2. 年金で足りない分、貯蓄は何年もつ?

では、年金だけでは毎月いくら足りないのでしょうか。同じ家計調査の「家計収支編」でみると、65歳以上の夫婦のみの無職世帯では、実収入が月25万4395円、うち社会保障給付(おもに公的年金)が22万8614円で、収入の約9割を占めています。いっぽう毎月の消費支出は26万3979円、税や社会保険料などの非消費支出は3万2850円。差し引きすると、毎月およそ4万2434円が不足する計算です。

この不足は、貯蓄を取り崩して補うことになります。では、その取り崩しは、手元の貯蓄で何年ぶんまかなえるのでしょうか。

2.1 不足額を「1年分」に直して割ってみる

毎月の不足4万2434円を1年分にすると、およそ50万9000円です。これを、65歳以上の無職世帯の平均貯蓄2494万円で割ると、単純計算でおよそ49年ぶんに相当します。中央値に近い1777万円で計算しても、およそ35年ぶんです。

貯蓄は年金の不足を何年ぶんまかなえるか(試算イメージ)2/2

貯蓄を年間の不足額で割ってもつ年数を試算するイメージ

出所:LIMO編集部作成

もちろん、これはあくまで単純な割り算による目安です。それでも、毎月4万円あまりの不足だけを見て不安になるより、「平均的な貯蓄があれば、年金の不足そのものは何十年ぶんもある」と数字でつかめると、受け止め方はずいぶん変わってきます。年金の不足は、多くの夫婦世帯にとって、貯蓄でゆっくり補っていける範囲にあるといえそうです。

2.2 ただし「平均どおり」には進まない

気をつけたいのは、この試算が毎月の生活費だけを前提にしている点です。実際には、家の修繕やリフォーム、車の買い替え、そして医療や介護といった、まとまった支出が節目ごとに発生します。これらは毎月の消費支出には表れにくく、貯蓄を大きく取り崩す要因になります。

たとえば介護が必要になれば、在宅か施設か、期間がどれくらい続くかによって、月々の負担も総額も大きく変わります。住まいのリフォームや車の買い替えも、一度にまとまったお金が動きます。こうした「いつか来る大きな支出」を、毎月の不足とは切り離して見込んでおくことが、取り崩しの計画を現実的なものにします。日々の不足は貯蓄でゆっくり補える一方で、大きな支出への備えは別に確保しておく、と分けて考えるのがおすすめです。

また、中央値に近い1777万円や、300万円未満の世帯にとっては、同じ不足でも取り崩せる年数は短くなります。平均の数字は心強い一方で、自分の世帯がどのあたりにいるのかによって、備え方は変わってきます。まずは自分の年金額と毎月の支出を書き出し、我が家の不足額を確かめることが出発点です。

2.3 物価高に備え、取り崩しながらも一部は働かせる

秋の値上げが示すように、これからも物価が上がっていけば、同じ暮らしでも必要なお金は増えていきます。すべてを預貯金で持っていると、その価値は物価の上昇にゆっくりと目減りしていきます。

だからこそ、すぐに使う予定のない資金の一部は、新NISAのような制度を使い、無理のない範囲で運用を続ける選択肢もあります。ただし投資には値動きがあり、元本を下回る可能性もあります。当面の生活費や医療・介護に備えるお金は、値動きのない預貯金でしっかり確保したうえで、それを超える余裕資金の範囲で考えるのが安心です。取り崩す一方ではなく、一部は働かせる。この組み合わせが、長い老後を支える力になります。

3. まとめにかえて

65歳以上の夫婦世帯の貯蓄は、平均2564万円、中央値1777万円、無職世帯にしぼると平均2494万円でした。いっぽう年金だけでは毎月およそ4万2434円が不足し、その分を貯蓄から取り崩すことになります。年間の不足に直して平均的な貯蓄で割ると、単純計算では何十年ぶんもまかなえる計算です。

大切なのは、毎月の不足額の大きさだけを見て不安になることではなく、手元の貯蓄で何年ぶんをまかなえるのかを、具体的な数字でつかむことです。見通しが立てば、必要以上に怖がらずにすみます。

今日からできる一歩は、年金振込通知書と家計簿を見ながら、我が家の毎月の不足額を書き出してみること。そこに、医療や介護、住まいの修繕といったまとまった支出の見込みを加えれば、これから必要な取り崩しの姿がより正確に見えてきます。小さな数字でも、いちど書き出してみることが、あわてない計画づくりの確かな出発点になります。

そのうえで、当面使わないお金の一部を無理のない範囲で運用にまわし、物価の上昇に備えておく。守りを固めながら、少しだけ攻めを添える。月の年金振込は、その両輪を点検するよい節目になります。数字にしてみれば、漠然とした不安は、我が家に合った具体的な計画へと少しずつ変わっていくはずです。

4. 元証券会社社員の執筆者コメント

私は証券会社で個人のお客様の資産づくりに携わってきましたが、退職後のご夫婦と接して強く感じたのは、シニア世代の貯蓄は「増やす」お金だけというより、「守り、上手に使う」お金だということです。年金の振込月は、その使い方を点検するよい機会になります。まずおすすめしたいのは、年金でまかなえる部分と、貯蓄から補う部分を、紙に書き出して分けてみることです。毎月の不足額に老後の年数をかければ、取り崩しのおおよそのペースが見えてきます。

今回の平均的な数字でみれば、年金の不足は貯蓄で何十年ぶんもまかなえる計算でしたが、大切なのは我が家の数字に置きかえること。医療や介護、住まいの修繕といったまとまった支出も見込んでおくと、より現実に近づきます。そのうえで、当面使わないお金の一部を無理のない範囲で運用し、物価の上昇に備える。守りを固めつつ、少しだけ攻めを添える。この組み合わせが、いちばんの安心につながると感じています。

参考資料

宮野 茉莉子