「都市部の仕事は続けたい。でも、地方の暮らしにも惹かれる」

移住するか、このままか。その二択で迷ったときに浮かぶ選択肢が、二拠点生活です。

近年は個人のライフスタイルの話にとどまらず、国の政策としても位置づけられるようになりました。2024年11月には、二拠点生活を後押しする法律が施行されています。

今回は、二拠点生活が制度上どう扱われているのかを、国土交通省の資料をもとに確認していきます。

この記事の3つのポイント
  • 国が使う正式な用語は「二地域居住」。主な生活拠点とは別の地域に生活拠点をもうける暮らし方を指す
  • 改正広域的地域活性化基盤整備法が2024年11月1日に施行され、市町村が受け入れ計画をつくれる仕組みができた
  • 国は施行後5年間で、計画600件・支援法人600法人という目標を掲げている

1. 「二拠点生活」は、国の資料では「二地域居住」

二拠点生活、デュアルライフ、多拠点生活。呼び方はさまざまですが、国の資料で使われている用語は「二地域居住」です。

国土交通省は二地域居住を「主な生活拠点とは別の特定の地域に生活拠点をもうける暮らし方」と説明しています。

ポイントは「生活拠点」という言葉です。旅行や長期滞在とは異なり、その地域に暮らしの基盤を置くことが前提になっています。別荘を所有することや、繰り返し訪れることとは区別される考え方です。

なお、法律の条文上は「特定居住」という用語が使われます。その定義は「当該地域外に住所を有する者が定期的な滞在のため当該地域内に居所を定めること」(法第2条第1項第1号ハ)。住所は主な拠点の側に置いたまま、もう一方には「居所」を構える。制度はこの前提で組み立てられています。検索するときは「二拠点生活」、制度を調べるときは「二地域居住」、条文にあたるときは「特定居住」。3つの言葉が同じものを指していると整理しておくと、資料を追いやすくなります。

2. 2024年11月、二拠点生活を後押しする法律が施行された

制度面が大きく動いたのが2024年です。

「広域的地域活性化のための基盤整備に関する法律」(平成19年法律第52号)を改正する法律(令和6年法律第31号)が2024年5月22日に公布され、同年11月1日に施行されました。二地域居住の促進を法律の目的に加えたことが、この改正の中心にあります。

背景にあるのは、地方への人の流れをつくるという政策課題です。移住は住まいも仕事も一度に変える必要があり、踏み切るハードルが高い。その手前にある選択肢として二地域居住を位置づけ、行政の側が受け入れ環境を整えられるようにしたのが今回の改正だといえます。

3. 改正で創設された3つの仕組み

新たに設けられたのは、次の3つです。

1つ目が「特定居住促進計画」です。都道府県が二地域居住に関する事項を含む広域的地域活性化基盤整備計画を作成した場合に、市町村がその区域内で二地域居住を促進するための計画を作成できるようになりました。受け入れの方針や、地域としてどのような二地域居住者を求めるかを示すものです。

2つ目が「特定居住支援法人」です。NPO法人や一般社団・財団法人といった営利を目的としない法人のほか、特定居住の促進を図る活動を目的とする会社が対象で、市町村長がその申請にもとづいて指定します(法第28条第1項)。地域と二地域居住者をつなぐコーディネーター役が想定されています。

3つ目が「特定居住促進協議会」です。市町村や支援法人、地域の関係者が集まり、計画づくりや運用について協議する場になります。

国土交通省は、二地域居住者に必要な要素として「住まい」「なりわい」「コミュニティ」を挙げています。3つの仕組みは、これらを地域の側で用意していくための枠組みだと整理できます。

4. 目標は「5年で600件・600法人」

この制度がどの程度の規模を目指しているのかも示されています。

国は施行後5年間で、特定居住促進計画の作成数を累計600件、支援法人の指定数を累計600法人とすることを目標としています(国の資料では「二地域居住等支援法人」と表記されています)。

全国の市町村数はおよそ1700。600件という目標は、そのうち3分の1程度にあたります。

この数字は、裏を返せば「関心のある地域に計画があるとは限らない」ということでもあります。二拠点生活を具体的に考える段階では、候補地の自治体が二地域居住にどこまで取り組んでいるかを確認するところから始めるのが現実的です。

5. 見落とされがちな「住民票」の問題

制度が整っても、実務で必ず向き合うことになるのが住民票の扱いです。

住民票は住所地に置くものですが、この「住所」とは民法第22条にいう「生活の本拠」を指します。住民基本台帳法第4条が、住所の意義を地方自治法第10条第1項に規定する住民の住所と揃えるよう定めているためです。拠点が2つあっても、住民票は原則としてどちらか一方にしか置けません。

住民票の所在地は、行政サービスの窓口、選挙、国民健康保険や国民年金の手続き、子どもの就学先などに関わります。住民税の課税も、原則としてその年の1月1日時点で住民票がある自治体が行います。

どちらを生活の本拠とみなすかは、滞在日数や家族の居住状況などから個別に判断されるもので、一律の基準があるわけではありません。判断に迷う場合は、各市区町村の窓口に確認するのが確実です。

あわせて注意したいのが、勤務先の規程です。就業規則によっては居住地や勤務地の届出、リモートワークの可否に条件が設けられている場合があります。制度上の可否と、勤め先の規程上の可否は別の話です。会社員が二拠点生活を検討する場合は、人事・労務部門への確認を先に済ませておくと安心です。

6. 費用は「二重にかかる」前提で考える

家計の面から見ると、二拠点生活は基本的に支出が増える選択です。

住居費は2か所分かかります。電気・ガス・水道の基本料金も2か所分です。加えて、2つの拠点を行き来する交通費が定期的に発生します。地方側では自動車が必要になることも多く、車両費や保険料、駐車場代が上乗せされます。

一方で、移住にはない利点もあります。合わなかったときに戻れる、という点です。

気候、買い物環境、通院のしやすさ、地域との関係。こうした要素は、実際に暮らしてみないと分かりません。生活の土台をいきなり移す移住に比べ、二拠点生活は判断を先送りできるぶん、うまくいかなかったときの損失が小さく済みます。増えるコストは、この「戻れること」への対価と考えることもできるでしょう。

自治体によっては、空き家バンクや家賃補助、移住支援金など、二地域居住者が利用できる支援を用意している場合があります。ただし要件や金額は自治体ごとに異なり、年度によって内容が変わることもあります。適用できるかどうかは、必ず候補地の自治体の最新の公式情報と窓口で確認してください。

7. まとめにかえて

今回は二拠点生活について、制度の面から確認しました。

・国が使う用語は「二地域居住」、法律の条文上は「特定居住」

・改正広域的地域活性化基盤整備法は2024年5月22日公布、同年11月1日施行

・施行後5年間で特定居住促進計画600件、支援法人600法人が目標

・住民票は原則としてどちらか一方。生活の本拠の判断は自治体窓口へ

二拠点生活は、個人の工夫だけで成り立たせるものではなくなりつつあります。候補地の自治体がどこまで受け入れ体制を整えているかを調べることが、現実的な第一歩になりそうです。

なお、税・社会保険の取り扱いや各種支援制度の適用可否は個別性が高い分野です。本記事は制度の全体像を整理したものであり、実際の判断にあたっては市区町村の窓口や勤務先の人事・労務部門、専門家にご確認ください。

8. 【執筆者コメント】受け入れる側から見た「二地域居住」

私は群馬県に住んでおり、この記事でいえば二拠点生活をする人を迎える側にいることになります。

国土交通省が挙げている「住まい」「なりわい」「コミュニティ」の3要素のうち、地域の側が用意しにくいのはコミュニティではないかと感じています。空き家や仕事は、探せば見つかることもあります。ただ、訪れた方が地域のどこに関わっていくかまでは、計画をつくれば決まるというものでもありません。

そのうえで、住民票を原則としてどちらか一方にしか置けないという点は、あらためて重い条件だと感じました。拠点が2つあっても、行政上の扱いは1か所に定まります。どちらを生活の本拠とするかは、手続き上の選択にとどまらず、それぞれの地域とどう関わっていくかを考える機会にもなりそうです。

なお、都心から群馬までは、新幹線を使えば想像より近いと感じられるかもしれません。距離感の受け止め方には個人差があるようで、県外の方に説明すると、遠いと言われることも、近いと言われることもあります。

まずは候補地の自治体が二地域居住にどこまで取り組んでいるかを調べるところからだと思います。そのうえで、一度訪れてみるだけでも見えてくるものはあるのではないでしょうか。

参考資料

中沢 新