4. 65歳以上の夫婦のみの無職世帯の生活費
総務省統計局「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」から、「65歳以上の夫婦のみの無職世帯」の標準的な家計収支を見ていきます。
4.1 《収入》25万4395円(うち社会保障給付22万8614円)
4.2 《支出》29万6829円(うち消費支出26万3979円、非消費支出3万2850円)
4.3 《家計収支》
- ひと月の赤字:4万2434円
- エンゲル係数(※消費支出に占める食料費の割合):29.9%
- 平均消費性向(※可処分所得に対する消費支出の割合):119.2%
この世帯の毎月の収入は25万4395円で、その多くを公的年金などの社会保障給付が占めています。一方、毎月の支出は29万6829円。その結果、月々の家計は4万2434円の赤字となっており、不足分は貯蓄を取り崩して補う必要があります。年間に換算すると、およそ51万円の取り崩しが必要になる計算です。
シニア世代は現役世代と比べて安定した収入を得る機会が限られるため、こうした慢性的な赤字は、長期的に貯蓄を大きく減らす要因となり得ます。今ある貯蓄額を踏まえ、家計収支の見直しや、健康状態に応じた短時間の就労など、できる範囲で対策していくことが、老後の暮らしを安定させるカギとなります。
4.4 親の貯蓄が中央値(1178万円)だった場合、毎月4万2434円の赤字で何年もつ?
ここまでのデータを組み合わせて、親世代の資産状況を把握しておくことの重要性を試算してみましょう。70歳代・二人以上世帯の貯蓄中央値(1178万円)を前提に、65歳以上夫婦のみ無職世帯の平均的な赤字(月4万2434円)をそのまま取り崩し続けた場合、資産は何年もつのでしょうか。
【貯蓄中央値】
1178万円【毎月の赤字】
4万2434円【資産が持つ年数】
1178万円 ÷ 4万2434円 ÷ 12カ月 = 約23.1年
中央値程度の貯蓄であれば、平均的な赤字ペースでも20年以上は資産が持つ計算です。しかし、貯蓄が少ない世帯(例えば300万円未満の世帯は合計で17.2%存在)では、状況はまったく異なります。
【貯蓄300万円の場合】
300万円 ÷ 4万2434円 ÷ 12カ月 = 約5.9年
同じ「70歳代の夫婦世帯」でも、貯蓄額によって資産が持つ年数には約4倍もの差が生まれます。親世代の資産がどちらに近いのかを子世代が把握していなければ、介護や医療などいざというときに、どれだけの余力があるのかを判断できません。
4.5 親の資産を把握するのに、まず何を確認すればいい?
親世代の資産状況を把握するといっても、いきなり金額の詳細を聞き出す必要はありません。まずは「どこに何があるか」という所在の一覧化から始めるのが現実的です。
【最初に確認したい項目の例】
・預貯金口座がある金融機関(複数ある場合はすべて)
・証券口座・保険契約の有無と担当窓口
・不動産(自宅・その他)の有無
・年金の受給状況(種類・おおよその月額)
金額まで踏み込まなくても、「どこに」「何が」あるかが分かるだけで、判断が難しくなった際に家族が動ける範囲は大きく変わります。なお、これらの試算は一定の前提を置いた目安であり、実際の必要額や資産状況はご家庭によって異なります。
監修者コメント
70歳代・二人以上世帯の貯蓄額は、平均2416万円に対し中央値は1178万円と、大きな開きがあります。さらに貯蓄0円の世帯が10.9%、300万円未満まで含めると17.2%存在する一方、3000万円以上の世帯も25.2%と、二極化が進んでいる実態がうかがえます。
記事中の試算のとおり、同じ月4万2434円の赤字でも、貯蓄額によって資産が持つ年数は約6年から23年以上まで大きく変わります。この差を子世代が知らないままでいると、介護や医療が必要になった際の判断が後手に回りかねません。
ファイナンシャル・プランナーとしてお伝えしたいのは、金額の詳細を聞き出すことよりも、まず「資産の所在」を親子で共有しておくことです。本人が元気なうちであれば、金融機関の代理人制度の利用など、選べる備えの幅も広がります。
5. 50代・60代に多い「親の資産が分からない」への不安。ファイナンシャルアドバイザー・川勝隆登が伝えたいこと
日頃のご相談では、ご自身の運用の話から始まり、親御さんの資産をどうするかという相談に移っていくことがよくあります。切り出しにくいテーマであるほど、着手が遅れがちです。
5.1 50代・60代でよくご相談される「親の資産状況が把握できていない」という悩み
親御さんが高齢になると、資産がどこにどれだけあるのかを子世代が知らないまま、という状況が生まれます。手続きの判断が難しくなってきてから動こうとすると、できることが限られてしまいます。次のような声を耳にします。

まず必要なのは、資産の中身を一緒に確認することです。このご相談でも、把握するところから始めて、対応できる選択肢が見えてきました。
5.2 【ファイナンシャルアドバイザー・川勝隆登が回答】把握してから、備え方を考える
親のお金の話は、いきなり整理を提案すると身構えられます。次の三つの順序で進めていくと受け入れられやすくなります。
5.3 ポイント1:どこに何があるかを書き出す
金融機関、証券口座、保険、不動産と、預け先を一覧にする。金額の詳細まで踏み込まなくても、所在が分かるだけで次の手が打てます。
5.4 ポイント2:本人が動けるうちに手続きの備えをする
金融機関には、家族が代理で手続きできる制度が用意されている場合があります。判断が難しくなってからでは利用できないことが多いため、早めに確認しておく価値があります。
5.5 ポイント3:渡し方まで含めて考える
資産の形によって、次の世代への渡り方や税の扱いは変わります。保険には相続時の非課税の枠が設けられているなど、形を整えておくことで負担を抑えられる場合があります。
なお、代理人制度の有無や条件は金融機関ごとに異なります。相続税の非課税枠や基礎控除の取り扱いはご家庭の状況によって異なり、税制改正もあります。具体的な手続きや税務上の判断については、各金融機関、税理士、税務署にご確認ください。株式や投資信託には元本割れの可能性があります。
6. まとめにかえて|金額より先に、資産の所在を把握する
70歳代・二人以上世帯の貯蓄額は平均2416万円、中央値1178万円で、貯蓄0円の世帯も10.9%存在します。65歳以上夫婦のみ無職世帯は毎月4万2434円の赤字で、年間ではおよそ51万円の取り崩しが必要になります。
今回の試算では、同じ赤字ペースでも、貯蓄が中央値程度なら約23年、300万円程度なら約6年しか資産が持たないという、大きな差があることを確認しました。この差を子世代が知らないままでは、いざというときの判断が遅れます。
まずは金額の詳細よりも、親御さんの資産が「どこに」「何が」あるのかを一緒に確認することから始めてみましょう。
参考資料
- J-FLEC(金融経済教育推進機構)「家計の金融行動に関する世論調査(2025年)」
- 厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 総務省「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」
- LIMO「70歳代世帯のリアルな貯蓄事情「みんなの"ふつう"はいくら?」シニアの家計収支&厚生年金・国民年金の平均とボリュームゾーンも確認 二人以上世帯の平均は2416万円、中央値とのギャップはいかに」
川勝 隆登

