日本サッカーの特異性は、もう随分と前から国内外で語られてきました。その中で最も注目されてきたといえるのが「守備」における選手たちの動きです。見る人が見れば一風変わった動きともいえ、言い換えれば、それはセオリーに反した動きです。

セオリーに反するとは、いいかえれば自分たちの守備網に「穴」を空けるということになります。となれば、失点は避けようがありません。

しかし、それを逆に言い換えれば、「セオリーに即した守備さえやれば、失点するリスクは大幅に軽減できる」となります。

だからこそ常日頃から「間違いを正確に指摘する」必要がある。正確な分析なくして改善は施しようがないからです。

そして、改善の必要性を訴えるのは、日本がワールドカップの舞台で「ベスト8」「ベスト4」、あるいは「決勝進出」の快挙を果たすために絶対に不可欠であると考えるからです。

セオリーに反したJリーグで起きた「守備」のパターンをピックアップし解説

分析対象試合

  • 鹿島アントラーズ vs 松本山雅FC(明治安田生命J1リーグ 第12節、2019年5月18日)

分析対象シーン

  • レオ シルバ(鹿島)25分得点の場面


ここで2019年の試合を選んだことに大意はありません。これまでに積み重ねてきた分析の一つとして「よりわかりやすい」ものをファイリングしていた中からランダムに取り出したものです。

重要な点は、この手の致命的ミスが2022年の今季もなお同様に続いているということです。

日本でサッカーに関して記事を書く記者の中には、Jリーグの守備を評して「がんばってますアピール守備」「アリバイづくり守備」と呼ぶ人もいます。

自分はこれだけ体を張って守っていますということをアピールするために、例えば〝スライディング〟を絶対にやってはいけない場面でやっている。闇雲に敵のボール保持者に突っ込んでいくというプレーを堂々とやっているのです。そしてそれが咎められることは一切ない。

その理由は高校や大学サッカーでも同じです。理論ではなく「根性」が重要視される我が国の部活制度が持つ特異性ゆえの結果なのでしょうか。

ベテランJリーガーでも犯す不可解な守備とは

では、実際に具体例を見ていきましょう。

着目すべきは白いユニフォームの松本山雅、DF(背番号3)の田中隼磨選手です。

鹿島が松本陣内でボールを回しながら好機を窺っている中、鹿島の右サイドからクロスが入る瞬間(ビデオ=0:16秒、スロー映像=0:43)、ペナルティエリア内で松本が「2対3」の数的不利に置かれていること自体がそもそも極めて不可解なのですが、最も大きな問題はDF(背番号3)の田中選手の動きです。

田中選手が、鹿島の入れたクロスの「ボールを見ていない」ということです。ボールではなく、自分がマークしている鹿島のセルジーニョ(背番号18番)だけを見ている点です。

結果、自陣のエリア内に入ってきたボールを完全に見失っています。ボールを視界から外して一体どうやって守るというのでしょうか。

事実、完全にボールを視界から消している田中は、「1対2」の局面に置かれ、最後は鹿島選手との1対1からあえなくゴールを決められています。
 
これは、セオリーに反したからこその失点。そう断言していいはずです。

田中のキャリア通算は、トータルで569試合出場(J1での出場数は420)。これだけの実績を持つディフェンダーが、このように杜撰な守備を見せていていいはずがありません。

DF陣が守るべきセオリーとは何であったのか

では、ここでいうセオリーとは何か。

敵のクロス攻撃に際してDFは「ボールと自分がマークする選手の両方を見る」という従来の考え方がなおもあるのは事実としても、現在では「トータル・ゾーン」(敵のボール保持者の位置によって守る側の選手全員がポジショニングを決める)がより有効な手段であると考えられています。

ちなみに、この後者の考えでは、自分のポジションを決める上で、相手選手の位置は考慮に入れる必要がない。敵のクロス攻撃に際してDF陣が取るべきポジショニングは予め決められているのです。

つまり、先のセオリーにもとづけば、鹿島の永木(背番号6)がクロスボールを上げる時点で松本山雅のDF陣が本来守るべき場所が決まります。

ところが、松本山雅のDF陣は、永木他の攻撃に参加している選手に意識をとられ、本来いるべき場所よりもゴールから高い位置に張っていることになりました。

田中をはじめとする松本山雅のDF陣がセオリー通りのポジションを取っていれば、またボールの位置に集中していれば、この場面におけるクロスは難なくクリアできていたはずです。

この考え方の違いを一体どのように捉えるか。どちらが合理的と考えるか。改めて考察する必要に日本サッカー界は迫られていると考えるべきでしょう。

イタリアは守備をどう考えるのか

なお、現在のイタリアでトータル・ゾーン(敵のボール保持者の位置によって守る側の選手全員がポジショニングを決める)の使い手は、ラツィオを率いるマウリツィオ・サッリとマルコ・ジャンパオロ監督です。

後者が指揮するのが、他ならぬ日本代表主将・吉田麻也が所属するサンプドリア。今季セリエAの終了までに吉田が監督の課す戦術に順応できるか、目が離せません。

幸いにも今回のW杯の開幕は11月。まだ時間はあります。日本がトータル・ゾーンを身につければ、ベスト8進出の可能性は飛躍的に高まるに違いないと言えるはずです。

参考動画