4. 2025年年金改正法による遺族年金の見直し

2025年6月に成立した「年金制度改正法」の大きな狙いの一つは、働き方や家族構成の多様化に応じた年金制度の整備です。

今回の改正では、いわゆる「106万円の壁」撤廃に関連する社会保険加入要件の拡大のほか、遺族年金に関する見直しも盛り込まれました。

4.1 遺族厚生年金における男女差の是正

遺族厚生年金の見直し7/7

遺族厚生年金の見直し

出所:厚生労働省「遺族厚生年金の見直しについて」

現在の遺族厚生年金のしくみでは、受給者の性別によって次のような男女差がありました。

現行制度の概要

  • 女性
    • 30歳未満で死別:5年間の有期給付
    • 30歳以上で死別:無期給付
  • 男性
    • 55歳未満で死別:給付なし
    • 55歳以上で死別:60歳から無期給付

こうした男女差の解消に向けた見直しは、2028年4月から施行される予定です。

改正後の制度概要(2028年4月施行予定)

「原則5年間の有期給付」の対象となるための要件が、男女ともに詳細に定められました。

  • 女性:施行直後(2028年4月)に原則5年間の有期給付の対象となるのは、「18歳年度末までのこどもがいない、2028年度末時点で40歳未満の方」です(すでに遺族厚生年金を受給している方や、2028年度に40歳以上になる女性は見直しの影響を受けません)。
  • 男性:新たに5年間の有期給付を受けられるようになるのは、「18歳年度末までのこどもがいない60歳未満の方」です。
  • こどもがいる場合:18歳年度末までのこどもがいる場合は、こどもが18歳年度末になるまでは現行制度と同じであり、見直しの影響はありません。こどもが18歳になった後、さらに5年間は増額された有期給付および継続給付の対象となります。

4.2 有期給付と継続給付の拡充について

配慮が必要な場合の給付についても、金額や要件が具体化されています。

  • 有期給付の増額:有期給付には新たに「有期給付加算」が上乗せされ、現在の遺族厚生年金の額の約1.3倍となります。
  • 継続給付(5年目以降の給付継続)の要件:5年間の有期給付終了後も、障害状態にある方や収入が十分でない方は、引き続き増額された遺族厚生年金を受給できます。単身の場合、就労収入が月額約10万円(年間122万円)以下の方は継続給付が全額支給され、概ね月額20~30万円を超えると全額支給停止となります。

なお、今回の改正では「遺族基礎年金」の見直しも盛り込まれました。同一生計にある父または母が遺族基礎年金を受け取れなかったケースでも、2028年4月からは、こどもが単独で「遺族基礎年金」を受け取れるようになります。

4.3 【シミュレーション】「有期給付加算」で受取総額はどう変わるのか

有期給付加算によって遺族厚生年金の額が約1.3倍になると、5年間の受取総額にはどの程度の差が出るのでしょうか。現行制度で受け取れる遺族厚生年金の月額を2パターン想定して、5年分の総額を比べてみます(厚生労働省が示す「約1.3倍」をもとにした概算であり、実際の金額は個々の加入記録により異なります)。

  • 遺族厚生年金が月6万円の場合:現行 6万円×60カ月=360万円 → 加算後 約7万8000円×60カ月=約468万円(差 約108万円)
  • 遺族厚生年金が月8万円の場合:現行 8万円×60カ月=480万円 → 加算後 約10万4000円×60カ月=約624万円(差 約144万円)

「5年間の有期給付」と聞くと給付が細くなる印象を受けますが、その5年については金額そのものが上乗せされる設計になっています。生活の立て直しに必要な期間へ給付を集中させる、という考え方です。そのうえで、5年経過後も就労収入が月額約10万円以下であれば継続給付が全額支給されるため、「5年で必ず打ち切り」というわけではない点も押さえておきましょう。

渡邉 珠紀

遺族年金の見直しは2028年4月施行とまだ先の話ですが、ご家族の万一に備えた保障設計を考えるうえでは、今から知っておく価値のある内容です。特に男性については、これまで55歳未満で配偶者を亡くした場合に遺族厚生年金が支給されませんでした。ここが変わることで、共働き世帯の保障の考え方は確実に変わってきます。

本記事で紹介した5つの給付金に立ち返れば、いずれも「申請」が受給の入り口です。物価上昇が続くなか、老後の暮らしで給付の取りこぼしがあると、それがそのまま家計の目減りにつながります。今回紹介していない自治体独自の制度もありますので、お住まいの市区町村の窓口や広報誌にも一度目を通してみてください。少しずつ情報を集めながら、使える制度を確実に使っていくことが、ゆとりある暮らしにつながります。

5. まとめ

本記事では、シニア世代が対象となる公的給付金のうち「申請しないと受け取れないもの」を整理しました。老齢年金に上乗せされる加給年金と老齢年金生活者支援給付金、そして雇用保険に関連する再就職手当・高年齢雇用継続給付・高年齢求職者給付金の5制度です。

加給年金は配偶者分だけで年24万3800円、特別加算を含めれば年齢差5歳の夫婦で累計200万円を超えることもあります。それでも、申請しなければ受け取れません。

65~69歳の就業率が男性62.8%・女性44.7%まで高まり、65歳時点の平均余命も男性19.47年・女性24.38年という時代です。就労と公的年金という2本柱に、使える給付金を確実に上乗せしていくことが、長い老後を支える現実的な備えになります。節目のタイミングで、年金事務所やハローワーク、市区町村の窓口に一度確認してみてください。

参考資料

渡邉 珠紀