政府が推進する「労働市場の流動化」や、税制調査会で継続的に議論されている「退職所得控除(いわゆる勤続20年の壁)」の見直しなどを背景に、老後資金の要となる「退職金」の受け取り方や税金ルールへの関心が高まっています。

こうした制度変化のニュースに触れる中、長年の勤務の対価として受け取る退職金について、「受け取った後の税金の手続き」に不安を感じる方もいるでしょう。

「自分で確定申告に行かなければならないのか」「手元に届いた源泉徴収票はいつ使うのか」「転職先の年末調整で処理してもらえるのか」など、会社員時代には馴染みのなかった疑問が次々と湧いてくるのではないでしょうか。

結論からお伝えすると、退職金の税金は、勤務先へ事前に「1枚の書類」を提出しておけば、源泉徴収(天引き)によって手続きが完了するため、原則としてご自身での確定申告は不要となります。

本記事では、退職金特有の税務ルールの全体像を解説するとともに、「あえて確定申告をした方が有利になるケース」や「源泉徴収票の正しい取り扱い方」について、解説します。

齊藤 慧
i日本の税制は非常に複雑ですが、退職金に関しては「長年の労をねぎらうお金」として、税金が大幅に優遇される特別な仕組み(退職所得控除や分離課税)が用意されています。

しかし、この優遇措置を正確に受けるためには、所定の手続きを踏むことが前提となります。知らないことによる経済的損失を未然に防ぐためにも、ご自身の状況が「何もしなくてよいケース」なのか、「申告すればお金が戻るケース」なのかを、客観的な事実に基づいて冷静に確認していくことが大切です。

1. この記事の3つのポイント

  •  「退職所得の受給に関する申告書」を勤務先に出せば、確定申告は原則不要。
  •  退職金は給与とは別の税金(分離課税)となるため、転職先の年末調整には含めないのが正解。
  •  書類を出し忘れた場合や、年の途中で退職して再就職していない場合などは、確定申告で税金が還付される可能性がある。

2. 退職金の手続きの基本:「源泉徴収」で完了し確定申告は原則不要

退職金の税金に関する重要なポイントは、「事前に書類を1枚提出していれば、税金の計算と納付は会社が行ってくれるため、原則として確定申告は不要」というルールです。

2.1 「退職所得の受給に関する申告書」の提出

退職する際、勤務先から「退職所得の受給に関する申告書」という書類を渡されるのが一般的です。

この書類に記入し、勤務先に提出しておけば、会社側が「退職所得控除」という大きな非課税枠を適用した上で、正確な税額を計算してくれます。

そして、算出された税金だけが退職金から天引き(源泉徴収)され、手取り額が振り込まれます。

この一連のプロセスで税務上の手続きは完了(課税関係が終了)するため、ご自身で税務署に行って申告する必要はありません。

3. 要注意!確定申告が必要になる・有利になる3つのケース

基本的には確定申告不要の退職金ですが、特定の状況下では、自ら確定申告を行うことで払いすぎた税金が戻ってくる(還付される)ケースがあります。

3.1 ①「申告書」を提出し忘れて一律で源泉徴収された場合

前述の「退職所得の受給に関する申告書」を勤務先に提出しなかった場合、控除(税金を安くする仕組み)が一切適用されず、退職金の支給額に対して一律「20.42%」の税金が源泉徴収されるというルールになっています。

この場合、本来納めるべき税額よりも多く引かれている可能性が極めて高いため、翌年の2月16日〜3月15日の間にご自身で確定申告を行うことで、正しい税額が再計算され、払いすぎた分が還付されます。

3.2 ②年の途中で退職し、年内に再就職しなかった場合

退職した年に再就職しなかった場合、その年の「年末調整」を受ける機会がありません。会社員時代に天引きされていた給与の所得税は、1年間の収入をベースに見込みで引かれているため、年の途中で収入が途絶えた場合は払いすぎになっている場合があります。

この場合も、確定申告を行うことで還付を受けられる可能性があります。

3.3 ③医療費控除や寄付金控除(ふるさと納税等)を受ける場合

その年に多額の医療費を支払った場合や、各種控除を受けたい場合、給与所得だけでは控除しきれない金額があっても、確定申告で計算することで、全体の税負担を軽減できるケースがあります。

4. 退職金の「源泉徴収票」はいつもらえる?捨てずに保管を

退職してから1ヶ月以内を目安に、勤務先から「退職所得の源泉徴収票・特別徴収票」という書類が交付されます。

4.1 実務上のポイント:確定申告の際の重要書類 

この源泉徴収票には、「退職金の総額」や「天引きされた税金額(所得税・住民税)」が記載されています。

原則として確定申告が不要な方にとっては、手元に残る控えという位置づけになりますが、前述のように確定申告を行う場合には、申告書を作成するための正確な数字を確認する必須書類となります。

「もう税金は引かれているから」と破棄せず、少なくとも数年間は大切に保管しておくことをおすすめします。もし紛失してしまった場合は、前の勤務先に依頼することで再発行が可能です。