6. NISAの口座は開いたのに、一歩が踏み出せない。ファイナンシャルアドバイザーからのアドバイス「老後資金の準備のポイント」とは

「人生100年時代」と言われる昨今、長生きした場合の資金不足にどう備えるべきかという不安は、実際の相談の場でもよく聞かれます。ここからは、投資未経験のまま老後資金の準備に向き合うことになった、ある会社員の方の事例をもとに、ファイナンシャルアドバイザーの長井祐人さんに伺った考え方をご紹介します。

6.1 投資未経験の会社員が抱えていた「始められない」理由

会社員のお客様
将来の老後資金に、漠然とした不安があります。自分でシミュレーションをしてみたら、想定以上の金額が必要だと分かって驚きました。「なんとかして備えなければ」というのが、いちばん率直な気持ちです。NISAには興味があって口座開設まではしたのですが、投資の経験がまったくなくて。「オンラインで投資の勉強をしてみたものの、自信がつかずに始められない」という状態が続いています。投資信託には元本保証がないので、自分で銘柄を選んだり、売買のタイミングを判断したりすることには強い抵抗があります。それに、将来のためにと過去に契約した個人年金保険もあるのですが、満期が近づくなかで、このまま持ち続けるべきか、別の方法を考えるべきか迷っています。

老後に向けた資産形成の必要性は感じていても、何から手をつければよいのか分からず立ち止まってしまう。相談の場では、この段階で足踏みされている方に数多くお会いします。

6.2 【ファイナンシャルアドバイザー・長井祐人が回答】まず「今ある資産」から見直す

長井 祐人
「投資は怖いもの」と決めつける前に、いま持っている資産がきちんと働いているかを確かめ、生活を支えるお金と将来のために増やすお金を色分けし、リスクの中身を対話しながら理解していくことで、長生きへの備えは少しずつ手の届くものになっていきます。

6.3 ポイント1:いま持っている資産が効率的に働いているか確認する

まず見直したいのは、いま保有している資産がきちんと働いているかを確認することです。この方は、過去に契約した個人年金保険の運用状況を確認したところ、想定していたより利回りが低いことに気づかれました。昔契約した金融商品が、今の経済状況や自分の目標に合っているかどうか。長く放置したままになっている資産があれば、その役割を一度見直してみる価値はあります。ただし、見直しは「乗り換えれば有利になる」と単純に決められるものではありません。契約時期や商品によっては、解約時に受け取れる額が払い込んだ額を下回ることもあります。保険は保障や最低保証とセットの仕組みである以上、利回りだけを投資商品と並べて比べることもできません。契約内容と解約時の条件を確認したうえで、そのまま続けるのか、役割を組み替えるのかを判断していくことになります。

6.4 ポイント2:生活を支えるお金と、将来のために増やすお金を分ける

そのうえで求められるのが、日々の生活を支えるお金と、将来のために増やすお金を分けて考える視点です。この方は今後の資産形成について、「今の生活を支える収入が確保できているなら、手元の資金には少しでも働いて増やしてもらいたい」と話されていました。当面の生活費や急な出費への備えを先に確保し、そのうえで残った余剰資金を運用に回す——という順番です。運用に回したお金は値動きによって減ることもあるため、この色分けを先にしておくことが、生活に影響を出さずに続けるための条件になります。まとまった資金を一気に投じるのではなく、無理のない範囲で少しずつ仕組みを作っていくことが、長期的な資産形成の土台になります。

6.5 ポイント3:リスクを正しく知り、一人で抱え込まない

また、投資への不安をやわらげるには、リスクを正しく理解し、必要に応じて第三者の視点を取り入れることも有効です。この方は当初、一人で投資を始めることに不安を感じていましたが、「自分一人で勉強するだけでは踏み出せなかったが、手厚いサポートを受けられるなら挑戦してみたい」と話されていました。仕組みやリスクについて対話を通じて理解を深めたことで、前向きな一歩を踏み出されています。為替や金利の変動が資産にどう影響するのかを把握し、一人で抱え込まずに客観的な視点を取り入れる。それは、投資に慣れていない方にとって大きな安心材料になります。ただし、サポートを受けたからといって、値動きのリスクそのものがなくなるわけではありません。最終的にどこまでの変動を受け入れられるのかは、ご自身で確認しておく必要があります。

長生きへの備えを考えるとき、投資は怖いものだと決めつける前に、まずは現状の資産状況を把握し、お金の色分けを行い、リスクについて正しく知る。この三つを一つずつ整理していくだけでも、将来への見通しはずいぶん違って見えてきます。なお、必要な備えの中身は、収入や家族構成、資産の状況によって変わります。保険や運用商品を見直す際は、契約内容や解約時の条件を確認したうえで、個別の事情に応じて専門家にご相談ください。

7. まとめ

厚生労働省年金局のデータで確認すると、厚生年金の平均年金月額は全年齢で15万289円、国民年金は5万9310円でした。65歳以降の年齢別に見ると、厚生年金は14万円~16万円台、国民年金は5万円~6万円台という水準で推移しています。

ただし、これらはあくまで平均値です。1万円刻みの受給額分布を見ると、厚生年金は9万円台から19万円台まで幅広い層に受給者が分布しており、平均額だけで自分の状況を判断することはできません。まずは「ねんきん定期便」でご自身の見込み額を確認し、この分布のどのあたりに位置するかを把握するところから始めてみてはいかがでしょうか。

そのうえで、長生きした場合に何が足りないのかを具体的な金額に置き換えてみる。漠然とした不安を数字にする作業が、次の一歩を決めやすくしてくれます。

参考資料

長井 祐人