3. 定年後に見落としがちな「増える支出」

3.1 65歳以上夫婦無職世帯は月4万2434円の赤字

総務省統計局「家計調査報告(家計収支編)2025年平均結果」によると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯では、実収入と支出の間に次のような差が生じています。

このモデルケースの夫婦世帯では、1カ月の実収入25万4395円に対して支出の合計が29万6829円となり、毎月4万2434円が不足している状況です。

支出の内訳は、消費支出が26万3979円、税金や社会保険料などの非消費支出が3万2850円です。年金だけでは生活費を賄えず、貯蓄の取り崩しで補っている世帯が多いことがわかります。

3.2 収入の約9割が年金という前提で支出を組み直す

同調査によると、実収入25万4395円のうち約9割にあたる22万8614円は、公的年金などの社会保障給付です。つまり、この世帯の家計はほぼ年金収入だけで動いていることになります。

そのうえで注意したいのが、退職後も減りにくい支出、あるいは増えていく支出の存在です。保健医療費は加齢とともに増えやすく、在宅時間が長くなれば光熱・水道費も下がりにくくなります。通信費も契約を見直さないまま現役時代のプランを引き継いでいるケースが目立ちます。加えて自宅の修繕費や冠婚葬祭の交際費は、毎月ではなく数年に一度まとまった金額で出ていくため、月単位の家計簿からは抜け落ちやすい費目です。

65歳以上夫婦無職世帯の家計収支4/4

65歳以上夫婦無職世帯の家計収支

出所:総務省統計局「家計調査報告(家計収支編)2025年平均結果」

苛原寛
「収入が減れば支出も自然に減る」という思い込みは、老後の家計でいちばん危険な前提だと考えています。実際に減りやすいのは食費や被服費といった、そもそも金額の伸縮幅が小さい費目です。一方で保健医療や光熱・水道、通信といった固定費に近い支出は、生活のかたちが変わっても簡単には落ちません。前職で企業のリスク分析に携わっていた立場から見ても、家計のリスクは「毎月出ていく金額」より「数年に一度まとまって出ていく金額」に潜んでいます。退職後こそ、固定費と臨時支出を洗い出す作業に時間をかける価値があります。

4. 監修者コメント:窓口で感じた「平均額」と「我が家の実額」のギャップ

中本智恵

銀行の窓口で延べ1万名以上のお客様に対応してきましたが、偶数月の15日前後は年金を受け取る方の来店が明らかに増えました。記帳した通帳を見ながら「思っていた金額と違う」とおっしゃる方が、毎回一定数いらしたのを覚えています。理由の多くは、額面から介護保険料や住民税、後期高齢者医療保険料が天引きされていることでした。平均月額15万289円という数字も額面ベースであり、実際に振り込まれる手取りはこれより少なくなります。

もうひとつ多かったのが、支給日ごとに振込額が変わることへの戸惑いです。天引きされる保険料や税額は年度の途中で切り替わるため、同じ年でも支給月によって振込額が動きます。「先月と違うのは何か手続きの漏れがあったのではないか」と心配して来店される方もいましたが、多くは制度上の切り替えによるものでした。年に一度届く年金振込通知書と通帳の記録を突き合わせて確認しておくと、こうした不安はかなり減らせます。

そして、赤字が続く前提で家計を見るなら、受け取れるはずのお金を取りこぼしていないかも同時に確認したいところです。年金生活者支援給付金や高額療養費、自治体独自の助成など、申請しなければ受け取れない制度は少なくありません。窓口でも「その制度、知りませんでした」という反応がとても多かった領域です。どのような給付があるのか全体像をつかんでおきたい方は、60歳・65歳以上がもらえるお金・公的給付金をまとめた記事も確認してみてください。毎月4万円台の不足を、支出削減だけで埋めようとしなくてよくなるかもしれません。

5. 支給日を家計点検日に活かそう

5.1 我が家の年金額と毎月支出を書き出して備える

年金支給日を機に、自分と配偶者の年金見込額、そして毎月の消費支出を紙に書き出しておくと安心です。次回の支給日は2026年10月15日(木)なので、それまでに一度整理しておくとよいでしょう。

厚生年金の平均月額15万289円、男女差5万8554円、家計調査における月4万2434円の不足という数字は、そのまま我が家に当てはまるとは限りません。だからこそ、公的資料の数字と自分の家計を照らし合わせる作業が大切です。

受給額を増やす手段としては繰下げ受給や、働きながら年金を受け取る場合の在職老齢年金の確認が挙げられます。支出面では通信費や保険料といった固定費の削減が即効性があります。ぜひ、老後家計の点検日として活かしてみてください。

参考資料

苛原 寛