老後資金は「貯める」ことばかりが注目されがちですが、実は「取り崩す」段階の方が難しいと言われます。取り崩し方によって、同じ資産額でも何年もつかが大きく変わるためです。

「定額」と「定率」という2つの取り崩し方の違いを、編集部でシミュレーションしました。

なお、70歳代の貯蓄額の実態については、下記の記事より一部を引用・参照しています。

【70代の貯蓄・年金・家計のリアル】老後赤字を加速させないためには?投資に頼らない防衛策を徹底解説!
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ココがポイント
  • 毎月一定額を取り崩す「定額」方式は、資産が尽きる年齢が明確になる一方、想定より早く尽きるリスクがあります
  • 残高の一定割合を取り崩す「定率」方式は資産が尽きにくい一方、受け取れる金額が年々減っていきます
  • 取り崩す口座の順序(課税口座・iDeCo・NISA)によっても、手取り額の実質的な価値が変わってきます

1. 「定額」と「定率」、2つの取り崩し方の基本

資産の取り崩し方には、大きく分けて「定額」と「定率」の2つの考え方があります。

1.1 定額取り崩しと定率取り崩しの違い

定額取り崩しは、毎月・毎年決まった金額を取り崩す方法です。生活費の計画が立てやすい一方、運用がうまくいかない時期に取り崩しが重なると、資産が想定より早く減っていくリスクがあります。

定率取り崩しは、その時点の残高に対して一定の割合を取り崩す方法です。残高が減れば取り崩し額も減るため、理論上は資産が完全にゼロにはなりにくい一方、受け取れる金額は年々変動します。

1.2 「取り崩さない」という選択肢もある

資産の一部については、あえて取り崩さずに運用を続け、公的年金や勤労収入などでまかなえる範囲の生活費だけをやりくりするという考え方もあります。

この場合、資産は取り崩す資産と、当面手をつけない資産とに分けて管理することになります。生活費の土台を公的年金でまかなえる世帯ほど、この「取り崩さない」部分を厚くできる余地があります。

どの考え方を採用するにしても、まず自分の資産のうち、いつ・どれだけ取り崩す予定なのかを整理しておくことが、その後のシミュレーションの土台になります。

2. 2000万円を取り崩すと何年もつか——編集部試算

2000万円を、年利2%で運用しながら取り崩した場合の資産寿命を、定額・定率それぞれで試算しました。

2.1 定額(月8万円)なら約27年でゼロになる計算

2000万円を年利2%(月次複利)で運用しながら、毎月8万円を定額で取り崩すと仮定します。この場合、資産は約27年(323か月)で尽きる計算になります。65歳から取り崩し始めると、92歳前後で資産がゼロになる計算です。

齊藤 慧
定額取り崩しの「約27年で資産が尽きる」という結果は、年利2%という一つの前提の上に積み上げた数字にすぎません。運用実績や取り崩し開始年齢が変われば期間は前後しますが、あらかじめ資産の寿命を数字で見積もっておく発想自体は、企業年金の財政検証で使う考え方に近く、家計にもそのまま転用できます。

2.2 【定額(月8万円)取り崩しの資産寿命(編集部試算)】

毎月8万円を定額で取り崩した場合の資産寿命(試算)1/2

前提条件:2000万円を年利2%(月次複利)で運用しながら、毎月8万円を定額で取り崩した場合の資産寿命(編集部試算)

出所:LIMO編集部作成

定額(月8万円固定)の場合

  • 初年度の受取額:月8万円
  • 資産が尽きるまでの期間:約27年(65歳開始なら92歳頃)

2.3 定率(年4%)なら資産は残るが、受取額は減っていく

同じ2000万円を、年利2%で運用しながら、残高の4%を毎年取り崩す(定率)と仮定します。この場合、初年度の取り崩し額は80万円(月換算6万7000円)です。

取り崩し額が運用益を上回るため残高は徐々に減っていきますが、定額のようにゼロにはならず、20年後も約1313万円、30年後も約1065万円の残高が残る計算です。

2.4 【定率(年4%)取り崩しの受取額の推移(編集部試算)】

2000万円を年利2%で運用しながら、残高の4%を毎年取り崩す(定率)場合の受取額の推移(試算)2/2

前提条件:2000万円を年利2%(月次複利)で運用しながら、残高の4%を毎年取り崩す(定率)場合の受取額の推移(編集部試算)

出所:LIMO編集部作成

初年度の受取額

  • 年80万円(月換算約6万7000円)

20年後・30年後の受取額の目安

  • 20年後:残高約1313万円、年間受取額は約52万5000円(月換算約4万4000円)
  • 30年後:残高約1065万円、年間受取額は約42万6000円(月換算約3万6000円)
齊藤 慧
定率方式は残高に対する割合で取り崩すため、原資が尽きないという性質を数学的に持っています。ただし生活費という支出側は残高に連動して減るわけではないため、資産管理上の安定と暮らしの安定は同じ意味ではないという点が、この試算の核心だと捉えています。

定率方式では資産そのものは尽きにくい一方、受け取れる金額は当初の6割程度まで減っていきます。生活費が一定のペースでかかり続けることを考えると、この目減りをどう受け止めるかが課題になります。

3. 【編集者の視点】

「資産が尽きない」という定率方式の安心感は魅力的ですが、その裏側で受取額が減り続けるという事実は、意外と見落とされがちです。生活費は年齢を重ねても大きくは減らない場合が多く、受取額の目減りとのギャップが生じる可能性があります。

一方、定額方式は「毎月いくら受け取れるか」が明確な分、資産が尽きる時期を具体的にイメージしやすいという利点があります。ただし、想定より長生きした場合には、資産が先に尽きてしまうリスクと向き合う必要があります。

どちらか一方を選ぶのではなく、生活費の土台となる部分は定額に近い形で、余裕がある部分は定率で、というように組み合わせる考え方もあるでしょう。

防衛策としては、まず自分の生活費のうち「削れない固定費」と「調整可能な支出」を分けておくことです。固定費部分は定額に近い安定した取り崩し方、調整可能な支出部分は定率方式で対応する、といった使い分けを検討する価値があります。

4. どの口座から取り崩すか、という順序も重要

資産を課税口座・iDeCo・NISAに分けて保有している場合、どの順番で取り崩すかによっても、手取りの実質的な価値が変わってきます。

4.1 NISAは非課税、課税口座には税金がかかる

課税口座(特定口座など)で運用益を得た場合、売却益や配当には20.315%の税金がかかります。一方、NISA口座内での運用益は非課税です。

単純に税負担だけを考えると、税金がかかる課税口座から先に取り崩し、非課税のNISA口座はできるだけ長く運用を続ける、という考え方が成り立ちます。ただし、市場が大きく下落している局面でNISA口座を取り崩さざるを得ない場合は、非課税のメリットを十分に活かせないまま売却することにもなります。

4.2 資産全体を「バケツ」に分けて考える方法

取り崩しの順序を考える際、資産全体を「当面の生活費」「中期的に使う資金」「長期で運用する資金」の3つの「バケツ」に分けて管理する方法もあります。

当面の生活費にあたる部分は現金・預貯金で確保し、中期・長期の部分は運用を続けながら、必要に応じて値上がりしている資産から取り崩していくという考え方です。口座の種類(課税・非課税)と、資金の性質(短期・長期)という2つの軸を組み合わせて管理すると、判断がしやすくなります。

4.3 iDeCoは60歳以降、受け取り方法をあらかじめ選ぶ必要がある

iDeCoは60歳以降、一時金・年金・併用のいずれかで受け取りますが、これは他の資産の取り崩しとは別のタイミングで決める必要があります。公的年金の受給開始時期と合わせて、公的年金等控除の枠をどう使うかも考慮する必要があります。

齊藤 慧
課税口座は20.315%の分離課税、NISAは非課税、iDeCoは受け取り時に一時金なら退職所得控除、年金なら公的年金等控除という別の枠が絡みます。3つの口座は制度上の位置づけがまったく異なるため、順序の話は税負担・非課税枠・受給タイミングという別々の軸を一つの表に並べ替える作業だと考えています。

5. 【編集者の視点】

「税金がかかる口座から先に取り崩す」という考え方は、税負担だけを見れば合理的です。しかし、実際には市場の値動きも考慮する必要があります。

たとえば、課税口座の資産がちょうど値上がりしているタイミングであれば、そこで利益を確定させて取り崩すのは理にかなっています。一方、NISA口座の商品が大きく値下がりしている局面で、順序を優先してNISA口座を温存し続けると、値下がりした課税口座を売却して損失を確定させることにもなりかねません。

順序のルールを機械的に適用するのではなく、そのときどきの値動きも踏まえて、どの口座から取り崩すかを柔軟に判断する視点も必要でしょう。

防衛策としては、取り崩しを始める前に、各口座の評価損益を確認する習慣をつけることです。値上がりしている口座から優先的に取り崩す、値下がりしている口座は回復を待つ、という判断を、税負担の順序と合わせて考えるとよいでしょう。

6. 公的年金の受給開始時期も、取り崩しの設計に関わる

資産の取り崩し方を考えるうえで、公的年金をいつから受け取るかという選択も無関係ではありません。

6.1 繰下げ受給で公的年金を増やし、資産の取り崩しを遅らせる

日本年金機構によると、老齢年金の受給開始を65歳より遅らせる「繰下げ受給」を選ぶと、1か月遅らせるごとに年金額が0.7%増額され、増額率は一生涯続きます。

公的年金の受給開始を遅らせている間は、その分を資産の取り崩しで補う必要がありますが、繰下げ後の年金額が増えれば、その後の取り崩しペースを緩められる可能性があります。

6.2 【繰下げ受給の年金額と、繰下げ期間中に資産から補う金額(編集部試算)】

68歳まで繰下げる場合

  • 年金月額は約18万8000円に増額(65歳受給開始比、0.7%×36か月=25.2%増)
  • 繰下げ期間中に資産から補う金額は約540万円

70歳まで繰下げる場合

  • 年金月額は約21万3000円に増額(65歳受給開始比、0.7%×60か月=42.0%増)
  • 繰下げ期間中に資産から補う金額は約900万円

繰下げによって年金額が増えれば、その後の取り崩し額を毎月抑えられる可能性がありますが、繰下げている期間中は資産からより多く取り崩す必要があります。手元の資産に、その期間を乗り切れるだけの余裕があるかが判断のポイントになります。

齊藤 慧
繰下げによる0.7%×月数という増額率は生涯続く一方、その原資となる900万円は自分の資産から先出しする形になります。増額率と先出し額はセットで発生する仕組みであり、片方だけを取り出して「得か損か」を論じても、家計全体の設計としては半分しか見ていないことになります。

7. 【編集者の視点】

繰下げ受給は「年金額が増える」という面だけが注目されがちですが、繰下げている期間中の生活費をどう賄うかという視点も欠かせません。資産に余裕がなければ、繰下げを選んだことでかえって資産の減りが早まってしまう可能性もあります。

また、繰下げ受給を選んだ後に体調を崩し、想定より早く亡くなった場合、増額分を十分に受け取れないまま終わってしまうケースもあります。「増額率が高いから得」という単純な計算だけで判断せず、自分の資産状況や健康状態も踏まえて考える必要があるでしょう。

防衛策としては、繰下げを検討する際に、繰下げ期間中に資産からいくら取り崩す必要があるかを具体的に試算し、それでも資産に十分な余裕が残るかを確認することです。年金事務所やファイナンシャルプランナーに、繰下げありなしの両方のシミュレーションを依頼するとよいでしょう。

8. まとめ

  • 定額取り崩しは資産が尽きる時期が明確になる一方、想定より早く尽きるリスクがあります
  • 定率取り崩しは資産が尽きにくい一方、受け取れる金額は年々減っていきます(編集部試算では20年後に当初の約6割)
  • 課税口座・iDeCo・NISAのどの順序で取り崩すかによっても、税負担や実質的な手取りが変わってきます

「取り崩し方」に唯一の正解はなく、生活費の性質や資産の内訳によって、適した方法は変わってきます。

まずは、自分の資産が課税口座・iDeCo・NISAにどう分かれているかを整理し、定額・定率どちらの考え方が自分に合っているかを、証券会社やファイナンシャルアドバイザーに相談しながら検討してみてはいかがでしょうか。

9. よくある質問

9.1 Q. 定額と定率、どちらの取り崩し方が良いですか

A. 一概にどちらが良いとは言えません。定額は資産が尽きる時期が明確な一方、想定より早く尽きるリスクがあります。定率は資産が尽きにくい一方、受け取れる金額が年々減っていきます。生活費の性質に応じた使い分けが考えられます。

9.2 Q. 2000万円は何年で取り崩せますか

A. 年利2%で運用しながら毎月8万円を定額で取り崩すと仮定した編集部試算では、約27年(65歳開始なら92歳頃)で資産がゼロになる計算です。前提条件によって結果は変わります。

9.3 Q. どの口座から取り崩すべきですか

A. 税負担だけを考えると課税口座を先に、非課税のNISA口座は長く残す考え方があります。ただし市場の値動きも影響するため、評価損益を確認しながら柔軟に判断する必要があります。

参考資料

LIMO編集部貯蓄解説班