7月28日に厚生労働省が公表した「令和8年度地域別最低賃金額改定の目安について」によると、今年度の最低賃金の引上げ目安はAランク54円、Bランク56円、Cランク56円となりました。目安どおりに改定された場合、全国加重平均は時給1176円となり、昨年度から55円上昇する見込みです。
物価や賃金の上昇が続くなか、老後の生活を支える年金や貯蓄などの資産についても、実質的な購買力の変化を踏まえながら家計を考える重要性が高まっています。
「老後2000万円問題」という言葉を耳にしてから、すでに数年が経ちました。実際に70歳代を迎えた今、自分たちの貯蓄額は世間と比べてどうなのか、気になっている方も多いのではないでしょうか。
金融資産の平均値だけを見ると「2000万円」を超えている一方で、実際の暮らしぶりを左右するのは、平均値ではなく中央値や、毎月の収支のリアルな実態です。年金収入と生活費のバランス次第では、思ったより早く資産が目安を下回ってしまう可能性もあります。
本記事では、70歳代・二人以上世帯の金融資産保有額(平均・中央値)を確認したうえで、年金の平均月額、そして毎月の家計収支の実態を整理し、「今の貯蓄額で何年暮らせるのか」という視点から老後資金を考えていきます。
1. この記事の3つのポイント
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70歳代・二人以上世帯の金融資産保有額は平均2416万円、中央値1178万円と大きな差がある -
中央値をもとに試算すると、毎月の赤字ペースが変わらなければ資産は約23年で目安を下回る -
資産を"取り崩す"ための計画的な考え方を、筆者の相談経験をもとに紹介
2. 貯蓄の中央値1178万円は、老後の赤字を何年分カバーできるのか
まずは、本記事で確認していく2つのデータ、「70歳代・二人以上世帯の貯蓄中央値(1178万円)」と「65歳以上・無職世帯の毎月の家計収支(▲4万2434円)」を組み合わせて、独自に試算してみましょう。
毎月の赤字4万2434円は、年間に換算すると約50万9208円です。この赤字ペースが続くと仮定した場合、貯蓄の中央値1178万円は、何年で目安を下回るのでしょうか。
- 1178万円÷年間50万9208円=約23.1年
70歳から取り崩しを始めたと仮定すると、単純計算では93歳ごろまで、日常生活費の不足分を補い続けられる計算になります。
一方、金融資産保有額の平均値(2416万円)で同じ計算をすると、47年以上という現実的にはあり得ない年数になってしまいます。
この差は、一部の高額資産保有世帯が平均値を大きく押し上げていることの裏返しです。
「平均2416万円あるから大丈夫」と考えるのではなく、より実態に近い中央値をもとに、自分の老後資金がどのくらい持つのかを試算しておくことが大切です。
なお、この試算はあくまで「現在の貯蓄額と、現在の赤字ペースが変わらない」という前提の単純計算です。
実際には、医療費や介護費の増加、住宅の修繕費など、想定外の支出が発生する可能性も十分にあります。
中央値をもとにした「約23年」という数字は、あくまで最低限の目安として捉え、余裕を持った資金計画を立てる材料にしていただければと思います。
3. 【70歳代・二人以上世帯】金融資産保有額の平均と中央値を確認
前章では、貯蓄の中央値をもとに「今の赤字ペースで何年暮らせるか」を試算しました。ここでは、その土台となる金融資産保有額のデータそのものを、もう少し詳しく確認していきましょう。
J-FLEC(金融経済教育推進機構)「家計の金融行動に関する世論調査 2025年」から、70歳代の金融資産保有額(金融資産を保有していない世帯を含む)を見ていきます。
※なお、これから確認する金融資産保有額には、預貯金以外に株式や投資信託、生命保険なども含まれます。また、日常的な出し入れ・引落しに備えている普通預金残高は含まれません。
3.1 金融資産保有額の平均値・中央値
- 70歳代:平均値2416万円、中央値1178万円
前章で確認したとおり、この平均値と中央値の差(1238万円)は、一部の高額資産保有世帯によって平均値が押し上げられていることを示しています。
実際に資産の分布を見ると、その差がより具体的に見えてきます。
- 貯蓄0円(金融資産非保有):10.9%
- 100万円未満:4.5%
- 100万〜200万円未満:5.1%
- 200万〜300万円未満:3.7%
- 1000万〜1500万円未満:11.1%
- 1500万〜2000万円未満:6.7%
- 2000万〜3000万円未満:12.3%
- 3000万円以上:25.2%
このように、70歳代・二人以上世帯の資産分布は「二極化」しているのが実情です。3000万円以上の世帯が全体の4分の1を占める一方、普通預金以外の資産がまったくない世帯も約1割存在し、その差は決して小さくありません。
先ほどの試算はあくまで「中央値1178万円」という一つの目安をもとにしたものです。ご自身の資産額が中央値より多いか少ないかによって、資産が持続する年数は大きく変わってきます。
まずは自分がこの分布のどの位置にいるのかを確認し、そのうえで老後資金の計画を考えることが大切です。
4. 老後収入の柱となる国民年金・厚生年金の平均月額
老後に取り崩せる資産が少ない場合、生活費の大部分を公的年金等の収入に頼ることになります。
では、現代のシニアはどのくらいの年金を受け取っているのでしょうか。
厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」から、国民年金のみを受け取る場合と、国民年金+厚生年金を受け取る場合の平均月額を見てみましょう。
4.1 【国民年金の平均月額】
- 全体 5万9310円
- 男性 6万1595円
- 女性 5万7582円
4.2 【厚生年金の平均月額】
- 全体 15万289円
- 男性 16万9967円
- 女性 11万1413円
※国民年金部分を含む
国民年金の平均月額は5万9310円、厚生年金は15万289円です。
厚生年金は現役時代の給与や加入期間に応じて年金額が決まる仕組みであることから、両者には大きな差があります。
一方、公的年金だけで老後の生活費をすべて賄えるかどうかは、住居費や生活スタイル、退職後も働くかどうかなどによって異なります。
平均受給額は老後の家計を考える際の一つの目安にはなりますが、自分の年金見込み額や毎月の支出をあわせて確認し、必要に応じて貯蓄や資産運用も含めた資金計画を立てることが重要です。
年金収入が少ない方向けに、年金に上乗せで受け取れる「年金生活者支援給付金」という制度もあります。対象者や給付額についてはこちらの記事でくわしく解説しています。あわせてご参考ください。
年金に上乗せでもらえる「年金生活者支援給付金」とは?対象者・給付額・申請方法を解説 緑色・薄緑色・薄橙色の封筒が届いたら確認
5. 【70歳代・二人以上世帯】年金だけで足りる?家計収支の内訳
続いて、総務省統計局「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」から、二人以上の世帯のうち65歳以上・無職世帯の家計収支を見てみましょう。
【収入の内訳】
- 実収入:25万4395円
- うち社会保障給付(主に年金):22万8614円
【支出の内訳】
- 消費支出:26万3979円
- 非消費支出:3万2850円
【家計収支】
▲4万2434円
家計収支を見ると、65歳以上の無職世帯では、毎月約4万2000円の赤字となっています。
ただし、この赤字は「生活が成り立っていない」という意味ではありません。
老後は現役時代に準備した預貯金や退職金を計画的に取り崩しながら生活する世帯も多く、毎月の収支がマイナスになること自体は珍しいことではありません。
一方で、毎月の赤字が長期間続けば、その分だけ金融資産は少しずつ減っていきます。例えば月4万円程度の赤字が続けば、年間では約50万円の資産を取り崩す計算になります。
そのため、老後資金を考える際は、「年金がいくらもらえるか」だけではなく、「毎月どのくらい不足するのか」「その不足分を何年間補える資産があるのか」という視点で家計全体を確認することが大切です。




