4. 半導体事業の強化とTSMCとの戦略的提携
テレビ事業を再編する一方で、ソニーが明確に注力しているのが、利益の柱の一つであるイメージング&センシング・ソリューション分野(半導体)です。
2026年5月8日、ソニーは半導体受託製造企業(ファウンドリ)大手である台湾のTSMCと、次世代イメージセンサーの開発・製造に関する戦略的提携に向けた基本合意書を締結しました。ただしこれは法的拘束力を伴わない基本合意であり、正式な契約はこれからという段階です。
この提携では、ソニーが過半数の株式を保有して支配株主となる合弁会社の設立を検討しています。さらに、熊本県合志市に新たに建設されたソニーの工場への開発・生産ラインの構築や、長崎の既存工場への新規投資も併せて検討していくとしています。
泉田氏は、この提携の狙いについて、すべてを自前で抱え込むのではなく、外部の優れた技術力を組み合わせる戦略だと解説します。TSMCは線幅の細い半導体の製造を得意としており、技術的に進んでいる領域があるといいます。
「一部の領域に関してはむしろ進んでいるので、そっちを活用しますよということだと思います」
なお、半導体事業においては自然災害などのリスク管理も重要です。2026年7月28日に発生した熊本地震では、ソニーの熊本テクノロジーセンターが生産活動を一時停止しました。会社の発表によれば、8月4日から段階的に操業を再開し、8月中旬には地震発生前の稼働水準へ復旧する見込みです。
5. 次の成長軸は「フィジカルAI」とロボティクス
既存の事業ポートフォリオを整理し、エンタメと半導体で利益を稼ぐ体制を固めつつあるソニー。では、その「次」の成長ドライバーは何になるのでしょうか。
そのヒントは、先ほどのTSMCとの提携発表の中に隠されています。基本合意書には、「車載やロボティクスなどの『フィジカルAI』応用分野における新たな機会の探索・対応も進めていく方針」と明記されているのです。
現在、ソニーのイメージセンサーの大半はスマートフォン向けに出荷されています。その一方で会社は、メモリ市況の影響がハイエンド端末の出荷数量に及ぶことを想定し、モバイル機器向けイメージセンサーは前年度から若干の減収を見込むとしています。泉田氏は、この発表に込められたメッセージを次のように読み解きます。
「やっぱり脱スマホとは言わないけども、スマホに加えて何を加えていきますかという話もここでしてるかなと思います」
フィジカルAIとは、デジタル空間だけでなく、現実世界(フィジカル)で物理的に動作するAIのことを指します。その代表例が自動運転車やロボットです。
実はソニーは、これまでも次の一手に向けて布石を打ってきました。ホンダと共同で開発を進めていた電気自動車(EV)の「AFEELA(アフィーラ)」はその一例です。自動車事業そのものはパートナーの事情などもあって一筋縄ではいかない部分もありますが、ソニーが目指す方向性は明確です。
泉田氏は、ソニーが持つ技術的な優位性と過去の経験から、ロボティクス分野への期待を語ります。
「やっぱりこれだけフィジカルAIが期待されている中で、ロボットもソニーは昔やってたので」
ソニーには、かつて家庭用犬型ロボット「aibo(アイボ)」を世に送り出した実績があります。興味深いことに、自動車プロジェクト「AFEELA」の責任者は、かつてaiboを手がけた人物でした。この人事からも、ソニーが「人と接点を持つハードウェア」の開発に強いこだわりを持っていることがうかがえます。
自動運転車であれ、家庭用ロボットであれ、現実世界を認識するためには高性能な「目」が必要です。ソニーはイメージセンサーという「目」を自前で持っています。「頭脳」となるAIシステムは外部の進化を取り入れるとしても、そのAIを搭載して現実世界で人と接するロボットやデバイスをつくることは、まさにソニーの得意領域と言えるでしょう。
6. まとめ
ソニーグループの決算と事業戦略を紐解くと、私たちが漠然と抱いている「家電メーカー」というイメージとは全く異なる、したたかな企業の実態が見えてきます。
売上と利益の大半をゲームや音楽といったエンタテインメント事業と、半導体事業で稼ぎ出す一方で、利益率の低い伝統的なテレビ事業などは他社と組んで自社の外に出しています。この「選択と集中」の積み重ねが、現在の事業ポートフォリオをかたちづくってきました。
そして今、スマートフォン向けの「目」から、車載やロボットなどの「フィジカルAI」向けの「目」へと、新たな成長の種を蒔き始めています。複雑なコングロマリットであるがゆえに全体像が見えにくいソニーですが、一つひとつの事業の動きを丁寧に追うことで、次世代のテクノロジー社会で同社がどのようなポジションを狙っているのかが鮮明に浮かび上がってきます。
※本記事は情報提供を目的としたものであり、特定の銘柄の売買を推奨するものではありません。投資に関する最終的な判断はご自身の責任でお願いいたします。
参考資料
- ソニーグループ株式会社「2027年3月期 第1四半期 決算短信〔IFRS〕(連結)」(2026年7月31日)
- ソニーグループ株式会社「2026年度 第1四半期 連結業績概要(説明会資料)」(2026年7月31日)
- ソニーグループ株式会社「ソニーとTCL、ホームエンタテインメント領域における戦略的提携に関する確定契約を締結」(2026年3月31日)
- ソニーグループ株式会社「ソニーセミコンダクタソリューションズとTSMC、次世代イメージセンサーに関する戦略的提携に向けた基本合意書を締結」(2026年5月8日)
- ソニーセミコンダクタソリューションズ株式会社「令和8年熊本地震の影響について(第2報)」(2026年7月31日)
- YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
各資料の入手先: ソニーグループ株式会社 IRライブラリ
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