ゲーム機の「プレイステーション」、世界的なアーティストを抱える音楽事業、ハリウッド映画、そしてスマートフォンのカメラに欠かせないイメージセンサー。「ソニー」と聞いて思い浮かべる製品やサービスは、人によって全く異なるかもしれません。
しかし、株式市場においてはこの「手広さ」が、投資家を悩ませる要因になることがあります。業績は好調に見えるのに、なぜか株価が力強く上昇しきれない場面が見受けられるのです。一体なぜ、これほど多様な事業で成功を収めているにもかかわらず、その実力が素直に評価されにくいのでしょうか。
この理由について、元機関投資家の泉田良輔氏がソニーグループの事業構造と財務体質を分析し、業績好調の本当の理由と次なる成長戦略を解説します。
- ソニーの現在の最大の稼ぎ頭は「ゲーム」と「音楽」などのエンタメ領域である
- テレビなど利益率の低い事業は他社と提携し、事業の「選択と集中」を進めている
- 次の成長軸として、車載やロボティクスなどの「フィジカルAI」分野に注力している
1. 多彩な事業を抱えるがゆえの「コングロマリットディスカウント」
ソニーグループは、日本を代表するモノづくり企業でありながら、現在ではエンタテインメントや半導体など非常に幅広い事業を展開しています。しかし、泉田氏はこの多角化こそが、投資家にとって「ソニーが何で儲けているのかが見えにくい」という状況を生み出していると指摘します。
聞き手から、売上の柱がいくつもあるのは良いことのようにも思えるが分析は難しそうだ、と疑問が投げかけられると、泉田氏は次のように解説します。
「1つの事業だけやっていれば、正しく成長性が評価されてプレミアムが乗ったりもするんだけど、逆にディスカウントされちゃう」
このように、複数の異なる事業を抱える複合企業(コングロマリット)が、それぞれの事業を単独で行っている企業の合計価値よりも低く評価されてしまう現象を「コングロマリットディスカウント」と呼びます。
投資家から見れば、ゲーム会社の評価軸、コンテンツの権利(ライツ)を持つ企業の評価軸、そして半導体メーカーの評価軸が混在しているため、企業全体の適正な価値を測ることが難しくなります。例えば、半導体事業が大きく伸びていても、他の事業が足を引っ張るリスクを懸念され、実力以上に評価されにくいという構造的な課題があるのです。
2. ソニーは今、何で稼いでいるのか?5つの事業の現在地
では、現在のソニーグループは具体的にどの事業で利益を上げているのでしょうか。2027年3月期第1四半期(2026年4〜6月期)の決算データをもとに、主要5分野の現在地を見ていきましょう。
ソニーグループ全体の同四半期の売上高は2兆8,378億円(前年同期比8.2%増)、営業利益は4,765億円(同40.2%増)と、表面上は大幅な増収増益となっています。しかし、その内訳を見ると、事業ごとの「稼ぐ力」の違いが鮮明に浮かび上がります。
- ゲーム&ネットワークサービス分野(最大の稼ぎ頭)
売上高9,371億円、営業利益2,020億円を記録し、ソニーにとって最大の収益源となっています。
- 音楽分野(意外な成長株)
売上高5,620億円、営業利益1,059億円と、売上規模ではゲームに次ぐ位置まで成長しています。泉田氏もこの成長には驚きを隠せません。
「音楽と映画って昔は僕のイメージとガッチャンコして語ってて、それぞれしっかり利益が出ててはいたんだけど、ここまで大きくなったのかっていう感じはする」
音楽事業がこれほど伸びている背景には、音楽制作における興行・物販からの収入増加や、ストリーミングサービスからの収入増加があります。配信チャネルが増えることで、継続的に収入が増える構造ができあがっているのです。
- 映画分野
売上高3,151億円、営業利益248億円となっています。テレビ番組制作における納入作品数の減少などで減収となったものの、増益を確保しています。
- エンタテインメント・テクノロジー&サービス分野(ET&S)
テレビやカメラなどのハードウェアを含む分野です。売上高は5,439億円と規模は大きいものの、営業利益は426億円にとどまっています。ディスプレイなどの販売台数減少に加え、メモリコストの増加が利益を圧迫しており、他分野に比べて利益率が低いことが課題となっています。
- イメージング&センシング・ソリューション分野(I&SS)
スマートフォンのカメラなどに使われるイメージセンサーを扱う半導体分野です。売上高5,127億円に対し、営業利益は1,222億円を稼ぎ出しています。モバイル機器向けイメージセンサーの製品ミックス改善(より高単価な製品が売れること)や販売数量の増加に加え、為替の好影響もあり、前年同期の営業利益543億円から大幅な増益を達成しました。なお、増益額680億円のうち232億円は為替によるものです。
このように内訳を見ると、現在のソニーは売上の大半を「エンタメ領域(ゲーム・音楽・映画)」で稼ぎ、利益面ではそこに「半導体(I&SS)」が加わるという構造になっていることがわかります。
3. 進む「選択と集中」:テレビ事業の実質的な切り離し
かつてのソニーといえば、テレビやオーディオなどの「黒物家電」のイメージが強い企業でした。しかし、業績データが示す通り、現在のエンタテインメント・テクノロジー&サービス分野(ET&S)は、売上規模に対して利益水準が低迷しています。
この状況に対し、ソニーは過去から続けてきた事業の「選択と集中」をさらに推し進める大きな決断を下しました。2026年3月31日、中国の家電大手TCLとの間で、ホームエンタテインメント領域における戦略的提携の確定契約を締結したのです。
この提携のスキームは非常に大胆なものです。ソニーがホームエンタテインメント事業を承継する完全子会社を設立し、そこにTCLが出資することで、TCLが51%、ソニーが49%を出資する合弁会社とします。新会社の名称は「BRAVIA株式会社」とされ、2027年4月に事業を開始する予定です。
つまり、「ブラビア」というブランド名は残るものの、過半数の株式を握るのはTCLとなり、ソニーにとっては連結子会社から持分法適用の関連会社に変わります。実質的に、売り場に並ぶブラビアは「ソニーが単独でつくるテレビ」ではなくなることを意味します。
聞き手も、黒物家電からの撤退に近い大きな決断だと驚きを示します。泉田氏はこの動きがもたらす企業としての性格の変化について、次のように分析します。
「消費者との接点を減らしていく中で、BtoBに解を見出しているのか。イメージセンサーとかは売る先がスマートフォンメーカーなので完全にBtoBだと思うんだけど、そういう会社になっちゃうのかなという気はする」
利益率の低い消費者向けハードウェア事業から距離を置き、より収益性の高い領域へ経営資源を集中させています。ソニーの「アセットライト(資産を軽くする)」志向は、現在も力強く進行しているのです。
新会社が承継するのはテレビ(BRAVIA)に加え、業務用ディスプレイ、プロジェクター、ホームオーディオなどを含むホームエンタテインメント事業全体です。


