3. 【FPの視点】取り崩しは預貯金から始まっている

70歳代の貯蓄は、増やす段階から使う段階に入っています。どこから減っていくのかを見ておくと、順番の設計がしやすくなります。

3.1 減ったのは預貯金で、有価証券は増えている

65歳以上の無職世帯の貯蓄現在高は2025年に2494万円となり、前年より66万円減りました。6年ぶりの減少です。

内訳を見ると、定期性預貯金が81万円のマイナス、通貨性預貯金が35万円のマイナスでした。一方で有価証券は1.8%、生命保険などは8.1%それぞれ増えています。

つまり全体が目減りした要因は預貯金側にあり、値動きのある資産には手をつけていないことになります。取り崩しは現金に近いところから順に進む、という形です。

3.2 家計の不足額は年40万円台

取り崩しの規模も統計から確認できます。二人以上世帯のうち65歳以上の無職世帯では、実収入26万6377円に対して消費支出が26万4149円で、可処分所得との差し引きでは月3万2951円の不足でした。

年齢別に見ると70歳から74歳が月3万7245円、75歳以上が月2万7225円の不足です。年に直すと44万6940円と32万6700円になります。

この金額を毎年どこから出すのかという問いが、資産の置き場所を考える出発点になります。

4. 【落とし穴】「シニアも投資へ」は70歳代には当てはまらない

新しい制度が広がると、どの年代も同じように動いていると思いがちです。ただ統計を見ると、70歳代の動きは他の年代と違っています。

4.1 有価証券の比率は70歳以上が最も低い

2025年の有価証券の構成比は、50歳代が19.8%、60歳代が25.1%に対して、70歳以上は18.5%でした。60歳代とは6.6ポイントの差があります。

金額の動きはさらに対照的です。60歳代の有価証券は1年で510万円から713万円へ39.8%増えましたが、70歳以上は462万円から456万円へ減っています。増えていないのは70歳以上だけです。

2019年の全国家計構造調査でも、有価証券の構成比は60歳代17.1%をピークに70歳代16.9%、80歳以上16.6%と下がっていました。年齢が上がるほど比率が下がる構造は以前から続いています。

4.2 70歳代は安全性を収益性より重く見る唯一の年代

金融経済教育推進機構(J-FLEC)の2025年調査では、金融商品を選ぶ基準として70歳代は安全性が32.3%、収益性が32.1%でした。安全性が収益性を上回るのは70歳代だけで、60歳代は収益性42.1%に対し安全性26.2%です。

元本割れの可能性があるが収益性が高いと見込まれる商品について、70歳代の54.4%が保有しようとは全く思わないと答えています。

この年代が値動きのある商品を増やさないのは、判断としては自然な面もあります。取り崩す時期が近いほど、値下がりした局面で売らざるを得なくなる可能性が上がるためです。

5. 【対応策】置き場所を3つに分けて考える

中身を確かめたあとに何をするか、考え方の整理のしかたを挙げておきます。

5.1 使う時期で分ける

当面1年から2年で使う分は通貨性預貯金に、数年先に使う分は定期性預貯金や個人向け国債などに、当面使う予定のない分はそれ以外に、という形で時期ごとに分ける方法があります。

先に見たとおり不足額は年40万円台でしたので、何年分を手元に置くかで通貨性に必要な額は決まってきます。

5.2 満期後の置きっぱなしを確認する

定期性預貯金が減って通貨性預貯金が増えた背景には、満期を迎えたあと預け替えをしていないケースも含まれると考えられます。

ただし金利がつくかどうかだけで判断すると、必要なときに動かせない形にしてしまうこともあります。当面使う予定があるお金まで長期の商品に移す必要はありません。

個々の事情によって適切な配分は変わりますので、判断に迷う場合は金融機関の窓口やファイナンシャルプランナーに、現在の内訳と今後の予定を伝えて相談してみてください。

6. まとめにかえて

70歳以上の貯蓄は平均2471万円で、その6割を超える1582万円が預貯金でした。定期性預貯金は1年で43万円減り、通貨性預貯金に抜かれています。

65歳以上の無職世帯では貯蓄が6年ぶりに減少し、減ったのは預貯金で、有価証券や生命保険などは増えていました。取り崩しが現金に近いところから進んでいることがうかがえます。

ここで挙げた金額はいずれも平均値です。中央値との開きもありますので、まずはご自身の貯蓄がどこにいくら置いてあるかを書き出して、使う時期ごとに整理するところから始めてみてください。

参考資料

村岸 理美