秋も深まり、ご自身の将来や身辺整理について考える方が増える季節となりました。 近年、「子どもがいない」「親族と疎遠」「結婚していない」といった理由で、遺産を託す先がない人の財産について、社会的な関心が高まっています。
「自分の財産はどうなるのか」「寄付したいけれど手続きが分からない」といった不安を持つ方は多いでしょう。
相続人がいない場合、遺産は最終的に国のもの(=国庫)に入ることになります。
ただし、遺言書や信託、寄付などの制度を活用すれば、自分の想いに沿った形で遺産を託すことが可能です。
この記事では、「相続人がいない場合の遺産の行方」と「取るべき対策」をわかりやすく解説します。
1. 相続人がいないと、遺産はどうなる?
相続人がいない方が亡くなった場合、「遺産は自動的に国庫に入る」と思われがちですが、その行方は遺言書の有無によって大きく変わります。
遺言書がない場合でも、遺産がすぐに国のものになるわけではありません。
まず、家庭裁判所が「相続財産管理人」を選任し、その人が遺産を調査・管理します。
この管理人は、亡くなった方に「相続人がいないか」「債権者や受遺者がいないか」を調べ、関係者を探す役割を担います。
それでも誰も現れなかった場合、最終的に遺産は「国庫」に帰属します(民法第959条)。
つまり、何も対策をしなければ国に引き継がれるということです。
2. どのくらいの遺産が国庫に入っているのか?
最高裁判所のデータによると、相続人がいない遺産のうち、令和5年(2023年)は年間で約1022億円もの金額が最終的に国庫に入っています。
これは「国に没収されたお金」ではなく、引き取り手が見つからなかった遺産です。
少子高齢化や単身世帯の増加により、今後この額はさらに増えると予測されています。
実際、「おひとりさま」と呼ばれる単身高齢者は年々増加しています。
内閣府が発表した「令和7年版高齢社会白書」によると、2020年時点で65歳以上の男性の15.0%、女性の22.1%が一人暮らしをしており、年々増加傾向にあることがわかります。
それに伴い、行く当てがなく国庫に入るお金も増加していくと考えられるでしょう。
3. 不動産の相続登記が義務化へ(2024年4月施行)
こうした「相続財産の放置」を防ぐため、不動産の相続登記申請が義務化されました。
この義務化は、特に相続人がいても手続きが進まないケースを解消することが主な目的ですが、最終的に相続人が見つからず国庫に帰属する不動産を減らすことにも繋がります。
令和6年(2024年)4月1日からは、不動産を相続(取得)したことを知った日、または遺産分割が成立した日から3年以内に相続登記を申請しなければなりません。
もし正当な理由なく登記を怠った場合、10万円以下の過料の対象となります。この義務は、2024年4月1日以前に相続した不動産で、まだ登記をしていない場合にも適用されます。
(詳しくは以下の法務省のHPをご確認ください:法務省「所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し(民法・不動産登記法等一部改正法・相続土地国庫帰属法)」)
この改正は「相続した不動産が放置されて誰のものか分からない」という問題を減らすことが目的とされています。
現在は不動産が対象ですが、遺産の適切な管理・承継は、この先より強く求められていくと思われます。
4. 遺産が「国庫」に行くまでの流れ
では相続人がいない場合、遺産が国庫に帰属するまでにはどのような流れがあるのでしょうか。
4.1 家庭裁判所→管理人→公告→国庫帰属のステップ
① 相続人がいないことの確認
法定相続人がいない、または全員が放棄しているケースなどです
② 家庭裁判所が「相続財産管理人(または清算人)」を選任
相続財産清算人(または管理人)は、被相続人(亡くなった人)の債権者などに対して債務を支払うなど、遺産の清算を行います。その清算後に残った財産を国庫に帰属させる役割を担う人のことです。
主に利害関係がある人や検察官の申し立てで、以下のような手続きを経て、「相続財産管理人」が選ばれます。
③ 公告により相続人・債権者を探す(通常6か月以上)
官報などで公告を出し、名乗り出を待ちます。
④ 特別縁故者への分与
相続人がいなければ、被相続人と関係の深い人(友人・介護者など)が申し立て可能です。
⑤ 残余財産が国庫に帰属
分与後も残った財産がある場合、最終的に国のものとなります。
このように、いきなり国に渡るわけではなく、法的手続きを経て「最終的に」国の財産となる仕組みです。
5. 「特別縁故者」への財産分与制度:親族でなくても、遺産を受け取れるケースがある
相続人がいない場合、亡くなった方に生前に特別な関係を築いていた人が財産を受け取れる「特別縁故者への財産分与制度」があります。
対象となるのは、
- 長年同居していた友人
- 介護や生活支援を行っていた人
- 生前、事業や生活を支えていた人
などで、家庭裁判所に申し立てを行い認められれば、遺産の一部を分与されます。
実際、この制度を知らずに「すべて国に取られる」と誤解している人が多いのが現状です。
6. 遺言書を作れば「遺産の行き先」は自分で決められる
相続人がいない場合でも、遺言書を残しておけば、自分の遺産を特定の人や団体に託すことができます。
たとえば、
- お世話になった友人へ現金を贈る
- 福祉団体や母校などに寄付する
- 動物保護・文化振興団体などへ支援を残す
といった形が可能です。
遺言書があれば、国庫に帰属する前に自身の意思に沿って遺産を活かすことができるのです。
7. 「寄付」や「信託」で想いをつなぐ方法
最近では、遺贈寄付や信託(民事信託・遺言信託)を通じて、自分の財産を社会のために使う人が増えています。
専門家が手続きや執行をサポートする「遺言信託」サービスを提供する銀行もあります。
寄付先としては、
- 日本赤十字社、ユニセフ、大学などの公共団体
- 医療・教育・動物保護・文化財保全などのNPO
などがあります。
日本財団が2023年に発表した「遺言・遺贈に関する意識・実態把握調査」では、遺贈したい団体は「社会的に意義のあることに使ってもらえる団体」(42.5%)がトップとなっており、次いで「自分の意思に沿って使ってもらえる団体」(31.6%)という結果が出ています。
遺言で遺贈先を決めることは、「自分の財産を社会や未来の世代に活かしたい」という想いを、具体的に形にする方法のひとつです。
8. “誰に残すか”を決めておくことが、最後の安心につながる
相続人がいない場合、遺産は最終的に国庫に入ることは法律で決まっています。しかし、遺言書・信託・寄付などの手段をとれば、自分の意志で行き先を決めることができます。
特に、単身世帯や子どものいない夫婦が増える今、「相続人がいない=国庫行き」という現実を他人事と考えるのは危険です。
老後の備えの一部として、「自分の財産をどう活かすか」も考えることが、安心して最期を迎える第一歩です。
遺言書を早めに準備しておくと、安心して人生を締めくくれるかもしれません。
参考資料
- 名古屋家庭裁判所「相続財産管理人選任」の手続とは
- 最高裁判所「特別縁故者に対する相続財産分与」
- 最高裁判所「相続財産清算人の選任」
- 最高裁判所「令和5年度 裁判所省庁別財務書類」
- 内閣府「令和7年版高齢社会白書(全体版)」
- 法務省「所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し(民法・不動産登記法等一部改正法・相続土地国庫帰属法)」
- 政府広報オンライン「知っておきたい相続の基本。大切な財産をスムーズに引き継ぐには?【基礎編】」
- 政府広報オンライン「知っておきたい遺言書のこと。無効にならないための書き方、残し方」
- 全国銀行協会「知ってる?銀行で「遺言」のお手伝い」
- 日本財団「遺言・遺贈に関する意識・実態把握調査」
和田 直子