4. マイナ保険証を使えば窓口負担は抑えられる、実際の利用率は?

前ページで見た「窓口での支払い」と「高額療養費の還付」の時間差を、そもそも生じさせない方法があります。

マイナ保険証を利用し、窓口で高額療養費の限度額情報の提供に同意すれば、事前の申請なしで自動的に窓口での支払いが自己負担限度額までに抑えられる仕組みです。従来のように、加入している保険者へ「限度額適用認定証」をあらかじめ申請し、窓口で提示する手間もかかりません

※選定療養のレンズ差額分はこの仕組みの対象外のため、別途窓口での支払いが必要です。

では、この仕組みは実際にどれくらい使われているのでしょうか。厚生労働省の資料によれば、マイナ保険証の利用率(レセプト件数ベース)は2025年10月時点で47.26%です。

年代別(2025年11月時点)では、65〜69歳が48.55%、70〜74歳が49.39%である一方、75歳以上は33.47%と、他の年代に比べて低い水準にとどまっています。

  • 65〜69歳:48.55%
  • 70〜74歳:49.39%
  • 75歳以上:33.47%
  • 全体(レセプト件数ベース、2025年10月時点):47.26%

白内障手術を検討している75歳以上の方にとって、この仕組みは資金繰りの負担を和らげる有効な手段ですが、まだ十分に浸透しているとはいえません。手術を申し込む際は、マイナ保険証の持参と、窓口での限度額情報提供への同意を意識しておくとよいでしょう。

あわせて、年金が振り込まれる偶数月の後半に手術の予定を組む、両眼の手術を同じ月にまとめる、クレジットカード決済に対応した医療機関を選び引き落としを翌月以降にずらす、といった工夫も、手元資金の一時的な目減りを和らげる方法として検討する価値があります。

5. 年金受給世帯の家計にゆとりはあるか?貯蓄現在高の実態

手術のような一時的な出費への備えを考えるうえで、もう一つ押さえておきたいのが、年金受給世帯の家計の余力です。

総務省統計局「家計調査報告(貯蓄・負債編)-2025年(令和7年)平均結果の概要-」によれば、世帯主が65歳以上の無職世帯(二人以上の世帯)の貯蓄現在高は2494万円で、前年から66万円(2.6%)減少し、6年ぶりの減少に転じました。

  • 貯蓄現在高:2494万円(前年比66万円減、▲2.6%減)
  • うち定期性預貯金:778万円(前年比▲81万円減)
  • うち通貨性預貯金:766万円(前年比▲35万円減)

内訳を見ると、流動性の高い定期性・通貨性の預貯金がいずれも減少しています。

高齢無職夫婦世帯(65歳以上)の家計収支4/4

高齢無職夫婦世帯(65歳以上)の家計収支

出所:総務省統計局「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」

また「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」では、標準的な「65歳以上の夫婦のみ世帯」は、ひと月約4万2000円の赤字家計に。生活費の不足分を預貯金の取り崩しで補っている様子がうかがえます。

  • 実収入:25万4395円
  • 実支出:29万6829円
  • 収支:約4万2000円の赤字

年金額は2026年度に国民年金・厚生年金ともにプラス改定となったものの、物価上昇のペースに収入の伸びが追いついていない状況が背景にあるとみられます。ただでさえ取り崩し傾向にある家計に、白内障手術のような一時的な出費が重なれば、資金繰りへの影響はより大きくなり得ます。だからこそ、還付までの時間差を見越した事前の備えが重要になります。

65歳以上世帯の家計収支については、こちらの記事でも詳しく紹介しています。あわせてご覧ください。

【最新データ】老後の「ふつう」が分かる!65歳以上の平均貯蓄額と年金月額は?老後夫婦のリアルな生活費と家計収支を解説
【最新データ】老後の「ふつう」が分かる!65歳以上の平均貯蓄額と年金月額は?老後夫婦のリアルな生活費と家計収支を解説

6. まとめにかえて|「時間差」を見越した資金準備を

白内障手術は身近な医療となっていますが、高額療養費の還付時期や年金の支給スケジュールによる「時間差」には注意が必要です。

特に多焦点レンズを選ぶ場合は、還付の対象とならない自己負担額も大きくなります。

事前に医療費の仕組みを理解し、マイナ保険証の活用や資金計画を立てることで、安心して治療に臨む準備を整えておきましょう。

自分自身や親御さんの窓口負担割合・自己負担限度額がどの区分にあたるかは、加入している後期高齢者医療広域連合や健康保険組合の窓口・ウェブサイトで確認できます。

7. 【筆者コメント】

熊谷 良子

高額療養費制度には、今回の試算では触れていない「多数回該当」という仕組みもあります。

直近12カ月以内に同じ世帯・同じ保険で高額療養費の支給を3回以上受けている場合、4回目以降は自己負担の上限額がさらに引き下げられるというものです。

白内障手術は片眼ずつ日を分けて受けるケースも多く、他の持病の通院・入院と重なる時期があると、この仕組みが該当する可能性もゼロではありません。

該当するかどうか、引き下げ後の具体的な上限額は、2026年8月の制度改定や所得区分によって異なるため、加入している保険者に個別に確認することをおすすめします。

「うちは対象外」と思い込まず、医療費がかさんだ月は明細を保険者に確認してみる習慣を持っておくと、思わぬ払い戻しに気づけることがあります。

参考資料