60歳を迎えて再雇用の契約書にサインした途端、想像以上に目減りした手取り額に戸惑ったという話を耳にしたことはないでしょうか。
「人生100年時代」が現実となるなか、シニア世代が安定した暮らしを続けるには、「公的年金」と「働くことで得られる収入」という2つの柱がますます重要になっています。
厚生労働省「令和7年簡易生命表の概況」によると、日本人の平均寿命は男性81.35歳、女性87.33歳。
老後の期間が長くなる一方、2026年7月15日公表の「2025(令和7)年 国民生活基礎調査」では、高齢者世帯の4割以上が収入のすべてを公的年金に頼っている実態も明らかになりました。
こうしたなか、年金以外の収入を得るため、できるだけ長く働くシニア世代が増えています。内閣府「令和7年版高齢社会白書」によると、65~69歳の就業率は男性6割超、女性4割超に達します。
ただし、60歳を過ぎると給与水準が下がるケースもあり、現役時代と同じ条件で働き続けることが難しくなる場合もあります。そこで知っておきたいのが、働くシニアを支える雇用保険の給付金です。
これらは対象になれば自動的に受け取れるものではなく、自ら申請する必要があります。この記事では、見逃しやすい「3つの給付金」と、2026年度に基準額が変わった「在職老齢年金」を取り上げ、制度の内容や受給条件をわかりやすく解説します。
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高齢者世帯の4割超が収入のすべてを公的年金に依存。平均寿命は男性81.35歳・女性87.33歳まで延び、老後は一段と長期化
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65~69歳の就業率は男性6割超・女性4割超に達し、継続雇用は当たり前に。給与減少時に使える給付金は自己申請が必須
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2026年度から在職老齢年金の基準額は65万円に引き上げられ、「働くと年金が減る」不安は多くの人で和らぐ可能性も
1. 高齢者世帯の4割超が「年金のみ」に依存|60代・70代で変わる収入源の実態
老後の生活費を公的年金だけで全額まかなうことは、多くの人にとって簡単ではないのが実情です。「できるだけ長く仕事を続けたい」と考える人が増えているなか、公的な支援制度を知っているかどうかによって、老後の家計に残る余裕にも大きな違いが出てくるでしょう。
では、現在のシニア世代は、実際にどのような収入や資産を使って老後の暮らしを支えているのでしょうか。まずは統計データから、その実態を確認していきます。
J-FLEC(金融経済教育推進機構)の「家計の金融行動に関する世論調査 2025年」を見ると、世帯構成にかかわらず、60歳代では公的年金に続いて「就業による収入」が家計を支える大きな収入源となっていることが分かります。
ところが70歳代に入ると、就労収入を生活費の支えとしている人の割合は大きく低下し、公的年金への依存度がさらに高くなっています。その一方で、年金収入だけでは足りない生活費を「金融資産(貯蓄)の取り崩し」によって補っている人も一定数います。
- 60歳代の「就業による収入」:二人以上世帯42.5%/単身世帯29.2%
- 70歳代の「就業による収入」:二人以上世帯18.7%/単身世帯12.1%
- 70歳代の「金融資産(貯蓄)の取り崩し」:二人以上世帯27.6%/単身世帯26.6%
60歳代では公的年金に次いで「就業収入」が家計の柱となるが、70歳代になると就労収入は大きく細り、貯蓄の取り崩しに頼る割合が高まる。この変化こそ、シニア世代が「できるだけ長く」働き続けたいと考える理由の一つといえるでしょう。
1.1 65~69歳の就業率は男性6割超|「継続雇用」が当たり前になった今の職場
厚生労働省の「令和7年 高年齢者雇用状況等報告」によると、65歳までの雇用確保措置を実施している企業は99.9%に達し、そのうち65.1%が「継続雇用制度」を導入しています。
また、内閣府「令和7年版高齢社会白書」によると65~69歳の就業率は男性62.8%、女性44.7%となっています。60歳を過ぎても働くことは、今や珍しい選択ではないことが明らかになっています。
1.2 定年後に給与が下がっても、生活費は簡単には減らせない
一方で、再雇用では勤務時間や役職などが変わり、現役時代より給与が下がることがあります。しかし、給与が減ったからといって、住宅費や食費、光熱費などの支出まで同じ割合で減るわけではありません。
収入が減少したとき、節約だけで対応しようとすると、生活のゆとりを大きく削ることにもなります。「収入が減ったから生活費を削ろう」と考える前に、条件に該当する公的給付がないかをまず確認することが、家計を守る近道です。次の章では、その給付制度について詳しく紹介していきます。
2. 見逃せない申請主義|シニア就労を支える雇用保険「3つの給付金」を徹底解説
それでは、働き続けたいと考えるシニア世代の暮らしを経済面から支える、雇用保険の3つの給付金について、それぞれどのような制度なのか詳しく確認していきましょう。
2.1 ①再就職手当:65歳未満の早期再就職を後押しする制度
再就職手当は、失業している人ができるだけ早く安定した仕事に就けるよう支援するための制度です。そのため、早い段階で再就職するほど、受け取れる給付が大きくなる仕組みになっています。
再就職手当の受給要件
- 対象者:雇用保険の基本手当の受給資格を持つ方
- 支給条件:基本手当の支給残日数が所定給付日数の3分の1以上ある状態で、雇用保険の被保険者として再就職するなど、定められた要件を満たす必要があります。
再就職のタイミングで変わる給付率
- 給付額:就職日の前日時点における基本手当の支給残日数に応じて、給付率が変動します(計算結果の1円未満は切り捨て)。
- 支給日数が所定給付日数の3分の1以上残っている場合:「支給残日数の60%」
- 支給日数が所定給付日数の3分の2以上残っている場合:「支給残日数の70%」
再就職手当の計算式
再就職手当を受給した後、再就職先で6カ月以上勤務し、その期間中の給与が離職前より低くなった場合には、「就業促進定着手当」を受け取れる可能性もあります。
2.2 ②高年齢雇用継続給付:60歳~65歳未満で給与が減少した方を支援
高年齢雇用継続給付は、60歳以上65歳未満で働き続ける人を対象にした給付制度です。
60歳になった時点の賃金と比べて、現在の賃金が75%未満まで低下した場合に、その減少分の一部を給付する仕組みとなっています。
高年齢雇用継続給付の支給対象条件
- 対象者:雇用保険の被保険者期間が5年以上ある、60歳以上65歳未満の方
- 支給条件:60歳時点の賃金と比べて75%未満の賃金で働き続けていること
高年齢雇用継続給付の支給額と支給率
- 支給額:各月に支払われる賃金の最高10%(※)に相当する額が支給されます。※2025年3月31日以前に高年齢雇用継続給付の支給要件を満たした方は15%
高年齢雇用継続給付の支給率早見表(2025年4月1日以降)
【早見表】高年齢雇用継続給付(2025年4月1日以降)

出所:厚生労働省「令和7年4月1日から高年齢雇用継続給付の支給率を変更します」
なお、老齢年金(厚生年金)を受給しながらこの給付金を受け取る場合には、在職老齢年金制度による年金の支給停止とは別に、年金の一部が停止される可能性があります。その場合の停止額は、最大で標準報酬月額の4%(※)相当となります。
※2025年3月31日以前に支給要件を満たした方は6%
2.3 ③高年齢求職者給付金:65歳以上で失業した場合の一時金
高年齢求職者給付金は、65歳以上の雇用保険被保険者が仕事を辞めて失業状態となった場合に、一時金として支給される給付制度です。
高年齢求職者給付金の受給に必要な2つの条件
- 対象者:65歳以上の雇用保険加入者(高年齢被保険者)で、現在失業状態にある方
- 支給条件:以下の2つの条件を両方満たす必要があります。
- 離職日以前の1年間に、雇用保険の被保険者期間が通算して6カ月以上あること
- 働く意思と能力があり、積極的に求職活動をしているにもかかわらず、就職できていない「失業の状態」にあること
高年齢求職者給付金の支給額
高年齢求職者給付金の額

出所:厚生労働省「離職されたみなさまへ<高年齢求職者給付金のご案内>」
- 支給される金額
- 雇用保険の加入期間が1年未満の場合:基本手当の30日分
- 雇用保険の加入期間が1年以上の場合:基本手当の50日分
この給付制度の大きな特徴は、まとまった金額を一時金として受け取れるところにあります。65歳未満の人が受け取る基本手当、いわゆる失業手当は、原則として4週間に1回、失業認定を受けた後に支給されますが、この制度はそうした仕組みとは異なります。
3. 筆者からのコメント
雇用保険の給付金は、いずれも「知っていれば当然もらえるもの」ではなく、自分で動いて初めて受け取れる制度です。
特に高年齢求職者給付金は、離職日を基準に受給期限が区切られており、申請が遅れると受け取れる金額が減ったり、権利そのものを失ったりする恐れがあります。再就職手当も、対象になるかどうかの判断や必要書類の準備に時間がかかることが多く、退職前後の忙しい時期こそ、早めにハローワークへ相談しておくことが得策です。
また、自己都合退職か会社都合退職かによって、基本手当を受け取り始められる時期や、再就職手当の対象となるタイミングも変わってきます。退職の仕方まで含めて早めに情報を集めておくと、いざというときに慌てずに済むでしょう。
「制度を知っているつもりだった」という思い込みが老後資金の見逃しにつながらないよう、還暦を迎える前後のタイミングで一度、自分が対象になる給付がないか棚卸ししておくことをおすすめします。


