5. 「貯蓄は減らしたくない」。お金はあるのに使えないという70歳代の迷いに、ファイナンシャルアドバイザー・横野会由子が答える

日頃のご相談では、貯蓄が足りないという悩みと同じくらい、「貯蓄はあるのに使えない」というお話をうかがいます。減らしたくないという気持ちが強く、手をつけられないまま年数が過ぎていくことも少なくありません。ここでは、70歳代で預金を動かせずにいた方の一事例をもとに、ファイナンシャルアドバイザーの横野会由子さんに伺った考え方を紹介します。

5.1 「子どもに残してやりたい」。貯蓄を減らすことへの抵抗は自然なもの

70歳代になると、これから大きく増やす時間は限られる一方で、次の世代に何を残すかが視野に入ってきます。使えば減るという事実が重く感じられ、必要な場面でも支出をためらいやすくなるものです。相談の場では、次のような声をうかがいます。

70代(ご相談者)
ある程度の蓄えはありますが、貯蓄を取り崩したくはありません。子どもに残してやりたい気持ちもあって、預金のまま置いてあります。ただ、このままでいいのかという迷いもあります。

減らしたくないというお気持ちは、長く蓄えを守ってこられた方にとって自然なものです。使えないことが問題なのではなく、使ってよい範囲がまだはっきりしていないだけ、ということも少なくありません。相談の場では、貯蓄を取り崩さずに使えるお金を生む形があることをお伝えすると、選択肢が広がったと受け止められる方が多くいらっしゃいます。この方の場合も、そこから考え方が整理されていきました。

5.2 【ファイナンシャルアドバイザー・横野会由子が回答】「使わない」ではなく「どこまで使ってよいか」を決める

横野 会由子
貯蓄そのものには手をつけたくないが、老後の楽しみとして貯めてきたお金を使いたいと思っている方は多くいらっしゃる印象です。
投資の方法によっては都度解約が必要となり、増えた分を使えないというケースが発生してしまいます。
老後のためにしっかり使っていきたいという方に向けて、ポイントを3つにまとめたのでお話します。

5.3 ポイント1:貯蓄そのものと、そこから生まれる収益を分けて考える

資産そのものを取り崩すのではなく、利息や分配金として受け取る部分を使う、という分け方です。この考え方に切り替えると、減らしたくないという気持ちと、使う必要とを両立させやすくなります。ただし、記事中の試算のとおり、赤字の全額を収益だけでまかなうには相応の貯蓄額が必要です。受け取れる金額は運用の状況によって変わるため、あらかじめ決まった額が続くものとして家計に組み込まないことが大切です。

5.4 ポイント2:定期的に受け取れる形を選ぶ

決まった時期に一定額が入る仕組みにしておくと、年金以外の収入として家計に組み込めます。使ってよい範囲がはっきりするため、支出への迷いも減ります。相談の場でも、金額の大小より「いつ、いくらまでなら使ってよいか」が見えることで、気持ちが軽くなる方が多いと感じます。

5.5 ポイント3:置き場所を一つに集中させない

預金だけに置いておくと物価の上昇に対して目減りする可能性があり、逆に一つの商品に寄せるとその値動きの影響を強く受けます。目的ごとに分けておくことは、値動きの幅を抑えることを狙う考え方であって、損失を防ぐ仕組みではありませんが、結果として安心して使うことにつながります。

なお、債券や投資信託には元本割れの可能性があり、外貨建ての商品には為替変動の影響があります。分配金や利息の額は運用状況によって変わり、将来にわたって保証されるものではありません。相続に関わる取り扱いはご家庭の事情によって異なりますので、専門家にご確認ください。前提となる資産の状況やご家族の考え方、資金が必要になる時期は一人ひとり異なります。ご自身の状況に当てはめて考える際は、商品の内容や手数料、解約の条件もあわせて確認したうえで、個別に専門家へご相談ください。

6. まとめにかえて|「守るか使うか」ではなく「どこまで使うか」

70歳代・二人以上世帯の貯蓄は平均2416万円、中央値1178万円。一方で65歳以上の夫婦のみ無職世帯は毎月4万2434円の赤字で、年間およそ51万円の取り崩しが必要になります。

今回の試算では、この赤字を貯蓄に手をつけずに収益だけで埋めるには、年利3%でも約1697万円の貯蓄が必要で、中央値では届かないことが分かりました。同時に、使わず預金に置いておいても、年2%の物価上昇が続けば20年で約385万円分の購買力が失われる計算です。

守るか使うかの二択で考えると、どちらを選んでも不安が残ります。毎年いくらまでなら取り崩してよいかという範囲を先に決めておく。それが、必要な場面で迷わずお金を使うための、もっとも現実的な準備になります。

参考資料

横野 会由子