6. 30歳代に多い「子どものために何かを始めたいが、いまの積立に何を足すか決められない」というご相談。IFA・鶴田 綾が伝えたいこと

30歳代は、家族の形が変わる時期と、はたらき始めてからの貯蓄がある程度たまってくる時期が重なります。前半でみたように、同じ年代のなかでも手元にある額の幅は大きく、真ん中に立つ人の額と、平均として示される額は同じものではありません。郵便局のリテール営業で、はたらく世代のお金のご相談に応じてきた立場から感じるのは、自分がどのあたりにいるのか分からないままだと、足すか足さないかの判断がいつまでも先に延びるということです。すでに積立を始めている方ほど、続けられていること自体を成果として数えず、まだ何か足りないのではないかと感じておられる印象があります。相談の場では次のような声を耳にします。

6.1 30歳代に多いお悩み相談は「続けている積立があるのに、次の一手が決められない」

30歳代(ご相談者)
「会社員として働きながら、非課税で投資できる制度の口座で少しずつ積み立てていて、保険でも運用にあたる部分を持っています。手元にはまとまった預貯金も残っています。子育てが始まる時期を迎えて、この子のために何かを始めたいと思うのですが、いまの積立に何を足せばいいのかが決まりません。教育費のための商品を新しく契約したほうがいいのか、いま持っているものを増やすほうがいいのか、判断がつかないのです。配偶者は投資の経験がほとんどないので、二人で話し合うにも何から説明すればいいのか分かりません。子どものために何かを始めるにしても、これまでの運用と合わせて長く続けられる方法を考えたいと思っています」

相談の場でも、すでに積立を始めているのに、家族が増える時期を迎えて次の一手が決められないという方に数多くお会いします。

6.2 【IFA・鶴田 綾が回答】足すものを決める前に、いま持っているものを一つの表に並べる

鶴田 綾
「子どものために、何か新しいものを増やさなければ」と決めつける前に、いま続いている積立はそのまま続けることを前提に置き、保険の中で保障にあたる部分と増える部分を分けて考えましょう。
また、教育費は生活費と混ぜずに別に置いておくことも大事です。
さらに、進学の節目までの長さで、教育のためのお金を預金で置いたり学資保険で備えたり、投資を活用して準備する等、お金の持ち方を変えることも意識しておきましょう。
気をつけたい点としては、世代をまたぐお金にかかる税の扱いや手続きは専門家に確かめておいて、将来税務署から不要な指摘を受けないように注意しておきましょう。

6.3 ポイント1:続けられている積立は、増やす前に「続ける」ことを前提に置く

まず確かめていただきたいのが、すでに続いている積立です。非課税で投資できる制度を使った積立は、始めることよりも続けることのほうが難しく、何年も止めずに来られているのであれば、それ自体が土台になっています。子どもが生まれる時期には、家計の出入りが一度大きく動きます。ここで積立を止めてしまうと、再開するときにもう一度金額や対象を決め直すことになり、そのまま止まったままになることも少なくありません。ですから、新しいものを足すかどうかを考える前に、いまの積立を止めない形にしておくことを先に決めます。金額はあとから変えられますし、負担が重いと感じるなら減らして続けるという選択もあります。増やすか減らすかは調整の話で、続いているかどうかは前提の話です。この二つを混ぜないでいただくと、判断はずいぶん軽くなります。

6.4 ポイント2:保険で持っている部分は、保障と増える部分に分けて数える

次が保険です。保険で運用にあたる部分を持っている場合、契約は一つでも、なかでは役割が二つに分かれています。一つは、万一のことがあったときにご家族へ残るお金という保障の役割です。もう一つは、払い込んだお金が運用され、途中でやめたときや満期を迎えたときに戻ってくる部分という、増えることをねらう役割です。この二つを合わせて一つの金額として見てしまうと、保障が足りているのかも、増える部分が期待どおりなのかも判断できません。ですから、いまの契約について、保障はいくらの備えなのか、運用にあたる部分は何にどう投資されているのか、途中でやめたときにどう扱われるのかを、契約の内容をまとめた書面で分けて確かめていただきます。教育費のために受け取る時期を決めておく形の保険も同じで、保障の部分と受け取りの部分を分けて数えると、ほかの積立と並べて比べられるようになります。

6.5 ポイント3:教育費は生活費と混ぜず、進学の節目までの長さで持ち方を変える

そのうえで、教育費を生活費とは別の枠として切り出します。子どもにかかるお金は、毎年の学費のように使う時期が決まっているものと、進学の節目のようにまとまって出ていくものに分かれます。前者は元本が動きにくい置き場所に置いておく形が向きますし、後者のうち十数年先に迎えるものは、値動きのある資産で時間をかけて育てる余地があります。ここで役に立つのが、お金を目的ごとに分けて置くという考え方です。生活費、数年内に使う予定のあるお金、教育費、老後のためのお金を同じ口座に混ぜず、目的の分だけ分けておきます。分けておくと、相場が下がった局面でも、これは十数年先まで使わない分だと確かめられるので、慌てて手放さずに済みます。子どものために支給される仕組みのお金がある場合も、生活費に混ぜず教育費の側に寄せておくと、あとから振り返りやすくなります。支給の条件や金額は制度の内容やご家庭の状況によって変わりますので、お住まいの窓口で確かめてください。

6.6 ポイント4:世代をまたぐお金には非課税の枠と書き残す手続きがあり、税の判定は専門家に確かめる

もう一つ、ご夫婦で話し合うときに出てくるのが、世代をまたぐお金の話です。ご自身の親から受け取るお金、あるいはご自身から子どもへ渡すお金には、一定の額までは税がかからない枠が設けられている場合があり、保険のように受け取り方によって別の枠が使える形もあります。また、誰に何を渡すかという意思を書き残しておく手続きがあり、書き方や保管の方法にも決まりがあります。ここは、金額の大小よりも、条件を満たしているかどうかで結論が変わる領域です。枠の額や適用の条件、書き残すときの要件は、制度の内容やご家族の状況によって異なりますし、判定には税の専門的な知識が必要になります。ご相談の場でも、この部分は税理士など税を専門とする方に確かめていただくようお願いしています。積立の話と同じ場で決めようとせず、確かめる相手を分けておくほうが、話は前に進みます。

子どものために何かを始めたいという気持ちは、新しい契約を増やすことだけでは満たされません。いま続いているものを止めずに置き、保険の中身を分けて数え、使う時期で区切っておけば、足すべきものがあるかどうかは自然に見えてきます。これは一つの考え方であり、必要な備えの大きさや、使える制度の条件、税の扱いは、ご家庭の状況や制度の内容によって異なります。まずはいま持っている積立と保険を一枚の紙に書き出し、ご夫婦で同じものを見るところから始めてみてください。そのうえで、判断に迷う部分は金融機関の窓口や税の専門家に確認しながら進めていただければと思います。

7. まとめにかえて

単身世帯も二人以上世帯も、年代が上がるほど平均と中央値の開きは大きくなります。単身の70歳代は平均1489万円に対して中央値500万円、二人以上の50歳代は平均1908万円に対して中央値700万円でした。平均だけを見ていると、自分の位置を実際より低く見積もることになります。

試算では、二人以上世帯の中央値を毎月4万2434円の不足額で割って年数に置き換えました。60歳代の中央値1400万円は約27.5年ぶん、70歳代の中央値1178万円は約23.1年ぶんです。同じ60歳代でも、平均2683万円を出発点にすると約52.7年ぶんとなり、約25.2年ぶんの開きが出ます。どちらを自分の姿として置くかで、計画の形は大きく変わります。

まずは、ご自身の年代の中央値に印を付けて、いまの残高との差を書き出してみてください。そのうえで、受け取れる年金の見込み額はねんきん定期便やねんきんネット、年金事務所の窓口で確かめていただくのが確実です。値動きのある資産には元本割れが起こる可能性があり、税や制度の条件も今後変わることがあります。

参考資料

鶴田 綾