9. 定年を控えた50代の資金計画に、「働く」と「運用」の両輪を。ファイナンシャルアドバイザー・木村悦朗の視点
「退職後の生活費が足りるのか」「資産が目減りしていくのが怖い」といった不安は、実際の相談の場でもよく聞かれます。とくに定年退職が視野に入り始める時期には、今後の働き方と資金計画のバランスに悩む方が多いようです。ここからは、定年を控えた50代の方から寄せられることの多いご相談をもとに、ファイナンシャルアドバイザーの木村悦朗さんに伺った考え方をご紹介します。
9.1 50代に多い「厳しいシナリオ」の前で立ちすくんでしまうという悩み
定年が近づくと、これからの収入がいつまで続くのかという見通しと、老後資金が足りるのかという不安が同時に押し寄せます。何度も試算を繰り返した末に、厳しいシナリオの前で手が止まってしまう。ご相談では、次のような声を耳にします。

今後の収入の不確実性と老後資金の不安が重なると、何から手をつければよいか分からなくなります。いつまで働くべきかという悩みは、そのまま老後の資金計画に直結するため、この時期のご相談では中心的なテーマになります。
9.2 【ファイナンシャルアドバイザー・木村悦朗が回答】労働収入と資産、それぞれに役割を持たせる
1つ目は、「働き方と資産の役割を切り分けて考える」こと。2つ目は「漠然とした不安を、具体的な数字に落とし込む」こと。そして3つ目は、「資産の置き場所を分けて、値動きや為替の影響を確かめておく」こと。悩みすぎず、頭を整理してまず一歩を踏み出すことを意識してみると良いと思います。
9.3 ポイント1:働き方と資産の役割を切り分けて考える
まず見直したいのは、今後の働き方と資産の役割を切り分けて考えることです。将来の資金計画を立てるとき、多くの方は「自分がいつまで働けるか」という労働収入の見積もりに意識が向きがちです。
一方で、手元の資産にも役割を持たせるという整理の仕方があります。自分の労働力だけに頼らず、収入源を一つに絞らないという考え方です。仕事の継続性が読みにくい時期には、この切り分けが判断の助けになります。
ただし、資産に役割を持たせることと、その資産が値動きしなくなることは別の話です。運用に回した資金は相場の影響を受けますし、仕事の状況が変わったときに取り崩す必要が出てくることもあります。だからこそ、当面の生活を支える資金は動かさずに確保しておき、そのうえで残りの資産にどう働いてもらうかを考える——この分け方が、仕事の状況に左右されにくい土台になります。
9.4 ポイント2:漠然とした不安を、具体的な数字に落とし込む
そのうえで欠かせないのが、漠然とした不安を具体的な数字に落とし込む作業です。最悪のシナリオを想定して不安が大きくなるのは、現状を直視したからこそ起きることです。最悪のシナリオを描くのは、不安を煽るためではなく、対策を打つための現在地を知るためです。
もっとも、シミュレーションの結果は前提の置き方によって変わります。収入がいつまで続くと見るか、支出をどこまで見込むかで、不足額の姿は大きく動きます。だからこそ一度きりで終わらせず、状況が変わるたびに引き直していくことに意味があります。置いた前提を書き留めておくと、次に引き直すときに何を変えたのかが分かり、比べやすくなります。
9.5 ポイント3:資産の置き場所を分けて、値動きや為替の影響を確かめる
数字が見えてきたら、資産の置き場所を分けて考える段階に入ります。当面の生活を支える資金は動かさずに確保し、その先に使う予定の資金について、円建てと外貨建てのバランスをどうするかといった検討に進みます。長年、貯蓄中心で資産を管理してきた方にとって、値動きのあるものへ移すことには心理的なハードルが伴います。金額を一度に動かさず、範囲を決めて進めていく方法もあります。
なお、外貨建ての資産は為替の動きによって円ベースの評価額が上下するため、どの程度まで組み入れるかは、その資金をいつ使う予定なのかとあわせて判断する必要があります。値動きの性格が異なるものを組み合わせても、損失の可能性がなくなるわけではありません。商品ごとの特性や、手数料がどこで発生するのかは、説明資料や運用報告書で確かめられます。数字とあわせてここまで押さえておくと、提案された内容を自分の物差しで受け止めやすくなります。
老後の資金計画は、「いつまで働くか」という労働の視点と、「資産をどう活かすか」という運用の視点、その両輪で考えることが大切です。最悪のシナリオばかりを恐れて身動きが取れなくなる前に、まずは現状のシミュレーションを引いてみる。そして、お金に働いてもらう仕組みを一つずつ整理していくと、不安の輪郭が数字として掴めるようになっていきます。
なお、必要な資金の額も、適した資産の配分も、収入の見通しや家族構成によって変わります。運用を始める際や資産の置き場所を変える際は、商品の特性と手数料、為替や値動きの影響を、目に見える形で確かめておくことが大切です。
10. まとめ
公的年金は「2階建て構造」で、国民年金と厚生年金では加入対象者・保険料・受給額の決まり方が異なります。2026年度は4年連続の増額となりましたが、実際の受給額は年代・男女・加入状況によって大きな差があることが、一覧表や1歳刻みのデータからも見て取れます。まずはねんきん定期便やねんきんネットで自分自身の見込み額を確認し、繰上げ・繰下げ受給や世帯単位での受け取り方についても、早めに検討しておくとよいでしょう。
参考資料
- 日本年金機構「公的年金制度の種類と加入する制度」
- 日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大」
- 日本年金機構「厚生年金保険の保険料」
- 日本年金機構「国民年金保険料」
- 厚生労働省「令和8年度の年金額改定についてお知らせします」
- 厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 【2026年最新版】老齢年金一覧表『60歳代・70歳代・80歳代・90歳以上』の平均年金月額はいくら?手取りのリアルと5つの公的給付金
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