4. 勤続年数によっても大きく変わる

同じ定年退職でも、勤続年数によって金額はかなり違います。転職を経験した方はここを見ておくと参考になります。

4.1 勤続20年台と35年以上では倍近い差がある

大学・大学院卒(管理・事務・技術職)で定年退職した方の退職給付額を、勤続年数別に見ると次のとおりです。

  • 勤続20年以上25年未満:1021万円
  • 勤続25年以上30年未満:1559万円
  • 勤続30年以上35年未満:1891万円
  • 勤続35年以上:2037万円

勤続20年台前半と35年以上では、1000万円ほどの開きがあります。退職金の計算は勤続年数に応じて支給率が上がる仕組みをとる企業が多く、後半になるほど積み上がり方が大きくなる傾向です。

4.2 転職を考えるときは金額の見込みも合わせて

転職そのものは選択肢の一つですし、収入や働き方が改善することもあります。ただ、勤続年数がリセットされることで退職金の見込みが変わる点は、判断材料の一つに入れておくとよいでしょう。

転職先に退職金制度があるかどうか、あるとして勤続年数がどう計算されるかは、入社前に確認できます。数字が見えていれば、収入の増減とあわせて総額で比べられます。

5. 退職金は翌年の保険料には原則として響かない

筆者は役場で国民健康保険と後期高齢者医療の賦課を担当していました。所得の情報をもとに保険料を計算する立場から、退職された方の相談を数多く受けてきました。

5.1 まとまった額を受け取っても保険料は上がらない

窓口でよく寄せられたのが、「退職金を受け取ったので来年の保険料が上がるのではないか」という相談です。

退職手当は退職所得として、給与や年金とは分けて課税されます。国民健康保険料や後期高齢者医療保険料の所得割は前年の総所得金額等をもとに計算されますが、この退職所得は原則としてそこに含まれません。退職金を受け取ったこと自体で翌年の保険料が上がるわけではないということです。

5.2 切り替えの1年目に負担が重くなる

実際に相談が多かったのは、勤務先の健康保険から国民健康保険に切り替わったときです。前年の給与所得をもとに保険料が計算されるため、収入が下がった年ほど負担感が大きくなります。

この場合、勤務先の健康保険に任意継続被保険者として一定期間残る方法や、家族の被扶養者になる方法もあります。どちらが有利かは家族構成や収入によって変わりますので、退職前に市区町村の担当窓口や勤務先で試算してもらうと判断しやすくなります。

6. 平均額をそのまま自分に当てはめないこと

今回の数字を読むときに、気をつけておきたい点を整理します。

6.1 対象は勤続20年以上かつ45歳以上の退職者に限られる

今回紹介した退職給付額は、勤続20年以上かつ45歳以上で退職した方に限った平均です。それより短い勤続年数の方や若い年齢で退職した方は含まれていません。

また、調査の対象は常用労働者30人以上の民間企業です。30人未満の企業に勤めている方は、この数字の対象外である点も押さえておきましょう。

6.2 退職金は減少の傾向にある

大学・大学院卒の定年退職者の退職給付額は、平成30年の調査では1983万円でしたので、令和5年の1896万円は87万円下がったことになります。制度がある企業の割合も80.5%から74.9%へ下がりました。

不安をあおる意図はありませんが、退職金を老後資金の柱として大きく見込むのは、以前より慎重に考えたほうがよい状況だといえます。

7. 【対応策】まず自分の勤務先の制度を確認する

平均額を眺めるよりも、自分の条件を知るほうが確実です。順番に確認していきましょう。

7.1 就業規則と退職金規程を見る

退職金の有無や計算方法は、就業規則や退職金規程に定められています。勤続年数ごとの支給率や、自己都合の場合の減額率が書かれていることが一般的です。

見方がわからないときは、勤務先の人事や総務の担当部署に聞けば教えてもらえます。金額の見込みが立てば、老後の生活費との差もはっきりします。

7.2 年金の見込み額とあわせて考える

退職金は一時金ですが、老後を支えるのは毎月の年金です。ねんきんネットやねんきん定期便で見込み額を確認し、退職金と合わせて全体像をつかんでおきましょう。

年金の受給開始を遅らせて金額を増やす繰下げ受給という方法もありますが、税金や社会保険料、加給年金などに影響することもありますので、選ぶ前に年金事務所に相談することをおすすめします。

7.3 足りない分は現役のうちから少しずつ

退職金と年金だけでは足りないと感じた場合、NISAのつみたて投資枠やiDeCoを使って備える方法があります。企業型確定拠出年金がある勤務先なら、そちらの掛金や運用商品も確認しておきたいところです。

ただし、いずれも元本割れの可能性があります。iDeCoは掛金が全額所得控除の対象になる一方で、原則60歳まで引き出せず、受取時に課税される場合もあります。向き不向きは家計の状況によって変わりますので、判断に迷うときは金融機関やファイナンシャル・プランナーに相談してみてください。

8. まとめにかえて

会社員の退職金は、定年退職で大学・大学院卒(管理・事務・技術職)1896万円、高校卒(管理・事務・技術職)1682万円、高校卒(現業職)1183万円でした。自己都合退職ではいずれも下がり、大学・大学院卒でも1441万円です。

国家公務員の定年退職の平均は2160万1000円で、会社員の大学・大学院卒より264万1000円ほど高い水準でした。ただし公務員も自己都合退職では345万4000円まで下がりますので、定年まで勤め上げるかどうかで結果が変わる点は共通しています。

まずは自分の勤務先に退職金制度があるかどうか、あるとしていくらになりそうかを確認するところから始めてみましょう。就業規則や人事の担当部署で確認できます。年金の見込み額もあわせて把握しておくと、老後の設計が具体的になります。

参考資料

太田 彩子