9月は、夏に受け取った賞与が手元にどれだけ残ったかが見えてくる時期です。通帳の残高をあらためて眺めて、この額は多いほうなのか少ないほうなのかと考える方も多いのではないでしょうか。

そのときに目に入りやすいのが、貯蓄額の「平均」です。ただ、平均は一部の大きな金額に引っ張られて動きます。自分の位置を測る物差しとしては、真ん中に立つ人の額である「中央値」のほうが手がかりになります。

ご相談でも、平均を見て落ち込んでいた方が、中央値を並べたとたんに「それなら話ができる」と表情を変えられることがあります。中央値を出発点に置くと、いくら足りないのか、その差は何年ぶんにあたるのかというところまで話が進みます。この記事では、単身世帯と二人以上世帯の中央値を年代別に確かめたうえで、その中央値が老後の毎月の不足額を何年ぶん埋められるのかを計算します。

鶴田 綾
平均を見て手が止まってしまう方には、まず同じ表の中央値のほうを指でたどっていただきます。数字が下がると気持ちが軽くなる、という話ではありません。自分と同じ側に立っている人の額が分かると、次に何をどれだけ動かすかが決めやすくなります。

なお、全世代(20~70歳代)の貯蓄額に関する詳しい解説は、下記の記事より一部を引用・参照しています。本文中の引用部分は引用ブロックで示しています。

【全世代(20~70歳代)比較】貯蓄額の平均・中央値はいくら?単身・二人以上世帯で比較すると見えた「お金がある人・ない人の差」
【全世代(20~70歳代)比較】貯蓄額の平均・中央値はいくら?単身・二人以上世帯で比較すると見えた「お金がある人・ない人の差」

1. 【単身世帯の貯蓄額】40歳代の平均859万円で中央値100万円「この差はなに?」

最初に見るのは、J-FLEC(金融経済教育推進機構)「2025年家計の金融行動に関する世論調査」の単身世帯の金融資産保有額です。金融資産を保有していない世帯も含めた数字で、各年代の平均と中央値が並んでいます。

世帯の形ごとに数字を並べて見比べたい方は、【全世代(20~70歳代)比較】貯蓄額の平均・中央値はいくら?単身・二人以上世帯で比較すると見えた「お金がある人・ない人の差」にまとめています。

ここでいう金融資産は、預貯金のほかに株式や投資信託、生命保険などを含みます。日常の決済に使う普通預金の残高は数に入りません。給与が振り込まれてそのまま生活費として出ていく口座の残高は対象外だと考えると、手元の感覚より低めに出やすい数字です。

単身世帯の平均貯蓄額1/2

単身世帯の平均貯蓄額

出所:J-FLEC金融経済教育推進機構「2025年家計の金融行動に関する世論調査」をもとにLIMO編集部作成

1.1 20歳代・単身世帯では、真ん中に立つ人の貯蓄がいくらになるのか

  • 金融資産非保有:33.2%
  • 100万円未満:24.6%
  • 100~200万円未満:10.2%
  • 200~300万円未満:7.1%
  • 300~400万円未満:5.5%
  • 400~500万円未満:3.1%
  • 500~700万円未満:5.8%
  • 700~1000万円未満:2.6%
  • 1000~1500万円未満:2.4%
  • 1500~2000万円未満:1.1%
  • 2000~3000万円未満:0.5%
  • 3000万円以上:0.7%
  • 無回答:3.1%
  • 平均:255万円
  • 中央値:37万円

平均は255万円ですが、中央値は37万円です。この年代で平均を物差しにすると、ほとんどの人が「足りない側」に振り分けられてしまいます。

分布を見ると、金融資産非保有が33.2%、100万円未満が24.6%で、この2つで6割近くを占めます。はたらき始めて数年という人が多い年代ですから、手元の額が小さいこと自体は珍しくありません。

その一方で、3000万円以上が0.7%います。人数としてはわずかでも、金額が桁違いに大きいため、平均のほうだけが持ち上がります。中央値37万円と平均255万円の開きは、この構造から生まれています。

1.2 30歳代・単身世帯で、真ん中の額と平均の開きはどこまで広がるのか

  • 金融資産非保有:32.3%
  • 100万円未満:14.2%
  • 100~200万円未満:14.2%
  • 200~300万円未満:4.9%
  • 300~400万円未満:4.3%
  • 400~500万円未満:2.8%
  • 500~700万円未満:5.5%
  • 700~1000万円未満:3.1%
  • 1000~1500万円未満:5.5%
  • 1500~2000万円未満:4.3%
  • 2000~3000万円未満:2.5%
  • 3000万円以上:3.4%
  • 無回答:3.1%
  • 平均:501万円
  • 中央値:100万円

平均は501万円、中央値は100万円です。20歳代からは中央値も63万円伸びていますが、平均のほうは246万円伸びており、開きは大きくなっています。

1000万円以上を持つ層が15.7%まで増えたことが、平均を押し上げています。一方で金融資産非保有は32.3%で、20歳代とほとんど変わりません。同じ年代のなかで、伸びていく層と動かない層に分かれ始める時期です。

この年代でご相談を受けていると、平均の501万円を見て「自分は半分にも届いていない」と感じておられる方が多い印象があります。中央値の100万円を先に見ていれば、受け止め方はかなり変わるはずです。

1.3 40歳代・単身世帯は、中央値が前の年代から動いたのか止まったのか

  • 金融資産非保有:32.1%
  • 100万円未満:15.1%
  • 100~200万円未満:7.1%
  • 200~300万円未満:5.9%
  • 300~400万円未満:4.3%
  • 400~500万円未満:2.2%
  • 500~700万円未満:6.2%
  • 700~1000万円未満:4.6%
  • 1000~1500万円未満:6.2%
  • 1500~2000万円未満:1.2%
  • 2000~3000万円未満:2.8%
  • 3000万円以上:9.9%
  • 無回答:2.5%
  • 平均:859万円
  • 中央値:100万円

平均は859万円で、30歳代から358万円増えています。ところが中央値は100万円のままで、30歳代から動いていません。

理由は分布に出ています。3000万円以上が9.9%まで増えた一方で、金融資産非保有は32.1%で30歳代とほぼ同じです。上の層だけが伸びると、平均は上がっても真ん中の位置は変わりません。

この「平均だけが上がって中央値が止まる」形は、年代が上がるほど強く出ます。年代別の一覧を眺めるときは、平均の伸び幅と中央値の伸び幅を別々に追っていただくと、実態が見えやすくなります。

1.4 50歳代・単身世帯で、貯蓄を持たない人の割合はどう変わるのか

  • 金融資産非保有:35.2%
  • 100万円未満:10.1%
  • 100~200万円未満:7.4%
  • 200~300万円未満:4.6%
  • 300~400万円未満:2.7%
  • 400~500万円未満:3.3%
  • 500~700万円未満:4.9%
  • 700~1000万円未満:4.6%
  • 1000~1500万円未満:6.0%
  • 1500~2000万円未満:3.3%
  • 2000~3000万円未満:5.5%
  • 3000万円以上:10.4%
  • 無回答:1.9%
  • 平均:999万円
  • 中央値:120万円

平均は999万円で1000万円に迫りますが、中央値は120万円です。40歳代から中央値が伸びたのは20万円分にとどまります。

注目したいのは、金融資産非保有が35.2%と、ここまでの年代で一番高くなっている点です。40歳代の32.1%より高く、3人に1人を超えています。50歳代に入っても手元の資産が積み上がっていない人が、割合としてはむしろ増えています。

同時に、2000万円以上の層は合計で15.9%あります。老後が視野に入る年代で、備えの厚みの差がはっきり分かれている状態です。

1.5 60歳代・単身世帯は、中央値がどこまで上がるのか「3000万円以上の層もあわせて確認」

  • 金融資産非保有:30.4%
  • 100万円未満:9.1%
  • 100~200万円未満:4.3%
  • 200~300万円未満:2.4%
  • 300~400万円未満:4.5%
  • 400~500万円未満:3.1%
  • 500~700万円未満:6.0%
  • 700~1000万円未満:4.8%
  • 1000~1500万円未満:8.1%
  • 1500~2000万円未満:4.1%
  • 2000~3000万円未満:5.5%
  • 3000万円以上:15.6%
  • 無回答:2.2%
  • 平均:1364万円
  • 中央値:300万円

平均は1364万円、中央値は300万円です。50歳代から中央値が180万円伸び、ここで初めてまとまった動きが出ます。退職金の受け取りが数字に表れ始める年代だからでしょう。

3000万円以上は15.6%で、50歳代の10.4%から増えています。平均1364万円という額は、この層が引き上げた結果です。

一方で、金融資産非保有は30.4%です。100万円未満の9.1%と合わせると、4割近くがほとんど金融資産を持たないまま年金の受給が近づいていることになります。

1.6 70歳代・単身世帯で、平均と中央値はどれだけ離れているのか

  • 金融資産非保有:20.4%
  • 100万円未満:7.1%
  • 100~200万円未満:8.1%
  • 200~300万円未満:4.2%
  • 300~400万円未満:3.7%
  • 400~500万円未満:3.5%
  • 500~700万円未満:6.9%
  • 700~1000万円未満:6.4%
  • 1000~1500万円未満:7.3%
  • 1500~2000万円未満:5.8%
  • 2000~3000万円未満:7.9%
  • 3000万円以上:17.5%
  • 無回答:1.2%
  • 平均:1489万円
  • 中央値:500万円

平均は1489万円、中央値は500万円です。中央値は平均の3分の1程度で、この年代でも開きは埋まりません。

金融資産非保有は20.4%まで下がり、ここまでの年代のなかでは低い数字です。60歳代の30.4%から10ポイント下がっており、退職金や相続で資産が入る人がいることがうかがえます。

3000万円以上は17.5%で、2000万円以上をまとめると25.4%になります。4人に1人はまとまった額を持っている一方、真ん中に立つ人は500万円です。医療費や介護費が現実の支出になってくる年代ですから、平均ではなく自分がどちら側に近いかを確かめておきたいところです。

鶴田 綾
単身の表は、平均と中央値をそれぞれ縦に追っていただくと発見があります。平均は20歳代の255万円から70歳代の1489万円まで伸びますが、中央値は37万円から500万円までしか動きません。ご自身の年代の中央値に印を付けて、いまの残高との差を書き出すところから始めてみてください。

2. 【二人以上世帯の貯蓄額】60歳代が「中央値1400万円」と中央値がもっとも高くなる年代

続いて二人以上世帯です。同じ調査の数字ですが、収入を得る人が複数いる世帯が含まれるぶん、単身とは違う形になります。

二人以上世帯の金融資産保有額2/2

二人以上世帯の金融資産保有額

出所:J-FLEC(金融経済教育推進機構)「家計の金融行動に関する世論調査 2025年」をもとにLIMO編集部作成

2.1 20歳代・二人以上世帯では、単身と比べて中央値がどう違うのか

  • 金融資産非保有:21.6%
  • 100万円未満:16.4%
  • 100~200万円未満:14.0%
  • 200~300万円未満:7.0%
  • 300~400万円未満:8.2%
  • 400~500万円未満:3.5%
  • 500~700万円未満:5.3%
  • 700~1000万円未満:3.5%
  • 1000~1500万円未満:4.7%
  • 1500~2000万円未満:1.2%
  • 2000~3000万円未満:4.1%
  • 3000万円以上:4.1%
  • 無回答:6.4%
  • 平均:525万円
  • 中央値:125万円

平均は525万円、中央値は125万円です。同じ20歳代の単身が中央値37万円でしたから、真ん中の位置には3倍を超える開きがあります。

金融資産非保有は21.6%で、単身の33.2%より11.6ポイント低くなっています。世帯として貯める仕組みが早い段階からはたらいていることが読み取れます。

ただし100万円未満も16.4%あります。結婚や引っ越し、出産といった支出が重なる時期でもあるため、同じ年代のなかでも状況の幅は広い年代です。

2.2 30歳代・二人以上世帯で、中央値が300万円台に乗るのはどの層が増えたからか

  • 金融資産非保有:17.6%
  • 100万円未満:12.7%
  • 100~200万円未満:9.1%
  • 200~300万円未満:6.0%
  • 300~400万円未満:6.0%
  • 400~500万円未満:4.5%
  • 500~700万円未満:8.3%
  • 700~1000万円未満:7.4%
  • 1000~1500万円未満:9.4%
  • 1500~2000万円未満:3.9%
  • 2000~3000万円未満:4.6%
  • 3000万円以上:7.9%
  • 無回答:2.6%
  • 平均:1096万円
  • 中央値:311万円

平均は1096万円、中央値は311万円です。20歳代から中央値が186万円伸びており、単身の伸び(37万円から100万円)と比べても動きが大きくなっています。

金融資産非保有は17.6%まで下がり、1000万円以上の世帯は合計で25.8%になります。4世帯に1世帯が1000万円台に乗る一方で、住宅の購入や教育費の始まりが重なる時期でもあります。

この年代は、続けている積立があるのに次に何を足すか決められない、というご相談を受けることが多い年代でもあります。中央値311万円という数字は、その判断の土台として使えます。

2.3 40歳代・二人以上世帯は、中央値と100万円未満の層がどう並ぶのか

  • 金融資産非保有:18.8%
  • 100万円未満:10.0%
  • 100~200万円未満:6.2%
  • 200~300万円未満:5.1%
  • 300~400万円未満:4.4%
  • 400~500万円未満:2.6%
  • 500~700万円未満:7.3%
  • 700~1000万円未満:6.1%
  • 1000~1500万円未満:9.7%
  • 1500~2000万円未満:6.5%
  • 2000~3000万円未満:8.2%
  • 3000万円以上:13.1%
  • 無回答:2.1%
  • 平均:1486万円
  • 中央値:500万円

平均は1486万円、中央値は500万円です。中央値は30歳代から189万円伸びています。

一方で、金融資産非保有18.8%と100万円未満10.0%を合わせると28.8%になります。3割近い世帯が金融資産100万円未満という状態です。

同じ年代に3000万円以上が13.1%います。教育費と住宅ローンが同時に重なりやすい年代でありながら、資産を積み上げている世帯も一定数あるという形です。

2.4 50歳代・二人以上世帯で、中央値と平均の差はどこまで開くのか

  • 金融資産非保有:18.2%
  • 100万円未満:6.5%
  • 100~200万円未満:6.4%
  • 200~300万円未満:4.1%
  • 300~400万円未満:3.5%
  • 400~500万円未満:2.2%
  • 500~700万円未満:6.7%
  • 700~1000万円未満:7.7%
  • 1000~1500万円未満:9.3%
  • 1500~2000万円未満:6.1%
  • 2000~3000万円未満:8.1%
  • 3000万円以上:18.8%
  • 無回答:2.2%
  • 平均:1908万円
  • 中央値:700万円

平均は1908万円、中央値は700万円です。差は1208万円で、ここまでの年代でもっとも大きく開いています。

3000万円以上が18.8%まで増えたことが平均を押し上げています。子どもの独立や住宅ローンの完済で、貯蓄に回せる余力が生まれる世帯が出てくる年代です。

ただし金融資産非保有は18.2%で、40歳代の18.8%からほとんど下がっていません。余力が生まれる世帯と、生まれないまま定年が近づく世帯に分かれていく段階だといえます。

2.5 60歳代・二人以上世帯は、中央値がもっとも高くなる年代なのか

  • 金融資産非保有:12.8%
  • 100万円未満:4.7%
  • 100~200万円未満:3.9%
  • 200~300万円未満:3.0%
  • 300~400万円未満:2.8%
  • 400~500万円未満:1.8%
  • 500~700万円未満:6.2%
  • 700~1000万円未満:6.3%
  • 1000~1500万円未満:8.9%
  • 1500~2000万円未満:8.0%
  • 2000~3000万円未満:12.4%
  • 3000万円以上:27.2%
  • 無回答:2.0%
  • 平均:2683万円
  • 中央値:1400万円

平均は2683万円、中央値は1400万円です。中央値はここが最も高く、50歳代の700万円のちょうど2倍になります。

3000万円以上が27.2%まで増え、2000万円以上をまとめると39.6%です。退職金の受け取りや住宅ローンの完済が、この動きの背景にあると考えられます。

それでも金融資産非保有は12.8%あります。退職、再雇用、年金の受給開始と、家計の形が続けて変わる年代ですから、まとまった額を持つ世帯と、そうでない世帯の距離は開いたままです。

2.6 70歳代・二人以上世帯で、中央値が前の年代より下がるのはどうしてか

  • 金融資産非保有:10.9%
  • 100万円未満:4.5%
  • 100~200万円未満:5.1%
  • 200~300万円未満:3.7%
  • 300~400万円未満:3.9%
  • 400~500万円未満:2.9%
  • 500~700万円未満:6.4%
  • 700~1000万円未満:6.7%
  • 1000~1500万円未満:11.1%
  • 1500~2000万円未満:6.7%
  • 2000~3000万円未満:12.3%
  • 3000万円以上:25.2%
  • 無回答:0.6%
  • 平均:2416万円
  • 中央値:1178万円

平均は2416万円、中央値は1178万円です。60歳代の平均2683万円・中央値1400万円と比べると、どちらも下がっています。

年金生活に入り、生活費や医療費を貯蓄から出す世帯が増えるためだと考えられます。中央値で見ると、60歳代から222万円減っています。

3000万円以上は25.2%で、2000万円以上3000万円未満の12.3%と合わせると37.5%です。一方で金融資産非保有は10.9%です。働いて収入を増やす余地が限られやすい年代で、この幅が残っていることになります。

鶴田 綾
二人以上世帯の中央値は、60歳代の1400万円が頂点で、70歳代では1178万円まで下がります。ここで押さえておきたいのは、下がること自体は取り崩しが始まった証拠であって、失敗の印ではないということです。いつから、毎月いくら取り崩すつもりなのかを先に決めておけると、下がり方に驚かずに済みます。

3. 「貯蓄が進む」世帯と「進まない」世帯、差が生まれる3つの要因

同じ年代でも貯蓄額に差が生まれるのは、単に収入の多さだけが理由ではありません。世帯の人数や働き方、健康状態など、さまざまな背景が影響します。ここでは、無理なく貯蓄を進めるための3つのポイントを整理します。

3.1 1つめは、毎月の家計にどれだけ余力が残っているか

貯蓄に回せるかどうかを最初に決めるのは、生活費を払ったあとに残る額です。金額の大きさよりも、毎月同じように残せるかどうかが効いてきます。

収入が月ごとに大きく動く場合や、住まいの費用や教育費といった減らしにくい支出が重い場合は、残す額を決めること自体が難しくなります。逆に、少額でも毎月同じ額を先に取り分けられていれば、年数が積み上がるにつれて残高は増えていきます。

もう一つ効いてくるのが、何にいくら使っているかを把握できているかどうかです。同じ収入でも、内訳が見えている世帯のほうが、削る場所を選びやすくなります。ご相談でも、まず1カ月分の支出を書き出していただくところから入ることが多くあります。

3.2 2つめは、資産形成に使えた時間がどれだけあるか

差が開くもう一つの場所が、いつから始めたかです。毎月の額が小さくても、続けてきた年数が長ければ、積み上がる額は変わってきます。

ただ、始める時期は自分だけで決められるとは限りません。住まいの購入、子どもの教育費、親の介護といった支出が重なる時期には、目の前の支払いを優先せざるを得ない場面もあります。

始めるのが遅くなった場合、残っている年数は短くなります。それでも、いま何年残っているかを数え直して、その年数で組み直すことはできます。過ぎた年数を悔やむより、残りの年数を数えるほうが手が動きます。

3.3 3つめは、預貯金・保険・投資のどれを自分の目的に合わせられているか

貯蓄を積み上げてきた人のなかには、預貯金だけでなく、税の優遇がある制度を使って積み立てている人もいます。家計に無理のない額で続けている、という形が多い印象です。

一方で、値動きのあるものは怖い、何から手を付ければよいか分からない、と感じて動けずにいる方もいらっしゃいます。値動きのある資産には元本割れが起こる可能性がありますから、生活費や急な出費への備えが整っていない段階で無理に始めなくてよい、というのが率直なところです。

大事なのは、預貯金、保険、値動きのある資産のそれぞれに何ができて何ができないのかを知ったうえで、自分の目的に合うものを選ぶことです。制度の条件や手数料の扱いは商品によって変わりますから、契約前の書面や取引先の窓口で確かめながら進めていただくとよいと思います。

鶴田 綾
3つのうち、いちばん先に動かせるのは1つめです。残せる額を決めるのは今月からでもできますし、決めた額が小さくても構いません。2つめの時間は取り戻せませんが、残りの年数を数え直すことはできます。3つめの選び方は、その2つが見えたあとで考えるほうが決めやすくなります。

貯蓄を取り崩す側だけでなく、毎月入ってくる側の見込み額もあわせて押さえておきたい方には、【2026年最新・年金早見表】厚生年金・国民年金はいくらもらえる?平均受給額一覧と手取りのリアル!社会保険料・税金が引かれる「天引き」まで徹底解説が参考になります。

4. 【独自試算】中央値の貯蓄だけで、毎月4万2434円の不足を何年ぶん埋められるのか

中央値は、それだけを眺めていても多いのか少ないのか判断がつきません。そこで、老後に毎月出ていく不足額と突き合わせて、年数に置き換えてみます。年数にすると、自分の位置がどこにあるのかが具体的な形で見えてきます。

前提条件

  • 毎月の不足額は4万2434円とする。総務省統計局「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」の65歳以上・夫婦のみの無職世帯で、実収入から実支出を差し引いた1カ月あたりの不足額
  • 取り崩す元手は、J-FLEC(金融経済教育推進機構)「2025年家計の金融行動に関する世論調査」の二人以上世帯の中央値とする。金融資産を保有していない世帯を含む数字
  • 不足額は毎月同じ額が続くものとして置く。1年分は4万2434円×12カ月=50万9208円
  • 利息や運用による増減、物価の変動、税金、手数料は考えない
  • 年金や給与などの収入は、すでに不足額の計算に織り込まれているものとして、別に足さない
  • 年数は小数第2位を四捨五入した目安として示す

①年代別の中央値は、何年ぶんの不足を埋められるか

  • 40歳代の中央値500万円 500万円÷4万2434円=約117.8カ月 約9.8年ぶん
  • 50歳代の中央値700万円 700万円÷4万2434円=約165.0カ月 約13.7年ぶん
  • 60歳代の中央値1400万円 1400万円÷4万2434円=約329.9カ月 約27.5年ぶん
  • 70歳代の中央値1178万円 1178万円÷4万2434円=約277.6カ月 約23.1年ぶん

60歳代の中央値1400万円は、約27.5年ぶんにあたります。65歳から取り崩し始めるとすれば、92歳あたりまで届く計算です。50歳代の700万円では約13.7年ぶんで、65歳から数えると78歳を過ぎたあたりです。

②年代のあいだの差は、年数にすると何年ぶんか

  • 60歳代の中央値1400万円と70歳代の中央値1178万円の差は222万円
  • 222万円÷4万2434円=約52.3カ月 約4.4年ぶん
  • 50歳代の700万円から60歳代の1400万円までの差700万円は、約165.0カ月 約13.7年ぶん

60歳代から70歳代にかけて中央値が222万円下がるのは、年数に直すと約4.4年ぶんが減ったということです。10年のあいだに4年ぶんが目減りしている形になります。

③出発点を平均に置き換えると、答えはどれだけ変わるか

  • 60歳代の平均2683万円 2683万円÷4万2434円=約632.3カ月 約52.7年ぶん
  • 同じ年代の中央値1400万円は約27.5年ぶんなので、差は約25.2年ぶん
  • 70歳代の平均2416万円 2416万円÷4万2434円=約569.4カ月 約47.4年ぶん

同じ年代でも、平均を出発点にするか中央値を出発点にするかで、答えは約52.7年ぶんと約27.5年ぶんに分かれます。差は約25.2年ぶんで、老後の期間そのものと同じくらいの長さです。平均のほうを自分の姿だと思って計画を立てると、この25年ぶんを見込み違いのまま抱えることになります。

ここで出した年数はすべて上の前提から出した目安で、実際の不足額はご家庭ごとに違います。持ち家か賃貸か、医療や介護にどれだけかかるかで、毎月の不足額は大きく動きます。値動きのある資産に置いている分については元本割れが起こる可能性があり、取り崩しの途中で残高が想定より減ることもあります。ご自身の年金の見込み額は、ねんきん定期便やねんきんネット、年金事務所の窓口で確かめてください。

5. 【監修者コメント・村岸理美】中央値は「真ん中の人の額」であって「必要な額」ではない

村岸 理美

今回のデータで最も注目していただきたいのは、40歳代・単身世帯の中央値が100万円で、30歳代と同じ額のまま動いていない点です。平均は501万円から859万円へと358万円伸びているのに、真ん中の位置は変わっていません。上の層だけが伸びると平均は上がるという、分布の性質がそのまま出ています。

適用の条件をいくつか補っておきます。この調査の金融資産には、預貯金だけでなく株式や投資信託、生命保険なども含まれます。反対に、日常の決済に使う普通預金の残高は含まれません。ですから、通帳の残高と表の数字は同じものではありません。また、金融資産を保有していない世帯を含めた集計ですので、非保有の世帯を除いた集計とは中央値の位置が変わります。数字を引用するときは、どちらの集計かを添えていただくとよいでしょう。

記事中の試算のように中央値を年数へ置き換えると、話は一気に具体的になります。ただし、そこで使っている毎月4万2434円という不足額は、65歳以上・夫婦のみの無職世帯の平均の姿です。持ち家の世帯が多く含まれるため住居費が低めに出ており、家賃を払い続ける前提の方は、この行をご自身の金額に置き換えて読み替えていただく必要があります。単身の方であれば、そもそも収入も支出も規模が変わります。CFPとして家計相談を受けるなかでも、統計の不足額をそのまま自分の不足額だと思い込んでいらっしゃるケースは少なくありません。

ファイナンシャル・プランナーとしてお伝えしたいのは、中央値は「真ん中に立つ人の額」であって「あなたに必要な額」ではない、ということです。中央値は自分がどちら側に近いかを確かめるための物差しで、目標額そのものではありません。目標額のほうは、ご自身の年金の見込み額と、これからの暮らしにかかる額から逆算して出すものです。まずはねんきん定期便やねんきんネットで受け取れる見込み額を確認し、そこから毎月いくら足りないのかを出してみましょう。その額が決まってはじめて、中央値との距離が意味を持つようになります。