ヤマハ発動機(7272)といえば、まず思い浮かぶのはバイクだろう。私自身、長いあいだこの会社を二輪車の会社として眺めてきた。だが2025年12月期のセグメント別の数字を並べると、その像は素直には収まらない。売上の2割ほどしかない事業が、利益率では主力を上回っている。2026年8月の株価急伸も、この構造と切り離しては読めない。

※本記事中の株価は、過去の株式分割の影響を調整した値を使用しています。

ココがポイント
  • 2025年12月期のセグメント別で、売上構成比20.8%のマリン事業が営業利益率10.2%を確保し、二輪車を含むランドモビリティの6.7%を上回った
  • 株価は2026年8月3日の1,333円を底に、8月24日には1,973円まで上昇。8月27日の終値は1,907円で、直近時点のPERは10.88倍、PBRは1.48倍
  • 2026年12月期上期は営業利益1,585億円と前年同期比+88.4%。通期の営業利益予想は2,600億円に引き上げられた

1. 社名が示すのは原動機の会社。利益の出どころは二輪だけではない

ヤマハ発動機の社名にある「発動機」は、エンジンを指す。示しているのは二輪車の会社ではなく、原動機の会社だ。

それでも日常で目にするのはバイクであり、私の中の同社の像も長らくそこに寄っていた。2025年12月期のセグメント別の内訳を並べると、その像は少し揺らぐ。

同期の売上収益(IFRS)2兆5,342億円のうち、二輪車や電動アシスト自転車、電動車椅子を含むランドモビリティ事業が1兆6,151億円を占める。構成比は63.7%で、ここは想像どおりだ。

意外なのは、その次に来る事業のほうだ。船外機やウォータービークル、ボートを扱うマリン事業の売上収益は5,276億円、構成比は20.8%にとどまる。

ところが営業利益は536億円、営業利益率は10.2%まで届く。ランドモビリティの6.7%を3ポイント以上上回る水準だ。

売上の2割の事業が、6割超の事業より高い利益率で稼いでいる。「バイクの会社」という入口からは、この順序は見えてこない。

2. 売上2割のマリン事業が利益率で主力を上回る構造はどこから来たのか

興味深いのは、マリンの位置が数年前まではもっと高かったことだ。

2021年12月期の営業利益はマリンが768億円で、ランドモビリティの687億円を上回る。2022年12月期も同様に、マリンが1,092億円、ランドモビリティが874億円。売上の2割の事業が、営業利益額でも最大の柱だった時期がある。

2023年12月期以降は順序が入れ替わる。2025年12月期はランドモビリティが1,087億円と前期比+4.7%で踏みとどまる一方、マリンは536億円と同▲39.0%に落ち込んだ。

営業利益率の後退はもっと分かりやすい。マリンは2021年12月期の19.6%から21.1%、19.0%、16.3%と切り下がり、2025年12月期は10.2%まで下がった。

なぜここまで落ちたのか。会社は2025年12月期について、マリン事業のウォータービークルの販売台数の減少を減収要因に挙げ、マリンと戦略事業では一部需要が想定を下回る市場もあり厳しい事業環境だったとしている。

もう一つ、社名からは連想されない事業がある。ロボティクス事業が扱うのは、サーフェスマウンター(電子部品を基板に載せる装置)、半導体製造後工程装置、産業用ロボット、産業用無人ヘリコプターだ。バイクや船の隣に、半導体の製造工程で使われる機械が並んでいる。

2025年12月期の売上収益は1,115億円で構成比4.4%、営業損益は▲6億円。2021年12月期には営業利益率14.7%を稼いでいた事業でもある。

金融サービス事業の数字も、メーカーというイメージからは外れる。売上収益1,140億円に対して営業利益211億円、営業利益率18.5%で、全セグメントの中で最も高い。中身は製品の販売金融とリースである。

製造業は台数と工場で稼ぐ、という一般的な見方は誤りではない。ただ同社の内訳を分解すると、台数の少ない船と、工場を持たない金融が利益率の上位に来る。この2つは対立ではなく、同じ会社の中で同時に成り立っている姿だと考えたい。

逆側の重石も明確だ。四輪バギーやゴルフカーを扱うアウトドアランドビークル事業は、売上収益1,485億円に対して営業損益が▲398億円。会社は同期に同事業で有形固定資産の減損損失を計上したとしており、これが連結の利益を大きく削った。

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出所:ヤマハ発動機株式会社 有価証券報告書をもとに筆者作成

出所:ヤマハ発動機株式会社 有価証券報告書をもとに筆者作成

3. 2026年8月の株価急伸と、PER10.88倍という現在地

 

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出所:各種資料をもとに筆者作成

出所:各種資料をもとに筆者作成

 

 

2026年7月29日の終値は1,409円だった。そこから7月31日に1,343円、8月3日に1,333円と、直近1カ月では最も低い水準まで下押ししている。

変化はその直後に来る。8月3日の1,333円から、わずか2営業日で1,805円まで水準が切り上がった。3割を超える上昇だ。

2026年12月期上期の大幅増益と通期予想の引き上げが意識された可能性が高い。もっとも輸送用機器セクター全体の需給や円相場への見方も同時に働いていたとみるのが自然だ。

その後も水準は保たれ、8月24日には1,973円まで上げた。これが直近1カ月では最も高い終値になる。8月27日の終値は1,907円で、前営業日の1,955円からはやや下押ししたが、起点の1,409円と比べれば3割超高い位置にある。

直近時点のPER(株価収益率)は10.88倍、PBR(株価純資産倍率)は1.48倍。1カ月で3割超上がってもPERが10倍台に収まるのは、分母が同時に動いたからだ。通期の営業利益予想は2,600億円へ、親会社の所有者に帰属する当期利益予想は1,700億円へ引き上げられている。

PBR1.48倍も、2025年12月期にROE(自己資本利益率)が1.4%まで落ち込んだ会社の株価としては軽くない。市場が利益水準の回復をある程度織り込みはじめている姿と読み取れる。

バイクの会社という入口で見れば、この1カ月の動きは決算数値への単純な反応に映る。だが利益率の高いマリンと赤字のアウトドアランドビークルを同時に持つ会社として見ると、上期の増益幅が持つ意味は違ってくる。

4. 筆者コメント

なぜ「バイクの会社」という像は、これほど長く更新されないのだろうか。

理由の一つは、事業の見え方と収益構造がずれていることだろう。街で目にするのは二輪車であり、船外機は水の上にある。目に触れる頻度を、そのまま利益の大きさだと錯覚しやすい。

もう一つは、売上構成比で会社を理解する癖だ。構成比で見れば同社は6割超が二輪を含む事業であり、その説明自体は誤りではない。ただ利益率という物差しに持ち替えた瞬間、順位は入れ替わる。

同社の場合、この持ち替えには実益がある。マリンの利益率が数年かけて水準を下げてきたことは、売上構成比だけを眺めていては気づけない変化だった。

会社を一つのラベルで覚えるのではなく、どの事業がどの利益率で稼いでいるかまで降りて見る。この銘柄では特に、そういう見方をおすすめしたい。