公的年金は「老後に受け取るもの」というイメージが強いですが、実は現役世代の働き方や将来設計にも大きな影響を与えています。2025年6月に成立した「年金制度改正法」では、標準報酬月額の上限が引き上げられるなど、現役世代にも関わる重要な見直しが含まれています。
特に高収入の働き手にとっては、「たくさん保険料を払っても年金が少ない」といった不公平感が解消される可能性も。今回は「年金制度改正法」のポイントと、とりわけ働き世代に関わる「標準報酬月額の上限引き上げ」について解説します。
1. 【年金制度改正法】何が変わる?働く人への影響とは
「年金制度改正法」は働き方の多様化や男女差の解消など、社会経済の変化に対応しながら年金制度の機能強化を図るものです。今回成立した年金制度改正の全体像についてみていきましょう。
1.1 社会保険の加入対象の拡大
中小企業で働く短時間労働者も、一定の条件を満たせば厚生年金や健康保険に加入できるよう対象を拡大します。これにより、社会保険未加入の非正規労働者にも年金増額などのメリットが広がります。
1.2 在職老齢年金の見直し
年金を受給しながら働く高齢者の年金支給額を調整する仕組みを在職老齢年金制度といいます。この制度は、一定額以上の収入がある高齢者には、年金制度を支える側にもなるという考え方に基づいています。
今回の改正により、年金を受け取りながら働く高齢者の年金が、従来よりも減額されにくくなります。これにより、働く意欲のある高齢者が、これまで以上に長く働きやすい制度へと変わります。
1.3 遺族年金の見直し
遺族厚生年金の支給対象が男女平等となるよう見直され、男女間の不公平が是正されます。従来は夫の死亡に対して妻が遺族年金を受け取れる一方、逆のケースでは制限がありました。今後は、子のある家庭などで「父子家庭」も遺族基礎年金を受け取りやすくなります。
1.4 保険料や年金額の計算に使う賃金の上限の引上げ
厚生年金などの標準報酬月額の上限が段階的に引き上げられ、月収が高い人ほど保険料を多く負担する設計になります。これにより、月収に見合った年金額を将来受け取れるようになります。現在の上限は「65万円」ですが、今後はこの上限が引き上げられることで高所得層の年金額も上昇する可能性があります。
1.5 その他の見直し
iDeCo(個人型確定拠出年金)の加入可能年齢を引き上げ、より長く資産形成が可能になります。また、企業型DC(企業型確定拠出年金)の拠出限度額の拡充や運用状況の「見える化」も進められます。