によると、特別支給の老齢厚生年金など65歳になるまでの老齢年金と、雇用保険の基本手当は同時に受け取れません。ハローワークで求職の申し込みを行った日が属する月の翌月から、失業給付の受給期間が経過した日、または所定給付日数を受け終わった日が属する月まで、年金は全額支給停止となります。

ただし、実際に基本手当を受けた日数が少なかった場合は、あとから精算が行われます。これを事後精算といい、支給停止を解除できる月数があれば、その分の年金がさかのぼって支払われます。

受給期間の1年間がまるごと失われるわけではありません。ただし精算されるのは後になるため、退職直後の生活費は年金が止まる前提で考えておくと安心です。

「年金も失業給付も受け取れる」と思ったまま退職すると、想定していた収入が入ってこないことになります。どちらを選ぶほうが有利かは、年金額と基本手当日額、受け取れる日数によって変わってきます。

5.2 調整の対象は65歳になるまでの老齢年金

日本年金機構が失業給付との調整の対象として案内しているのは、特別支給の老齢厚生年金など65歳になるまでの老齢年金です。65歳以降の老齢厚生年金と高年齢求職者給付金の組み合わせは、この案内の対象に含まれていません。

自分の場合がどうなるかは、退職の前に年金事務所とハローワークの両方で確かめておくと安心です。

6. 【確認したいこと】退職を決める前に、3つの窓口で聞いておく

失業給付も保険料も、条件が一人ひとり違うため、一般論だけでは自分の金額が見えてきません。退職を決める前に確かめておきたいことを、窓口ごとにまとめてみました。

6.1 ハローワークで、給付日数と給付制限を確かめる

自分の離職理由がどの区分になるか、所定給付日数は何日か、給付制限の期間はどうなるか。この3つがわかると、受け取れる総額と、いつから振り込まれるかの見通しが立ちます。

6.2 市区町村の国民健康保険の窓口で、翌年度の保険料を見積もる

お住まいの市区町村の窓口では、前年の所得をもとにした翌年度の保険料の目安を教えてもらえます。軽減の対象になるかどうかもあわせて相談できます。会社の健康保険を任意継続する選択肢と、どちらの負担が軽いかを比べておくとよいでしょう。

6.3 年金事務所で、年金と失業給付の調整を確かめる

特別支給の老齢厚生年金を受け取れる年齢にさしかかっている方は、年金事務所で調整の内容を確かめておきます。自分の年金見込額は「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」でも確認できますので、手元の数字を持って相談に行くと話が早く進みます。

7. まとめにかえて

2026年8月1日の改定で、基本手当日額の上限は60歳以上65歳未満で7830円、45歳以上60歳未満で9110円になりました。下限額も2562円へ引き上げられています。

金額が上がったことは前向きな変化です。ただ、受け取れる日数や給付制限の有無、年金との調整、そして退職後にかかる保険料まで含めて考えると、失業給付だけで退職後の暮らしを組み立てるのは簡単ではありません。

まずは自分が受け取れる金額と時期、そして出ていく保険料の見込みを並べて確かめるところから始めてみてください。数字が見えると、退職の時期をいつにするかという判断もしやすくなります。

参考資料

太田 彩子