4. アナリスト予想と会社予想の「1兆円のギャップ」
株価の低迷を読み解くもう一つの視点が、プロの証券アナリストたちの予想と、会社が発表した予想との「乖離」です。
4.1 目標株価の引き下げが相次ぐ理由
投資情報ツール「IFISコンセンサス」を確認すると、トヨタが発表した今期の利益予想(税引前利益ベース)が4兆2,300億円であるのに対し、アナリストたちの予想の平均値は5兆3,482億円となっていました。
実に1兆円以上の開きがあります。
決算発表後、多くの証券会社がトヨタに対する投資判断を「強気」に据え置きながらも、目標株価を引き下げるという動きを見せました。これに対し、泉田氏は機関投資家のメカニズムをこう解説します。
「会社としてはいい。将来性もあると。ただ、自分の利益予想が高すぎたんで利益予想を修正した結果、元々の目標株価だと説明できないんで引き下げますっていうことです」
アナリストたちは、トヨタという企業自体の競争力は高く評価しているものの、自分たちが想定していたよりも会社の出す数字が弱気だったため、計算上の適正株価を下方修正せざるを得なかったのです。
【動画で解説】トヨタ自動車、株価下落とPBR1倍割れの理由は?元機関投資家が最新決算から読み解く
4.2 株価の転機は第1四半期決算に
では、このように下落基調にある株価は、いつ、どのようなきっかけで下げ止まるのでしょうか。泉田氏は今後のスケジュールについて明確な見立てを示します。
「やっぱり鍵になるのが第1四半期の決算なんですよ。これが7月の終わりから8月の頭ぐらいに出てくるんで、その時に会社の予想が保守的だったのかそうじゃないかっていうのが見えてきます」
決算発表後、アナリストたちは会社に対して「なぜこれほど予想が低いのか」と徹底的な取材を行います。
その上で、第1四半期(4〜6月)の実際の業績データが出てきたとき、もし会社の予想が「単に保守的(慎重すぎた)だけだった」と判明すれば、アナリストたちは再び強気に転じ、株価も見直されることになります。
逆に、本当に業績が悪化していれば、株価は会社予想の水準に向けてさらに調整される可能性があります。
5. まとめ
今回のトヨタ自動車の決算は、売上高という表面的な数字は華々しいものの、米国関税や中東情勢といった外部環境に利益が大きく削られる構造が浮き彫りになりました。
世界中でビジネスを展開する巨大企業であるがゆえに、地政学的なリスクやマクロ経済の波を完全に避けることはできません。
当面の株価は、低下したROEの評価と、第1四半期決算での「答え合わせ」を待ちながら、軟調な展開が続く可能性があります。
一方で泉田氏は、トヨタが中長期的な戦略として掲げる「モビリティカンパニーへの変革」や、自動車の枠を超えた「ロボティクス領域」への進出など、新たな成長ストーリーにも注目しています。
参考資料
著者
金融・経済YouTubeチャンネル「イズミダイズム」
「イズミダイズム」は、株式会社モニクルリサーチが運営する金融・経済YouTubeチャンネルです。フィデリティ投信や日本生命でポートフォリオマネージャーや証券アナリストとしての勤務経験のある元機関投資家の泉田良輔が、プロの視点で金融や経済に関する様々なニュースの解説や、資産形成に役立つトピックをお届けします。新NISAの開始やインフレを背景に、個人の資産運用への関心が高まる中、機関投資家と個人投資家の「視点の違い」や、経済ニュースの裏側にある「構造」をロジカルに解説します。(最新更新日:2026年1月30日)
監修者
株式会社モニクルリサーチ
代表取締役/日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)
株式会社モニクルリサーチ代表取締役。その他に株式会社モニクル取締役COO、株式会社モニクルフィナンシャル取締役COOも務める。東京科学大学大学院非常勤講師。日本証券アナリスト協会認定アナリスト(CMA)。慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修了(同研究科最優秀賞受賞)
1. 経歴
2013年に株式会社ナビゲータープラットフォーム(現:株式会社モニクルリサーチ)を原田慎司(現同社取締役)らとともに共同創業。2013年に個人投資家向け金融経済メディア「Longine(ロンジン)」を立ち上げ、編集長に就任。Longineの立ち上げの経緯はBloombergにおいて「体力勝負アナリスト辞めます、元外資マン個人に長期投資指南」として掲載され大きな反響を呼ぶ。投資情報のサブスクモデルを確立する。その後、株初心者向けネットメディア「株1」、2015年にはくらしとお金の経済メディア「LIMO」の前身となる「投信1」を立ち上げる。
それ以前は、日本生命・国際投資部で外国株式ファンドマネージャー、フィデリティ投信・調査部や運用部にて10年に渡ってインターネット、電機(半導体・民生・産業エレクトロニクス)、機械(ロボットやセンサー企業中心)といったテクノロジーセクターの証券アナリストや中小型株ファンドのアシスタント・ポートフォリオ・マネージャー(最年少で就任)として従事。
2. 専門・研究領域
慶応義塾大学商学部卒業。国際金融及びコーポレート・ガバナンスを専攻。アジア通貨危機、昭和金融恐慌などの金融パニックのメカニズムを金融政策や金融機関への規制の観点から研究。それらの内容は「昭和金融恐慌からの教訓 平成恐慌になにをどう生かすべきか」(三田商学研究学生論文集)として発表。
3. 著書
・『機関投資家だけが知っている「予想」のいらない株式投資』(ダイヤモンド社)
・『テクノロジーがすべてを塗り変える産業地図』(クロスメディア・パブリッシング)
・『銀行はこれからどうなるのか』(クロスメディア・パブリッシング)
・『Google vs トヨタ 「自動運転車」は始まりにすぎない』(KADOKAWA)
・『日本の電機産業 何が勝敗を分けるのか』(日本経済新聞出版社)
4. 寄稿や講演他
「日経BizGate」での連載「泉田良輔の新・産業鳥瞰図」や「現代ビジネス」、「東洋経済オンライン」、「プレジデント」などへの寄稿や対談も多数。対談記事例としては「【未来予想】ブロックチェーン革命が、「半沢直樹」の世界に終わりを告げる」や「【未来予想】アマゾンとビットコインが、次世代の「銀行」になる理由」(いずれもNewsPicks)、「米独に遅れる日本の自動運転、自動車も電機の二の舞に?」(週刊ダイヤモンド)。海外ジャーナリストからインタビューされることも多く、Financial TimesやThe Economist、Bloombergにおいて自動車や金融業界についての国内外産業動向コメントも発信している。
講演会や動画での情報発信も盛んに行っており、NewsPicksのTHE UPDATE、日経ビジネススクール、慶應丸の内キャンパス、慶應義塾SDM、アカデミーヒルズなどでも講義を行う。またNewsPicksのNewSchoolではプロジェクトリーダーとして「本当に初心者のための資産運用」を開催。
最終更新日:2026年2月21日