4. 見込額別に試算する老後30年間の不足額

平均や分布を眺めるだけでは、自分の家計がどうなるかは見えません。そこで、ねんきん定期便の見込額別に、老後30年間の不足額を試算してみます。

生活費は、総務省統計局「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」における65歳以上・単身無職世帯の消費支出の平均、月14万8445円を基準としました。65歳から95歳までの30年間で計算します。

※以下はあくまで一定の仮定に基づく試算であり、将来の実際の年金額や物価動向を保証するものではありません。

4.1 ケース1:生活費も年金額も変わらないと仮定した場合

  • 年金5万円/月:月不足9万8445円 → 年間約118万円 → 30年で約3544万円
  • 年金10万円/月:月不足4万8445円 → 年間約58万円 → 30年で約1744万円
  • 年金15万円/月:月あたり1555円の余裕 → 30年で約56万円の余裕

4.2 ケース2:物価が上がり続けると仮定した場合

続いて、生活費が年1.0%ずつ上昇する一方、年金額は年0.5%ずつしか増えない場合を考えます。この条件では、30年間の生活費の総額は5344万円から6196万円へ、約852万円ふくらみます。

ねんきん定期便の見込額別・老後30年間の生活費不足額シミュレーション4/4

ねんきん定期便の見込額別・老後30年間の生活費不足額シミュレーション

出所:総務省統計局「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」の数値をもとに、一定の仮定(生活費+1.0%/年、年金+0.5%/年)を置いてLIMO編集部が試算・作成

  • 年金5万円/月:30年で約4260万円の不足(ケース1より約716万円増加)
  • 年金10万円/月:30年で約2323万円の不足(ケース1より約579万円増加)
  • 年金15万円/月:ケース1では約56万円の余裕だったが、物価上昇を考慮すると約386万円の不足に転じる

見ておきたいのは年金15万円のケースです。いまの生活費とほぼ同じ水準の見込額があっても、物価の伸びが年金の伸びを上回り続ければ、30年間で約386万円の不足に転じます。

「生活費と年金がほぼ同額だから大丈夫」という判断は、必ずしも安全側ではないということです。

老後資金の目安を出すときは、次の順で見積もっておくと現実的な数字になります。

  1. ねんきん定期便・ねんきんネットで自分の年金見込額を確認する
  2. 見込額と、想定する老後の生活費を比較し、月々の不足額を出す
  3. その不足額を、想定する老後期間(例:30年)で単純にかけ算し、ベースとなる目安額を出す
  4. 物価上昇によって生活費が年金の伸びを上回る可能性を踏まえ、ベースの目安額に上乗せして考えておく

5. 不足に備えるとき、定年前後の世代がつまずきやすいところ

試算で不足額が見えてくると、次に出てくるのは「では、どうすればよいのか」という問いです。ここでつまずく方が少なくありません。

定年が近づき、収入が減る時期を具体的に思い描けるようになってはじめて、手元の資金の置き方を考え始める。そうした順番になるのは自然なことです。

5.1 まとまった資金の扱いに迷う

定年を控える時期は、子どもの独立などの節目と重なりやすく、手元にまとまった資金が残る方もいます。

預けたままでは増えないとわかっていても、値動きのある商品に移すことには踏み切れない。50歳代後半の方から届く悩みは、この迷いに集まります。

投資の経験がないまま老後が近づいたという状況そのものが、判断を重くしているように見受けられます。

5.2 少額から、分散して、資産全体の配分で考える

「まとまった資金がなければ始められない」「損をしたら取り返せない」。こうした受け止め方は珍しくありませんが、いまは新NISAのように少額の積み立てから始められるしくみが整っています。

最初から大きな金額を動かす必要はなく、無理のない範囲で続けられるかどうかのほうが、長い目で見れば効いてきます。

もうひとつは、ひとつの商品に寄せないことです。国内外の株式や債券など、値動きの傾向が異なる資産に分けておけば、価格の振れ幅を抑えやすくなります。運用にあてられる期間が短くなるほど、大きく増やすことよりも大きく減らさないことに重心を置く考え方が現実的です。

そのうえで、運用だけで老後を組み立てないことも大切です。公的年金と預貯金を含めた資産全体を眺め、当面の生活費として使えるお金は手元に残したまま、当面使う予定のない資金を長い期間で育てる。この線引きができていると、途中で慌てて方針を変えずに済みます。

6. まとめにかえて

今回は、見込額別に老後30年間の不足額を試算してきました。

生活費も年金額も変わらないと仮定した場合、年金月5万円で約3544万円、月10万円で約1744万円の不足。年金月15万円なら約56万円の余裕という結果でした。

ところが、生活費が年1.0%、年金が年0.5%の伸びだと仮定すると、30年間の生活費総額は5344万円から6196万円へ約852万円増えます。年金月15万円のケースは、約56万円の余裕から約386万円の不足へ転じます。

厚生年金の受給額分布を見ても、月10万円未満が19.0%と、月20万円以上の18.8%を上回っています。平均額だけを見ていると気づきにくいところです。

不足額が見えたあとに迷いどころとなるのが、手元の資金の扱いです。預けたままでは増えないとわかっていても踏み切れない、という声は定年前後の世代から多く届きます。新NISAのように少額の積み立てから始められるしくみもあり、値動きの傾向が異なる資産に分けておけば、価格の振れはならしやすくなります。

中島 卓哉

老後資金を試算する際は、あらかじめ物価上昇分を見込んで「バッファ(余裕)」を上乗せしておくことが極めて重要です。

具体的な手段として、まずは「ねんきん定期便」で将来の受給見込額を確認し、現在のひと月当たりの生活費と突き合わせて「毎月の不足額」を算出します。

次に、その不足額へ想定される退職後の年数を掛けてベースとなる不足総額を算出します。

そして最後に、その総額に1〜2割ほどの金額をインフレ対策として上乗せしておきましょう。

この「1~2割のバッファ」を最初から計画に組み込めるかどうかで、将来予期せぬ物価高に見舞われた際に、慌てて資産を取り崩すリスクを大幅に抑えることができます。

不足を埋める手段としては、NISAやiDeCoといった税制優遇制度の活用、家計の見直し、就労期間を延ばして厚生年金の加入期間を延ばすことなどが挙げられます。

まずはご自身の見込額を確かめ、生活費と並べるところから始めてみてはいかがでしょうか。

参考資料

中島 卓哉