2. 親が亡くなった後の「死後の口座凍結」とATM引き出しのNG行動

生前の認知症による凍結とは別に、親が亡くなった際にも口座は凍結されます。よく「親が亡くなるとすぐに口座が凍結される」と聞くことがありますが、実は亡くなったからといって必ずしも口座が凍結されるわけではありません。

金融機関が口座を凍結するのは、預金者が亡くなった事実を把握したタイミング。そのため、家族が死亡届を提出するまで口座凍結されていないケースも珍しくありません。

ただし、凍結されていないからといってATMで預金を引き出すことはおすすめできません。

親が亡くなった時点で、その預金は相続財産となります。相続財産は相続人全員の共有財産ですので、一部の相続人が単独で引き出す行為は他の相続人の権利を侵害することになりかねません。

たとえ葬儀費用や病院への支払いのためであったとしても、後々相続人間でトラブルになる可能性があります。

2.1 相続放棄ができなくなるリスクも

見落とされがちなのが、相続放棄ができなくなるリスクです。

相続は原則として、故人の「資産」と「負債」の両方を引き継ぐものです。

もし故人に負債がある場合は「相続放棄」という選択肢がありますが、故人の預金を引き出して使用してしまうと、負債も含めて全てを無条件で引き継ぐ「単純承認」とみなされる可能性があります。

後になって「負債があるとわかったので相続放棄したい」と思っても、すでに手遅れとなってしまうリスクがあるため、故人の預金を動かすことはなるべく避けるようにしましょう。

3. 亡くなった後の当座の資金は相続預金の払戻制度を活用しよう

とはいえ、葬儀費用や病院への支払い、遺された家族の当面の生活費など、まとまった資金が急ぎ必要になることもあります。そのような場合は、「遺産分割前の相続預金の払戻し制度」の活用を検討しましょう。

ご存知ですか?遺産分割前の相続預金の払戻し制度2/2

ご存知ですか?遺産分割前の相続預金の払戻し制度

出所:一般社団法人全国銀行協会「ご存知ですか?遺産分割前の相続預金の払戻し制度」

この制度は、遺産分割協議が完了していない段階でも相続人が単独で一定額まで払い戻しを受けられる制度です。

払い戻せる上限額は「相続開始時の預貯金残高×1/3×払戻しを求める相続人の法定相続分」で計算され、同一金融機関からの払い戻しは150万円が上限となっています。

3.1 元気なうちに進めたい「3つの事前対策」

いざというときに慌てずに済むよう、親が元気なうちから以下の3つの準備を進めておくことをおすすめします。

1. 贈与税の基礎控除の活用

贈与には年間110万円の非課税枠(基礎控除)があります。この範囲内で少しずつご家族に資金を移しておけば、親の口座が凍結されても当座の資金として活用できます。ただし、亡くなる数年前の贈与は相続財産に加算されるルール(生前贈与加算)があるため、早めの対策が有効です。また、定期贈与とみなされないよう、毎回契約書を作成するなどの配慮も大切です。

2. 生命保険の活用

生命保険の死亡保険金は、指定された受取人固有の財産となるため、遺産分割協議を待たずにスピーディーに受け取れます。さらに「500万円 × 法定相続人の数」の非課税枠があるため、相続税対策としても有効な選択肢です。

3. 家族での情報共有

「どこにどれくらいの資産があるか」を把握し、通帳や印鑑の保管場所を共有しておくことが、最も基本かつ重要な対策です。

4. 【元銀行員のアドバイス】万が一のときに備えて日頃から話し合っておくことが大切

今回は、親の認知症や死亡に伴う口座凍結の注意点と、具体的な備えについて解説しました。

  • 認知症による「生前の口座凍結」と死亡時の「死後の口座凍結」がある
  • 親が亡くなった後、ATMで安易に預金を引き出すのはトラブルのもと
  • 当面の資金確保には「払戻し制度」や、生前贈与・生命保険の活用が有効

高齢化が進む中、資産の管理や相続の準備は、誰にとっても先延ばしにできない課題です。お金の話は家族間でも切り出しにくいものですが、お盆やお正月など、お互いの顔を見ながら話せる機会をきっかけに少しずつ情報共有を進めていくことが、将来の安心につながるでしょう。

生前の口座凍結と死後の口座凍結は、FPへのご相談の中でもよく混同されがちなポイントです。特に認知症による生前の凍結は、ご本人にとってもご家族にとっても心理的・経済的な負担が大きくなります。生命保険の受取人指定や、誰がどの財産を管理するのかといった話し合いは、親御さんがお元気なうちだからこそできる大切な「家族の絆を守る準備」と言えますね。
村岸 理美

参考資料

椿 慧理