4. 【落とし穴】申告書を出さないと20.42%が源泉徴収される
退職所得控除は自動的に適用されるものではありません。手続きを一つ挟む必要があります。
4.1 「退職所得の受給に関する申告書」の提出が前提になる
国税庁によると、勤務先に「退職所得の受給に関する申告書」を提出している場合は、勤続年数から退職所得控除額を計算し、課税退職所得金額に応じた税額が源泉徴収されます。この場合は原則として確定申告は不要です。
これに対して申告書を提出していない場合は、退職手当等の支給額に20.42%の税率を乗じた所得税および復興特別所得税が一律で源泉徴収されます。
1896万円であれば、およそ387万円が差し引かれる計算です。控除が反映されていないため、本来の税額との差は確定申告で精算することになります。
4.2 取り戻せるが、手間と時間はかかる
申告書を出し忘れた場合でも、確定申告をすれば申告書を提出していた場合と同様の計算が行われ、精算されます。払いすぎた分が戻らないわけではありません。
ただし還付を受けるまでには時間がかかりますし、申告の手間も生じます。退職の手続き書類の中に紛れていることがあるので、提出先と期限を勤務先に確認しておくと安心です。
5. 【落とし穴】iDeCoの一時金を先に受け取ると控除が重なることがある
もう一つ、2026年から実際に動き出しているルールの変更があります。iDeCo(個人型確定拠出年金)を一時金で受け取る予定がある方は確認しておきたい点です。
5.1 重複排除の期間が9年内に広がった
令和7年度税制改正により、退職手当等の支払を受ける年の前年以前9年内に確定拠出年金の老齢給付金としての一時金を受け取っている場合、勤続期間の重複を排除する特例の対象となりました。
この取扱いは、令和8年1月1日以後に老齢一時金の支払を受けている場合であって、同日以後に支払を受けるべき退職手当等について適用されます。
改正前は5年でしたが、9年内に広がったことで、iDeCoを先に一時金で受け取ってから会社の退職金を受け取る場合、退職所得控除が重複して使えない範囲が広がる形になります。
5.2 受け取る順番と間隔で結果が変わる
iDeCoと退職金の両方を一時金で受け取る予定がある場合、どちらを先に受け取るか、何年空けるかによって控除の使い方が変わることがあります。
金額が大きくなりやすい部分なので、受け取り方を決める前に、勤務先の担当部署や運営管理機関、税務署に個別の条件を伝えて確認することをおすすめします。
6. 【補足】控除そのものの見直しは決まっていない
退職所得控除の縮小については以前から議論が取り上げられることがありますが、現時点で計算方法そのものの変更は決まっていません。
令和8年度税制改正の大綱を確認しても、退職所得控除額の計算方法を変更する内容は盛り込まれていません。国税庁が公表している令和8年分の退職所得控除額の表も、勤続20年で800万円、40年で2200万円と現行の計算式のままです。
制度は改正される可能性がありますが、確定していない見通しを前提に受け取り方を急いで決める必要はありません。改正が行われた場合は、適用時期とあわせて確認していくのが確実です。
7. 【FPの視点】平均額ではなく自分の控除額から逆算する
家計相談の現場では、退職金の使い道を先に決めてしまってから税額を確認する方が少なくありません。順番を入れ替えるだけで、判断はしやすくなります。
7.1 先に控除額を出すと手取りの幅が見える
勤続年数が分かれば、退職所得控除額はその場で計算できます。20年以下なら40万円に勤続年数を掛け、20年を超えていれば800万円に70万円と超過年数を掛けた額を足すだけです。
この控除額と、勤務先から示されている退職金の見込額を並べてみます。控除額のほうが大きければ課税される退職所得は生じませんし、下回っていても差額の2分の1が対象になるため、税額は思っているより小さく収まることが多くあります。
7.2 住宅ローンの一括返済は税額を確かめてから決める
退職金で住宅ローンを一括返済するかどうかは、手取り額が確定してから比較するほうが判断を誤りにくくなります。額面で計画を立てると、手元に残す予定だった生活予備費が足りなくなることがあります。
ただし一括返済にはメリットばかりではなく、手元資金が減ることで急な支出に対応しにくくなるという面もあります。返済計画と老後の生活費の両方を並べたうえで、金融機関やファイナンシャルプランナーに相談しながら決めていくと安心です。
8. まとめにかえて
退職給付制度がある企業は74.9%で、規模が小さくなるほどその割合は下がります。まずは自分の勤め先に制度があるか、あるとしたら一時金か年金かを確かめるところが出発点になります。
大学・大学院卒の定年退職者の退職給付額は平均1896万円でしたが、退職事由や企業規模、勤続年数によって金額は動きます。平均額をそのまま自分に当てはめず、勤続年数から自分の退職所得控除額を計算してみると、税金がかかる水準なのかどうかの見当がつきます。
勤続20年を超えると1年あたりの控除額は70万円に上がるため、勤続年数が長い方ほど控除の枠は大きくなります。実際の税額や受け取り方の判断で迷う場合は、勤務先の担当部署や所轄の税務署に相談してみてください。
参考資料
- 国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」
- 国税庁「No.2732 退職手当等に対する源泉徴収」
- 厚生労働省「令和5年就労条件総合調査 結果の概況」
- 財務省「令和7年度税制改正の大綱 一 個人所得課税」
村岸 理美