定年が近づくと、退職金がいくら入るのかと同じくらい、そこからどれだけ税金が引かれるのかが気になってきます。手取りが読めないと、住宅ローンの返済や老後の生活費の計画も立てにくくなります。

厚生労働省が公表した「令和5年就労条件総合調査」によると、大学・大学院卒(管理・事務・技術職)で定年退職した人の退職給付額は平均1896万円でした。退職金には「退職所得控除」という大きな控除が用意されていて、勤続年数によってその額が変わります。

この記事では、退職給付制度がある企業の割合、学歴や退職事由による金額の違い、そして退職所得控除が勤続20年を境にどう変わるのかを順に確認していきます。

ココがポイント
  • 退職給付制度がある企業は74.9%。従業員30〜99人の規模では70.1%にとどまる
  • 大学・大学院卒の定年退職者の退職給付額は平均1896万円。自己都合では1441万円
  • 退職所得控除は勤続20年以下が1年あたり40万円、20年を超えると1年あたり70万円に変わる

1. 退職給付制度がある企業は74.9%にとどまる

退職金の額を考える前に、まず確かめておきたいのが、自分の勤め先に退職給付制度があるかどうかです。制度があることは、当たり前の前提ではありません。

1.1 4社に1社は制度を持たない

厚生労働省「令和5年就労条件総合調査」によると、退職給付(一時金・年金)制度がある企業は74.9%でした。裏を返すと、24.8%の企業には制度がないことになります。

企業規模別に見ると、差はさらにはっきりします。従業員1000人以上では90.1%、300〜999人では88.8%、100〜299人では84.7%、30〜99人では70.1%でした。

小規模な企業ほど制度を持たない割合が高くなる傾向があります。就業規則や労働条件通知書で、自分の勤め先がどうなっているかを確認しておくのが確実です。

1.2 制度の形は一時金のみが69.0%

制度がある企業を100としたときの内訳は、退職一時金制度のみが69.0%、退職年金制度のみが9.6%、両制度併用が21.4%でした。

受け取り方が一時金か年金かで、かかる税金の種類が変わります。一時金であれば退職所得、年金形式であれば雑所得として扱われるのが原則です。

2. 大学・大学院卒の定年退職者は平均1896万円

次に、実際に支払われている金額を見ていきます。ここで扱うのは、令和4年の1年間に退職した勤続20年以上かつ45歳以上の退職者のデータです。

2.1 退職事由によって金額が変わる

大学・大学院卒(管理・事務・技術職)の退職給付額は、定年が1896万円、会社都合が1738万円、自己都合が1441万円、早期優遇が2266万円でした。

定年と自己都合の差は455万円あります。早期優遇に至っては定年を370万円上回っていて、辞め方によって金額が動くことが読み取れます。

大学・大学院卒(管理・事務・技術職)の退職事由別にみた退職給付額1/2

大学・大学院卒(管理・事務・技術職)の退職事由別にみた退職給付額

出所:厚生労働省「令和5年就労条件総合調査」をもとにLIMO編集部作成

2.2 学歴や企業規模でも差がある

定年退職者の退職給付額を学歴別に見ると、高校卒(管理・事務・技術職)が1682万円、高校卒(現業職)が1183万円、中学卒(現業職)が1059万円でした。

企業規模別では、1000人以上が2191万円、300〜999人が1662万円、100〜299人が1347万円、30〜99人が1282万円です。1000人以上と30〜99人では909万円の開きがあります。

勤続年数別に見ると、20〜24年が1021万円、25〜29年が1559万円、30〜34年が1891万円、35年以上が2037万円でした。平均額はあくまで目安なので、自分の条件に近い区分を見るほうが実感に近づきます。

3. 退職所得控除は勤続20年を境に単価が変わる

退職金は給与とは別に計算される「退職所得」として扱われ、退職所得控除という大きな控除が用意されています。この控除額は勤続年数だけで決まります。

3.1 20年以下は1年あたり40万円

国税庁によると、勤続年数が20年以下の場合の退職所得控除額は「40万円×勤続年数」で計算します。ただし計算結果が80万円に満たない場合は80万円となります。

そのため勤続1年でも2年でも、控除額はともに80万円です。勤続年数に1年未満の端数があるときは、その端数を1年に切り上げて計算します。

3.2 20年を超えると1年あたり70万円になる

勤続年数が20年を超える場合は「800万円+70万円×(勤続年数-20年)」で計算します。20年を超えた部分については、1年あたりの単価が40万円から70万円に上がる形です。

実際の控除額は、勤続10年で400万円、20年で800万円、30年で1500万円、35年で1850万円、40年で2200万円となります。

勤続年数別にみた退職所得控除額と、20年で変わる1年あたりの単価2/2

勤続年数別にみた退職所得控除額と、20年で変わる1年あたりの単価

出所:国税庁「No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)」をもとにLIMO編集部作成

3.3 控除を引いた残りをさらに半分にする

退職所得の金額は「(収入金額-退職所得控除額)×2分の1」で計算します。控除を引いた残りをさらに半分にしたものが、課税の対象になります。

たとえば勤続38年で1896万円を受け取った場合、控除額は800万円+70万円×18年で2060万円です。退職金がこの範囲に収まるため、課税される退職所得は生じません。

一方、同じ1896万円でも勤続30年なら控除額は1500万円です。差額396万円の2分の1にあたる198万円が退職所得となり、所得税と復興特別所得税で約10万2610円、住民税で19万8000円がかかる計算になります。

村岸 理美

家計相談では、退職金の平均額だけを見て老後の計画を立てている方に多くお会いしてきました。まず確認していただきたいのは、ご自身の勤続年数から計算した退職所得控除額です。控除の枠が退職金を上回るのか下回るのかで、手元に残る金額の見通しが変わります。