4. 【銀行窓口の実感】女性のご相談で多かった声
銀行のリテール窓口で個人相談を担当していた頃、女性のご相談者から「将来の年金が心配」という声を多く受けていました。原因を伺うと、共通するパターンがいくつかあります。
4.1 パターン1|出産・育児で加入期間が抜けているケース
結婚・出産で仕事を辞め、育児後にパート勤務で復職された方に多いパターンです。会社員時代の厚生年金加入期間は10年前後で、あとは第3号被保険者やパートの短時間勤務期間が続いた結果、報酬比例部分が積み上がっていないケースが目立ちました。
この場合、ねんきんネットで加入履歴を確認したうえで、60歳以降も厚生年金の対象で働き続ける・国民年金の任意加入を検討する、といった対策が有効です。
4.2 パターン2|厚生年金の平均を「一律」で捉えているケース
ニュースや記事で「厚生年金の平均は月15万円」と目にして、自分もそれくらいもらえると思い込んでいる方も少なくありませんでした。実際には男性と女性で大きく差があり、自分自身の見込額はねんきん定期便で確認する必要があります。
「平均値」だけで判断せず、自分の加入履歴に基づく個別の見込額を把握することが、老後家計の設計の出発点になります。
5. 【落とし穴】平均額の見方には注意点がある
平均月額の数字は分かりやすい一方で、いくつかの見落としやすい点があります。
5.1 「基礎年金込み」と「報酬比例のみ」の違い
概況の平均月額は「老齢基礎年金+老齢厚生年金の報酬比例部分」の合計です。厚生年金の受給者は原則として老齢基礎年金も一緒に受け取るため、この形での平均が実額に近くなります。
ただし、加入期間の抜けがある方は老齢基礎年金部分も満額に届かず、平均より低い水準になることがあります。「男性の平均は16万9967円」を自分の見込額と重ねる前に、加入履歴の確認が必要です。
5.2 在職老齢年金による支給停止も含まれる
65歳以上70歳未満で厚生年金を受給しながら働く場合、在職老齢年金の支給停止調整額(令和8年度で月65万円)を超える人は、超過分の2分の1が支給停止となります。概況の平均には、この支給停止後の実受給額が反映されている点も理解しておく必要があります。
6. 【対応策】男女差を縮めるための3つの視点
構造的な男女差を、個人の設計で埋めるには次の3つの視点が有効です。
6.1 視点1|若いうちから加入期間を積み上げる
出産・育児後の復職では、可能な範囲で厚生年金の対象で働くことが、老後の受給額に効いてきます。社会保険適用拡大により、パートでも一定条件を満たせば厚生年金に加入できます。加入期間を積み上げる意識が、長期の受給額に反映されます。
6.2 視点2|NISA・iDeCoで補完する
NISAのつみたて投資枠やiDeCoで、公的年金に上乗せする形の資産形成が可能です。iDeCoは会社員なら掛金が全額所得控除の対象で、現役時の節税と老後の年金上乗せを両立できます。第3号被保険者でも月2万3000円まで拠出できますが、課税される所得がなければ所得控除の効果は働きません。
6.3 視点3|繰下げ受給の活用
65歳の受給開始を遅らせると、1ヶ月あたり0.7%の増額が受けられます。1年繰下げで8.4%増、5年で42%増、最大10年で84%増となります。健康状態と生活費の準備を踏まえて、繰下げの選択肢を検討する価値があります。
7. まとめにかえて
令和6年度末の厚生年金の男女差は月5万8554円で、構造的な要因から生じています。この差は制度設計上のものであり、個人の設計で完全に埋めるのは難しいものの、現役時代の働き方・資産形成・受給開始時期の選択で縮められる部分もあります。
まずはねんきん定期便やねんきんネットで自分の見込額を確認し、そのうえで金融機関・年金事務所・ファイナンシャル・プランナーに相談することが、老後の可処分所得を最大化する近道です。
参考資料
中本 智恵