負債の活用が少ないということは、財務レバレッジ効果を享受できていないことを意味する。財務レバレッジ効果とは平たくいうと、負債を多く活用することでROEが上昇するという作用を指す。ゆえに、ワークマンにはROEの上昇について、大きな改善余地があると考えられる。
また、ワークマンは総資産に占める現預金の比率も44.3%と高い。調達した資金の約4割が運用されていないということになる。買掛金の決済といった日々の資金繰りを理由に多少の現預金は必要となるが、現預金比率についてしまむらの6.1%、AOKIの11.6%、良品計画の12.4%、アダストリアの15.7%といった数値を踏まえると、キャッシュの効率運用という点でも改善余地はあるように感じる。
負債が少ないという点と組み合わせると、ネットD/Eレシオ(有利子負債から現預金を差し引き、それを純資産で割ったもの)は長年-0.6倍と、実質無借金での経営を行っている。
負債を活用せず、手持ちの現預金も多いという要素は安全運転経営につながり、一見すると良い企業に見える。しかし、不特定多数の投資家から資金の効率的運用を任される「上場企業」ともなれば、事情は違う。
ワークマンは現時点で負債の比率が低く、また業績が拡大する中で営業キャッシュフローも年々増加している。加えて、定期預金投資の影響を調整した投資キャッシュフローは各期で営業キャッシュフローに収まる水準であり、銀行や社債投資家からすれば非常に負債を提供しやすい状態だ。この場合、負債による財務レバレッジを活用し、ROEを高めるべきだと投資家は思うだろう。
執筆者
1991年生まれ。新潟県新潟市出身。2022年に株式会社モニクル傘下の株式会社ナビゲータープラットフォームに入社し、現在はメディア事業部・メディアグロース企画推進室マネージャー。くらしとお金の経済メディア「LIMO(リーモ)」を中心に、多くの読者の方に幅広いコンテンツを届けるための戦略立案に従事している。
それ以前は、LIMO編集部にてアシスタント・コンテンツマネージャー(ACM)として従事。第一報として報道されるニュースを深堀りし、読者の方が企業財務や金融に対する知的好奇心を満たしたり、客観的データや事実に基づく判断を身に付けられたりできる内容の記事を積極的に発信していた。
入社以前は、株式会社フィスコにて客員アナリストとして約20社を担当し、アナリストレポートを多数執筆。また、営業担当として、IRツール(アナリストレポート、統合報告書、ESGレポートなど)やバーチャル株主総会サービス、株主優待電子化サービスなどもセールス。加えて、財務アドバイザーとしてM&Aや資金調達を提案したほか、上場企業向けにIR全般にわたるコンサルティングも提供。財務アドバイザリーファームからの業務委託で、数千万~数十億円規模の資金調達支援も多数経験。
株式会社第四銀行(現:株式会社第四北越銀行)、オリックス株式会社でも勤務し、中小・中堅企業向け融資を中心に幅広い金融サービスを営業した。株式会社DZHフィナンシャルリサーチでは、日本株アナリストとして上場企業の決算やM&A、資金調達などのニュースと、それを受けた株価の値動きに関する情報・分析を配信。IPOする企業の事業・財務を分析し、初値の予想などに関するレポートを執筆。ロンドン証券取引所傘下のリフィニティブ向けに、週間・月間レポートで、日本株パートを執筆。経済情報番組「日経CNBC」にて毎月電話出演し、相場や株価の状況も解説していた。
新潟県立新津高等学校を経て、2013年に慶応義塾大学商学部を卒業。学部では、岡本大輔研究会にて企業評価論、計量経営学を専攻していた。
最終更新日:2023/11/03