9月の敬老の日が近づき、離れて暮らす親御さんの目の調子が気になり始めたという方もいるのではないでしょうか。
加齢に伴って発症率が高まる「白内障」は、医療機関が引用する研究報告等によれば、有病率は50歳代で40〜50%程度、60歳代で70〜80%程度、70歳代で80〜90%程度、80歳代以上ではほぼ100%に達するとされ、多くのシニア世代にとって非常に身近な目の病気です。
手術を検討する際、「高額療養費制度があるから、自己負担は一定額に収まる」「年金を受給しているから生活費からやり繰りできる」と考えている方は少なくありません。
しかし、ここで見落とされがちなのが「お金が動くスケジュール」です。病院の窓口で支払う手術代、高額療養費が払い戻される時期、そして年金が振り込まれるタイミングには、実は数カ月の「時間差」が存在します。
この時間差を把握せずに手術を受けると、一時的に手元の現金が減少し、日々の資金繰りに影響が出る可能性があります。今回は、白内障手術にかかる費用の目安と、年金受給者が知っておくべき「お金の流れ」について整理します。
75歳以上が加入する「後期高齢者医療制度」についてはこちらの記事で詳しく触れています。あわせてご覧ください。
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白内障手術で多焦点レンズ(選定療養)を選ぶと、片眼20万〜40万円が自己負担に。高額療養費でも還付されない
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高額療養費は2026年8月改定で一般所得者(1・2割負担)の外来上限が月2万2000円に。還付は診療月の3〜4カ月後
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年金は偶数月15日払いのため、白内障手術を受けた月次第では還付までの数カ月間、手元資金が一時的に薄くなることも
1. 白内障手術の窓口負担はいくら?多焦点レンズは片眼20万円以上も
白内障手術の費用は、年齢や所得による「窓口負担割合」と、選択する「眼内レンズ」の種類によって異なります。
75歳以上の方の場合、医療費の窓口負担割合は所得に応じて「1割」「2割」「3割」に分かれます。最も一般的な「単焦点レンズ(ピントが遠くか近くの1カ所のみに合うレンズ)」を使用して片眼の手術(日帰り)をした場合、窓口で支払う目安はおおよそ次の通りです。
- 1割負担:約1万5000円〜
- 2割負担:約3万円〜
- 3割負担:約4万5000円〜
単焦点レンズは健康保険の適用範囲内となるため、上記のような自己負担額となります。なお、両眼を同一月(月初から月末まで)に手術する場合は、高額療養費制度の上限額が適用されるため、実際の最終的な自己負担額は単純に2倍にはなりません。
一方、遠くにも近くにもピントが合う「多焦点レンズ」を希望する場合は、「選定療養(せんていりょうよう)」という仕組みを利用することになります。選定療養とは、手術の基本的な手技料などには健康保険が適用されるものの、「単焦点レンズと多焦点レンズの差額」は全額自己負担となる制度です。
この差額はレンズの種類や医療機関によって異なりますが、2焦点レンズで片眼20万〜30万円程度、3焦点レンズで片眼30万〜40万円程度かかるケースが目立ちます。両眼であれば50万円以上の出費になることも珍しくありません。
後述する高額療養費制度において、この「レンズ差額部分」は還付の対象外となる点に注意が必要です。
2. 高額療養費と年金、還付までに数カ月の「時間差」が生じる理由
ひと月に支払う医療費が高額になった場合、家計の負担を軽減する仕組みが「高額療養費制度」です。月初から月末までの1カ月間に窓口で支払った医療費が上限額を超えた場合、超過分が後から払い戻されます。
70歳以上の方の、ひと月の自己負担限度額(外来・日帰り手術など)は、2026年8月の制度改定により次のように見直されています。
- 一般所得者(1割・2割負担):月2万2000円(年間上限21万6000円)
- 現役並み所得者I(3割負担):8万5800円+(医療費-28万6000円)×1%
例えば、一般所得者(1割・2割負担)の人が同月に両眼の白内障手術(日帰り)を受け、窓口で3万円(片眼1万5000円×2)を支払ったとします。この場合、1カ月の上限額である2万2000円を超えた「8000円」は、所定の手続きを経ることで後から払い戻されます。
ただし、問題となるのは「いつお金が戻ってくるのか」という点です。以下の3つのタイミングのズレを確認しておきましょう。
- 窓口での支払い:手術日
- 年金の振り込み:2カ月に1回(偶数月の15日)
- 高額療養費の還付:診療月のおおむね3〜4カ月後
例えば、4月中旬に両眼の日帰り白内障手術を実施し、多焦点レンズ(選定療養)を選択したとします。窓口で、保険診療分として約3万円、レンズ差額として40万円を支払ったと仮定しましょう。
公的年金は偶数月(2月、4月、6月……)の15日に、前2カ月分が支給されます。4月15日に振り込まれた年金で4月と5月の生活費を賄うことになりますが、4月にまとまった医療費を支出しているため、次の年金支給日である6月15日まで、手元の現金が一時的に少なくなる可能性があります。
さらに、高額療養費の払い戻しは、医療機関からの請求(レセプト)を審査した後に支給されるため、診療月からおおむね3〜4カ月後となります。4月の診療であれば、窓口負担(3万円)のうち自己負担限度額(2万2000円)を超えた差額(8000円)が口座に振り込まれるのは、7〜8月頃です。
一時的とはいえ「支出から還付までに数カ月の期間が空くこと」「選定療養の多焦点レンズ代の差額は還付されないこと」を踏まえ、事前に資金の準備をしておくことが大切です。
3. 筆者からのコメント
高額療養費制度と混同されやすいものに「医療費控除」があります。
高額療養費が健康保険から自己負担の超過分を払い戻す仕組みであるのに対し、医療費控除は1年間(1月〜12月)に支払った医療費が一定額を超えた場合に、確定申告を行うことで所得税・住民税の負担が軽くなる仕組みです。
両者は別の制度のため、高額療養費として還付を受けた金額がある場合は、その分を差し引いた自己負担額をもとに医療費控除を計算する必要があります。
選定療養の多焦点レンズ代(差額部分)は高額療養費の対象にはなりませんが、治療を目的とした支出であれば医療費控除の対象に含められるケースもあります。
白内障手術のように費用がまとまってかかる年は、高額療養費の還付だけで安心せず、医療費控除もあわせて確認しておくと、翌年の税負担を見直すきっかけになります。
領収書は年内を通して保管しておくことをおすすめします。

