15. 資産はあるのに、必要になったときすぐには動かせない。持っているものを使える形に並べ替える考え方を、IFA・鶴田 綾が解説
60歳代になると、これまでに買ったものや結んだ契約が手元に積み重なり、預貯金以外の形で持っている部分が増えてきます。前半でみたように、この年代の貯蓄額は世帯ごとの差が大きいのですが、額と同じくらい効いてくるのが、その資産がいつでも使える形になっているかどうかです。ご相談でも、まとまった資産をお持ちの方から、必要になったときにすぐ動かせるのかというご質問をよくいただきます。老後のために貯めてきたのに、いざ使おうとする時期になると手続きや契約の条件が先に立ち、結局そのまま置かれている。そういう形は珍しくないという印象があります。相談の場では次のような声を耳にします。
15.1 一覧にしてみるまで、どこに何をいくら持っているのか自分でも分かっていなかった

「会社員として働いてきて、これまでに債券をいくつか買い、外貨で運用する保険と、介護に備える保険にも入っています。預貯金もまとまった額が残っています。ただ、それぞれをいつ買ったのか、いまいくらになっているのかを一つずつ思い出せませんでした。今回、自分が一体どこにいくら持っているのかを改めて把握できたのが、いちばんよかったと思っています。
老後のためだけにお金を貯めても、健康寿命が尽きたときに使えないのは残念なので、健康なうちに楽しいことにも使いたいのです。とはいえ、どれを先に使ってよいのか、いま持っているものを続けたほうがいいのかが分かりません。次は具体的な金額で見通しを見せてもらいたいと思っています」
相談の場でも、資産はあるけれど、どれがいつ使える形なのかを自分でも整理できていないという方に数多くお会いします。
15.2 【IFA・鶴田 綾が回答】いつ・どうやって出せるのかを書き添えると、使える資産が見えてくる
また、保険と呼ばれているものの中身が何で運用されているのかを確かめ、受け取った利息を手元に置くか元本に加えるかで増え方が変わることを知っておくことも大事です。
まずは、自分が保有している債券や保険などの金融商品の一覧表を作成し、自分の資産がどういう状態かを見える化することが、自分が楽しいことにお金を使うための第一歩です。
15.3 ポイント1:まず、どこに何をいくら持っているかを一枚にまとめる
最初にしていただくのが、持っているものを一枚にまとめる作業です。預貯金、債券、投資信託、保険を、どの金融機関に持っているか、いつ買ったのか、満期や受け取りの時期が決まっているか、いま解約するとどう扱われるかという項目で、同じ表に並べます。ご相談でも、この一覧ができた時点で、自分がどこにいくら持っているのかようやく分かったと言われることがいちばん多いです。持っているものが把握できていなければ、使えるかどうかの判断はできません。一覧ができたら、その先の見通しを金額の入った形で置きます。これから毎年どれだけ使う見込みなのか、どの資産がいつ受け取れる形になるのかを並べると、いま使ってよい部分と、まだ動かさないほうがよい部分が分かれます。見通しは一度で完成しませんので、金額を入れた案を出してもらい、前提を置き換えながら見比べていくのがよいと思います。
15.4 ポイント2:保険と呼ばれているものも、中身は債券であることがある
一覧を作ると、たいてい驚かれるのが保険の中身です。まとまったお金を一度に払い込んで、亡くなったときや介護が必要になったときに受け取れる形の保険があります。この種類の契約では、保険会社が受け取ったお金を主に債券のような資産で運用していて、増える仕組みそのものは、ご自身で債券を買って持っている形に近くなっています。ですから、保険と債券をまったく別の箱として数えてしまうと、実際には同じ性格のものを重ねて持っていることに気づけません。反対に、保険の形をとることで、受け取る相手を指定できる、受け取り方によって税の扱いが変わるといった、債券にはない性質も加わります。名前で分けるのをやめて、中身は何で運用されているのか、いつ誰がどう受け取れるのかという二つの軸で並べ直していただくと、重なりも役割の違いも見えてきます。税の扱いは契約の内容やご家族の状況によって変わりますので、判定が必要な部分は税を専門とする方に確かめてください。
15.5 ポイント3:同じ利率でも、利息を手元に置くか元本に加えるかで増え方が変わる
増え方についても、一度確かめておきたい違いがあります。同じ利率で同じ期間持っていても、受け取った利息をそのまま手元に置くのか、元本に加えて次の期間も運用に回すのかで、最後に手元に残る額は変わります。利息を受け取るたびに使う形は、決まった時期に決まった額が入ってくる代わりに、増え方は一定のままです。利息を元本に足していく形は、途中で受け取れる現金はありませんが、年を追うごとに増える幅が大きくなっていきます。どちらが良いという話ではなく、使う時期によって向き不向きが分かれるだけです。生活の足しとして毎年受け取りたいのであれば前者が向きますし、十年以上先まで手をつけないのであれば後者に置いておくほうが働きます。いま持っているものがどちらの形になっているかは、契約の書面か取引の明細で確かめられます。健康なうちに使いたい部分があるなら、その分は受け取る形のものに寄せておくと、使うたびに元本を崩す判断をしなくて済みます。
15.6 ポイント4:外貨で持つ部分は、損益の分かれる地点と全体に占める割合の両方で決める
外貨で運用する部分については、二つのことを決めておきます。一つは、損益の分かれる地点です。外貨で持つと、外貨のままでの利率が高く見えても、円に戻すときの為替の水準によって手元に残る額は変わります。買ったときの為替の水準と、受け取るまでに積み上がる利息の分を並べると、円に戻したときに払い込んだ額を下回るのはどのあたりの水準か、という目安が出ます。この地点を先に知っておくと、円安のときに慌てて動かしたり、円高のときに損が確定したように感じて固まったりせずに済みます。もう一つは、全体に占める割合です。外貨で持つ部分を資産全体のなかでどれだけの厚みにするかを決めておきます。使う時期が近いお金を外貨で持つと、円に戻す時期を選べません。反対に、当面使わない部分であれば、円だけで持つよりも通貨を分けておく意味があります。為替の水準や利率の条件、円に戻すときにかかる費用は契約ごとに異なりますので、具体的な数字は金融機関の窓口で確かめてください。
資産があることと、それが使える状態にあることは別の話です。健康なうちに使いたいという希望があるのなら、その希望を先に置いて、どの資産がその時期に間に合うのかを確かめる順番になります。これは一つの考え方であり、契約の条件や税の扱い、円に戻すときの費用は、商品の内容やご本人の状況によって異なります。まずは持っているものを一枚にまとめ、受け取りの時期が決まっているものに印をつけるところから始めてみてください。そのうえで、中身や条件の読み方は、金融機関の窓口や税の専門家に確認しながら進めていただければと思います。
16. まとめにかえて
70歳代・二人以上世帯の貯蓄額は平均2416万円、中央値1178万円で、3000万円以上を持つ世帯が25.2%ある一方、金融資産を持たない世帯も10.9%ありました。厚生年金の平均年金月額は〈全体〉15万289円、国民年金は〈全体〉5万9310円です。判断能力が低下したとみなされて口座が動かせなくなり、専門職が後見人に選ばれた場合の報酬を月2万〜3万円で8年・12年と置くと、合計は192万円から432万円になり、中央値1178万円の約16.3%から約36.7%にあたる計算でした。額を増やしておくことと、必要になった月にその額を動かせるようにしておくことは、別々に手をつける対象です。まずは手元の口座と契約を書き出して、どれがどんな条件で引き出せるのかを並べてみてください。そのうえで、口座の扱いは取引のある金融機関の窓口で、成年後見や任意後見の手続きは家庭裁判所や法律の専門家に確かめながら進めてください。
参考資料
- 【70代の貯蓄・年金・家計のリアル】老後赤字を加速させないためには?投資に頼らない防衛策を徹底解説!
- 【75歳からの医療費】いちばん重い「3割負担」になる年収はいくら?老後の家計を左右する判定基準をズバリ解説
- 厚生労働省「年金制度改正法が成立しました」
- 厚生労働省「健康寿命の令和4年値について」
- 厚生労働省「令和5年簡易生命表の概況」
- 金融経済教育推進機構「家計の金融行動に関する世論調査 2025年」
- 厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- 総務省統計局「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」
鶴田 綾
