12. 「扶養の範囲で働き続けるべき?」40代夫婦の働き方を世帯収支から考える|ファイナンシャルアドバイザー・橋本優理

配偶者の働き方をどうするかは、税金や社会保険料の負担と世帯の手取りが同時に動くため、ご自身だけでは判断しづらいテーマです。「働く時間を増やすべきか迷っている」という声も多く聞かれます。ここでは、40代の方によくあるお悩みを一事例として、世帯収支から働き方を考えるための整理の仕方をご紹介します。

12.1 教育費と老後資金が重なる40代。「働き方を変えると世帯の手取りはどうなる?」

40代は教育費の負担が重くなる一方で、老後資金の準備も並行して進めたい時期です。配偶者の収入を増やせば世帯収入は増えますが、税や社会保険料の負担も同時に変わります。次のような悩みを抱える方は少なくありません。

40代のお客様
今は配偶者の扶養の範囲で働いていますが、子どもの教育費を考えると収入を増やしたい気持ちもあります。ただ、扶養を外れると社会保険料の負担が増えると聞き、結局世帯の手取りが増えるのか減るのか分からず、答えが出せずにいます。

こうしたお悩みは、収入の増減だけを見ていても答えが出にくいものです。ライフプランのシミュレーションで確認すると、ご自身の年金だけでは老後資金が不足する見込みだと分かり、ご夫婦で協力して準備を進める必要があると気づくケースは少なくありません。試算は前提の置き方によって結果が変わるものですが、選択肢を数字として並べてみること自体が、判断の材料になります。

12.2 【橋本優理が回答】「今の手取り」と「将来の資金」を並べて考える

橋本 優理
「扶養を外れると税負担が増える」「でも収入を増やしたい」とジレンマを抱えている人は少なくありません。
なんとなく損をしそうという理由で扶養内で働き続けるのではなく、想定される世帯年収から、手取り額にどれだけ影響があるかを把握しておくことが大切です。
増えた収入額によっては、社会保険料などで差し引かれて手取りがほとんど変わらない状態になってしまうケースもあるため、どれくらい働けそうか、どれくらいの収入を見込めるかを事前に想定しておきましょう。
収入を増やすことができなくても、時間を味方につけて毎月計画的に資産運用をすることで、貯蓄を増やせるかもしれません。

12.3 ポイント1:世帯単位で収支を試算し、選択肢を数字で並べる

働き方の判断は、「今の手取り」と「将来の資金」の両方を並べて考えることが大切です。まず取り組みたいのは、世帯単位での試算です。ご自身の収入だけでなく、ご夫婦の収入・支出・将来受け取る年金の見込みをまとめてライフプランのシミュレーションに落とし込みます。数字で並べると、働き方の選択が老後の資金にどこまで影響するのかが具体的に見えてきます。なお、公的年金の見込額は加入期間や働き方によって一人ひとり異なります。金額を思い込みで置かず、ねんきん定期便やねんきんネット、年金事務所などの公的窓口でご自身の状況をご確認ください。

12.4 ポイント2:手取りへの影響を、税と社会保険の両面から確認する

次に、収入が増えたときの手取りへの影響を確認します。収入が増えても社会保険料や税負担が増えれば、手取りの伸びは想定より小さくなることがあります。あわせて生命保険料控除など申告で使える控除も確認し、世帯全体で手元に残る金額を基準に判断していきます。ただし、扶養の判定基準や社会保険の加入要件、控除の取り扱いは、勤務先の制度やご家庭の状況によって異なり、改正されることもあります。要件・金額・期限を断定せず、勤務先の担当部署や年金事務所、お住まいの自治体・税務署などの公的窓口、または専門家に必ずご確認ください。

12.5 ポイント3:働き方をすぐに変えられなくても、積立で時間を味方につける

働き方をすぐには変えられない場合でも、準備を進める方法はあります。NISAなどの制度を使った積立を続けるという選択肢もその一つです。運用では長い期間をかけられること自体が大きな要素になりますので、日々の値動きを頻繁に確認して途中でやめてしまわない仕組みにしておくことが重要です。制度の利用条件や税制上の取り扱いは改正されることがあるため、最新の内容は金融機関や公的窓口、専門家にご確認ください。

12.6 《試算》40歳から20年間、毎月2万円を年3%で積み立てたら

扶養の範囲で働きながらでも無理なく続けられる金額として、毎月2万円の積立を想定してみましょう。40歳から60歳までの20年間、年3%で運用できたと仮定した場合の目安です。あくまで一定の前提を置いた試算であり、実際の運用成果を保証するものではありません。

  • 積立期間:20年(40歳~60歳)
  • 毎月の積立額:2万円
  • 想定利回り:年3%
  • 元本:480万円
  • 資産評価額(目安):約654万円(運用益約174万円)

働き方を大きく変えなくても、月2万円を20年続ければ元本の1.3倍を超える計算になります。NISA口座で運用した場合、この運用益約174万円には本来かかる20.315%の税金がかかりません。課税口座であれば約35万円が差し引かれる計算です。

なお、投資信託や変額保険は運用状況によって元本を下回る可能性があり、想定どおりの結果になるとは限りません。シミュレーションの結果も、将来の手取りや受取額を保証するものではありません。まずは世帯の収支を一覧にして現状を把握し、無理のない範囲から始めて定期的に見直すという進め方が現実的です。

ここでご紹介したのは一事例であり、必要な備えの金額も前提条件も、家族構成や収入、勤務先の制度によって一人ひとり異なります。税制・社会保険・年金にかかわる制度は改正されることがあり、要件・金額・期限はご自身の状況で変わります。実際の判断にあたっては、勤務先やお住まいの自治体・税務署・年金事務所などの公的窓口で最新の情報をご確認のうえ、専門家に個別にご相談ください。

13. まとめ|制度の「死角」を知っておけば、優遇措置は取りこぼさない

住民税非課税世帯を対象とした制度は、医療や介護、毎日の暮らしにかかる費用を確かに軽くしてくれます。

ただし、収入が少ないというだけで自動的にすべてが適用されるわけではないことも、この記事で見てきたとおりです。申告を済ませて受給資格を確保する、家族の扶養控除がどうなっているかを確認する、判定の基準になる所得の変動に目を配る——この3つが、取りこぼしを防ぐ鍵になります。

制度のルールを正しくつかみ、使えるものを確実に使う。そのために、世帯全体の状況を定期的に見直しておきましょう。

14. 住民税非課税世帯に関するQ&A

制度を使ううえでは、目先のメリットだけでなく「将来への影響」や「資産の扱い」が気になるところです。よく寄せられる疑問に順に答えます。

14.1 Q1. 非課税になると将来の年金額は減る?

A.国民年金保険料の「免除制度」を使うと、将来受け取る年金額は全額納付した場合より少なくなります。ただし、何もせず「未納」にしておくよりは、はるかに有利です。

住民税非課税世帯であれば、国民年金保険料の免除(全額・半額など)を申請できます。「全額免除」が認められた期間は、保険料を1円も払っていなくても、将来の年金額に「2分の1」が国庫負担(税金)として反映されます。

これに対して申請せず未納のままにすると、その期間は年金額にまったく反映されません。加えて、万一のときに障害年金や遺族年金を受け取れなくなるリスクも抱えることになります。

なお、家計に余裕が出たときは、10年以内であれば免除分を後から納める(追納する)ことが可能です。追納すれば、受給額を満額に近づけられます。

14.2 Q2. 預貯金が多くても非課税世帯になれる?

A.なれます。住民税の課税判断は「前年の所得」を基準にしているため、その時点でいくら貯蓄があるかは直接影響しません。

住民税は「フロー(その年にどれだけ稼いだか)」に課される税金であり、「ストック(どれだけ持っているか)」を見るものではないからです。数千万円の預貯金や不動産があっても、前年の所得が自治体の基準を下回っていれば非課税世帯と認定されます。

ただし、次の2点には注意してください。

  • 利子・配当所得:預貯金の利子や株式の配当金、売却益などが一定額以上あり、確定申告をした場合は「所得」と見なされ、非課税の基準を超えてしまうことがあります。
  • 特定の給付金:自治体が独自に実施する給付金制度などでは、所得制限に加えて「資産(預貯金額)が一定以下であること」を条件とするケースがまれにあります。

14.3 Q3. 自分が非課税世帯かどうか、ネットのシミュレーションツールで正確にわかりますか?

A.ネット上のツールで分かるのは「簡易的な目安」までです。自治体(級地)ごとの基準の違いや、特殊な控除の適用状況までは反映しきれません。最終的な判定は、必ず役所が発行する「課税証明書(非課税証明書)」等で確認してください。

14.4 Q4. 年度の途中で世帯主が亡くなった場合、非課税世帯の判定はどうなりますか?

A.住民税は「毎年1月1日時点」の世帯状況と前年の所得で判断します。したがって年度の途中で世帯主が亡くなり世帯構成が変わっても、その年度の課税状況は変わりません。翌年度から、新しい世帯主の前年所得をもとに判定し直されます。ただし臨時給付金などは「基準日(12月1日時点など)」が別に定められているため、自治体の窓口での確認が必要です。

参考資料

橋本 優理