13. 70歳から取り崩すと決めたことで、そこまでの数年が運用できる期間として見えてきた。ファイナンシャルアドバイザー・橋本 優理が語る、取り崩す順番を先に置いてから中身を選ぶ手順

60歳代は、これまで積み上げてきたお金を、いつからどう使い始めるかを決める時期です。年金の見込み額を知らせる通知に目を通し、働き方が変わる時期を意識するようになると、増やす話と使う話が同時に手元へやってきます。前半でみたように、公的年金から受け取れる額は、これまでの働き方や加入してきた期間によって一人ずつ違いますから、一覧を眺めて自分の位置を確かめるところから始めることになります。ご相談のなかでも、この年代の方は「何を買えばいいか」よりも「いつ、どこから使い始めるか」で立ち止まられます。最初にうかがうのも、いくら増やしたいかではなく、いくつから使い始めるつもりかです。使い始める年齢が決まると、そこまでの期間が運用できる期間として見えてきますし、その年齢から先の順番も並べられるようになります。

13.1 取り崩し始めるのは70歳からと決めたのに、積立を続けている分と保険で持っている分のどこから先に使うのかは決めていない

60歳代(ご相談者)
「会社員として働いていて、あと数年で今の働き方が変わる時期を迎えます。年金を受け取り始める時期のことも考えるようになり、通知に書かれた見込み額を一度確かめました。手元では、非課税で運用できる枠と、自分で掛けていく私的年金の制度を使って、少しずつ積立を続けています。保険で持っている分も一部あります。それと、使う予定がまだ決まっていないまとまったお金があって、これをどうするかが決まりません。取り崩すのは70歳からにしようと考えているので、それまでは置いておけるはずなのですが、いざ使い始めるときに、どこから先に取り崩すのかを決めていないのです。投資信託だけで持っておくのが不安なので、期限が決まっていて安定している仕組みも一部入れておいたほうがいいのではないか、とも思っています。あわせて、子どもの分の運用も始めてやりたいのですが、そちらは何から手をつければいいのか分かりません」

相談の場でも、取り崩し始める年齢は決めているのに、どの置き場所から先に取り崩すのかは決めていないという方に数多くお会いします。

13.2 【ファイナンシャルアドバイザー・橋本 優理が回答】いま積立を止める必要はない

橋本 優理

資産は役割を決めておくことが大切です。

「取り崩すのは先の話だから、そのときに考えればいい」と思っていると、実際にその年齢になったときにどこから取り崩すかをなかなか決められなくなってしまいます。

いま続けている積立と私的年金はそのまま継続し、運用の期限や受け取る時期が決まっている資産を一部値動きのあるものに混ぜることで、出口を分散する効果があります。

お金が必要になってから慌てないためにも、事前に取り崩す優先順位や、資産ごとの役割を決めておきましょう。

13.3 ポイント1:使い始める時期までは、いま続けている積立と私的年金の枠を止めない

取り崩し始める年齢を決めていらっしゃるなら、そこまでの期間は運用を続けられる期間だということになります。ですから、いま続けている積立をここで止める理由はありません。ご相談でよくあるのが、年齢が上がってきたから積立はやめておこうか、というお話です。けれども、使い始める時期が数年先にあるなら、そこまで置いておける時間があるということですし、非課税で運用できる枠は、使わなかった年の分を後から取り戻せるものではありません。続けられるうちは続けておくほうが、枠を活かせます。自分で掛けていく私的年金の制度についても同じで、こちらは掛けている期間の所得から差し引ける仕組みがありますから、働いて収入がある時期に続けている意味は大きいです。ただし、この制度には、受け取り始められる年齢や掛けられる年齢に条件があり、受け取り方によって税の扱いも変わります。取り崩す順番を考えるうえでも関わってくる部分ですから、いま加入している内容で何歳から受け取れることになっているのかは、早めに確かめておいてください。

13.4 ポイント2:期限と受け取る時期が決まった仕組みを、値動きのある分に一部混ぜる

次に、いま持っている中身を見ます。積立で持っている分は、値動きのあるものが中心になっているはずです。値動きのあるものは、置いておける期間が長いほど有利に働きますが、使いたい時期に下がっていれば、そのときは下がった価格で手放すことになります。ここに、期限と受け取る時期が決まった仕組みを一部混ぜておくと、使い始める時期の逃げ場になります。債券は、期限が来れば額面が戻ってくることを前提にした資産で、それまでは決められた時期ごとに利息を受け取る形です。受け取る利息の水準はあらかじめ決まっているものが多く、途中で世の中の金利が動いても、受け取る利息そのものは変わりません。ここは誤解されやすいところで、金利が動けば受け取る額も動くと思っていらっしゃる方が少なくありません。動くのは、途中で売ろうとしたときの価格です。ですから、期限まで持つつもりの分と、途中で売る可能性のある分を分けて考えます。混ぜる割合は、値動きのある分をすべて置き換えるという話ではなく、使い始める時期に近い分だけを置き換えるという発想です。ご家族の分についても、考える順番は同じです。使う時期がずっと遠いお金であれば、値動きのあるものを長く持てる余地が大きいということになりますから、まずは非課税で運用できる枠を用意して、少額の積立から始めておくのも、選択肢の1つとなるでしょう。

13.5 ポイント3:外貨で受け取るものは、買うときと受け取るときの相場で円に直した額が変わる

外貨で発行された仕組みを選ぶ場合には、もう一つ確かめることがあります。受け取る利息と、期限が来て戻ってくる額面が、外貨のままだという点です。円で暮らしている方にとっては、それを円に直したときにいくらになるかが、実際に手元へ残る額になります。買うときに円を外貨に替え、受け取るときに外貨を円に替える。この二回の相場の差が、円で見た結果を動かします。買ったときより円が安くなっていれば増え、円が高くなっていれば減ります。受け取る利息の水準がいくら高くても、この部分は消えません。ですから、取り崩す時期が決まっているお金を外貨のもので持つ場合は、その時期に円へ戻す前提でよいのかを先に考えます。円に戻す時期を一度に集めない、という置き方もあります。買う手続きそのものは、証券会社の口座で扱えます。候補を挙げてもらって、期限までの長さと通貨、貸す先の信用の程度を並べて選んでいく形です。ふだん使っている窓口だけで探していると候補が限られることがありますので、どこで買えるものなのかも合わせて確かめておいてください。

13.6 ポイント4:持っているものを一枚に並べて、どこから何年目に取り崩すかの順番を決める

ここが、いちばん時間をかけていただきたいところです。持っているものを一枚に書き出します。非課税で運用できる枠にある分、自分で掛けている私的年金の分、勤め先の制度から受け取る分、保険で持っている分、預金、そして使う予定が決まっていないまとまったお金。それぞれについて、何歳から受け取れるのか、いくら受け取れる見込みなのか、途中で引き出せるのかを横に書き添えます。年金の通知に書かれた見込み額も、この一枚に並べてください。一枚ができると、次に決めるのは金額ではなく順番です。取り崩し始める年齢から、一年ずつ先に向かって、その年に使うお金をどこから出すのかを割り振っていきます。順番を考えるときの物差しは三つあります。一つは、受け取れる時期が決まっているかどうか。制度から決まった時期に受け取れる分は、その時期に合わせるしかありませんから、これが先に埋まります。二つ目は、値動きがあるかどうか。値動きのある分は、取り崩すのを後ろに回せば、それだけ置いておける期間が伸びます。三つ目は、受け取るときの税の扱いです。同じ額を取り崩しても、非課税で運用できる枠から出した分と、課税される口座から出した分では、その年の所得としての数え方が違います。この三つを重ねると、同じものを持っていても、どこから先に取り崩すかで最後に残る額が変わってきます。順番を先に決めておけば、取り崩し始めてから毎年考え直す必要がなくなりますし、相場が下がった年に、下がったものを売らずに別のところから出すという選び方もできるようになります。ただし、制度ごとの受け取り開始年齢や、受け取り方による税の扱いには細かい条件がありますので、順番を確定させる段階では、加入している制度の内容を勤め先や金融機関に、税の扱いをお住まいの自治体の窓口や税務署に確認してから決めてください。

取り崩し始める年齢を決めていらっしゃること自体が、すでに大きな一歩です。あとは、その年齢から先に向かって、どこから出すのかという順番を並べておくだけで、使い始めてからの判断がほとんど要らなくなります。これは一つの考え方であり、どの順番で取り崩すのが適しているかや、受け取り方によって税がどう扱われるかは、加入している制度の内容や収入の状況、世帯の事情によって異なります。まずは、受け取れる時期と見込み額が分かるものを同じ場所に集めて、一枚に書き出してみてください。そのうえで、順番を確定させる段階では、制度ごとの条件を勤め先や金融機関、税務の専門家に確認しながら進めることをおすすめします。

14. まとめにかえて

公的年金は1階と2階が重なって届き、令和6年度の実績では、厚生年金の平均年金月額が15万289円、国民年金が5万9310円でした。65歳以上の無職世帯では、夫婦のみで毎月4万2434円、単身で毎月2万9980円が不足している計算になります。この差を埋めるお金は、どこから先に取り崩すかで残り方が変わります。まずは、受け取れる時期と見込み額が分かるものを一枚に書き出し、取り崩し始める年齢から先へ向かって順番を割り振ってみてください。そのうえで、制度ごとの受け取り開始年齢や税の扱いは、年金の窓口や金融機関、税務の専門家に確かめながら進めていただくのが確実です。

参考資料

橋本 優理