公的年金は偶数月の15日に振り込まれる仕組みで、10月は定期支払いのある月にあたります。振込の通知に目を通し、これから受け取る額をあらためて確かめる方が増える時期です。そこで一緒に気になってくるのが、手元に置いてある預金や運用しているお金を、いつからどう使い始めるのかという出口の話です。実務でご相談を受けていて感じるのは、いつから使い始めるかは決まっていても、その先の順番までは決めていない方が多いということです。同じ額を同じ年数で取り崩しても、どの置き場所から先に使うかで手元に残る額は変わります。この記事では、公的年金の組み立てと受け取る額の広がり、65歳以上の世帯の家計収支を確かめたうえで、使う順番によって20年後の残り方がどこまで変わるのかを試算します。
なお、公的年金の平均受給額と高齢者世帯の家計収支に関する詳しい解説は、下記の記事より一部を引用・参照しています。本文中の引用部分は引用ブロックで示しています。
1. 厚生年金と国民年金、仕組みは2階建ての構造
取り崩す順番を考えるときの土台になるのが、生きているあいだ受け取り続けられるお金がいくらあるかです。日本の公的年金は、よく2階建ての建物にたとえられます。1階にあたる国民年金(基礎年金)の上に、2階にあたる厚生年金が乗る形です。どちらに、どれだけの期間加入してきたかで、届く額は一人ずつ変わります。
受け取る額の目安と、そこから引かれるものまでを一続きでたどった解説は、【2026年最新・年金早見表】厚生年金・国民年金はいくらもらえる?平均受給額一覧と手取りのリアル!社会保険料・税金が引かれる「天引き」まで徹底解説で確認できます。
1.1 1階にあたる国民年金は、誰がいくら納めて、いくら受け取る形になるのか
1階の部分は、働き方にかかわらず全員が乗る土台です。納める額は所得によらず一律で、納めた月数がそのまま受け取る額につながります。
- 加入対象:原則として日本国内に居住する20歳以上60歳未満のすべての人
- 保険料:国民年金保険料は所得にかかわらず一律ですが、年度ごとに見直されます(2026年度は月額1万7920円)
- 受給額:保険料を40年間(480カ月)すべて納付すると、満額を受け取ることができます(2026年度は月額7万608円)
国民年金の加入者は、第1号から第3号までの区分に分かれます。このうち第2号にあたる方は、次にみる厚生年金にも同時に加入している方です。厚生年金の保険料を納めている場合、国民年金の保険料を別に納める必要はありません。第3号にあたる方についても、個人として保険料を納める義務はない扱いになっています。
1.2 2階にあたる厚生年金は、何によって受け取る額が動くのか
2階の部分は、勤めていた期間と、その間の収入の水準によって高さが決まります。同じ年数働いていても、収入が違えば積み上がる高さは変わるということです。
- 加入対象:会社員や公務員のほか、パートタイマーなどで特定適用事業所(※1)に勤務し、一定の要件を満たす人が国民年金に上乗せして加入
- 保険料:収入に応じて厚生年金保険料が変動します。ただし、保険料計算の基となる収入には上限が設けられています(※2)
- 受給額:加入していた期間や納付した保険料額によって個人差が生じます
※1 特定事業所:1年のうち6カ月以上、適用事業所における厚生年金保険の被保険者(短時間労働者を除く、共済組合員を含む)の総数が51人以上となる見込みの企業などを指します。
※2 厚生年金の保険料額:標準報酬月額(上限65万円)と標準賞与額(上限150万円)に保険料率を乗じて算出されます。
2. 振り込まれるのは年6回「偶数月15日」、お金の管理の周期はどう変わるのか
使い始めてからの家計は、現役のときと入金の周期が変わります。公的年金は原則として偶数月の15日に支払われ、15日が土曜日、日曜日、または祝日にあたる場合は、その直前の金融機関営業日に支給されます。しかも後払いが基本で、支給月の前月と前々月の2カ月分がまとめて支払われる仕組みです。
2.1 2026年度に振り込まれる日と、その対象になるのはどの月分か
1年のあいだに振り込まれるのは6回です。日付と、それぞれが何月分にあたるのかを並べると次のようになります。
- 2026年4月15日:2026年2月・3月分
- 2026年6月15日:2026年4月・5月分
- 2026年8月14日:2026年6月・7月分
- 2026年10月15日:2026年8月・9月分
- 2026年12月15日:2026年10月・11月分
- 2027年2月15日:2026年12月・2027年1月分
たとえば2026年10月15日には、2026年8月と9月の2カ月分がまとめて振り込まれます。毎月同じ日に給与を受け取っていた頃と比べると、手元のお金の増え方も減り方も、2カ月を1つの単位として動くことになります。取り崩しの周期をこの単位に合わせておくか、月ごとにならしておくかも、順番を決めるときに一緒に考えたいところです。
3. 厚生年金と国民年金の平均受給額はいくら?男女でみえる受給額の差
取り崩す順番を決めるには、生きているあいだ届き続ける額がどのあたりにあるのかを知る必要があります。年金の受給額はこれまでの加入状況で決まるため、人によって大きな差が生じます。全年齢の平均と、1万円ごとの分布の両方から確かめてみましょう。
3.1 厚生年金の平均年金月額は、全体と男女別でどの水準にあるのか
- 〈全体〉平均年金月額:15万289円
- 〈男性〉平均年金月額:16万9967円
- 〈女性〉平均年金月額:11万1413円
※国民年金の金額を含みます。
男女で並べると、男性の平均月額は16万9967円、女性は11万1413円で、約6万円の開きがあります。この差は、現役のときの収入と勤めていた期間の差がそのまま形になったものです。
3.2 厚生年金は、1万円ごとの階級にどれだけの人数が並んでいるのか
- ~1万円:4万3399人
- 1万円以上~2万円未満:1万4137人
- 2万円以上~3万円未満:3万5397人
- 3万円以上~4万円未満:6万8210人
- 4万円以上~5万円未満:7万6692人
- 5万円以上~6万円未満:10万8447人
- 6万円以上~7万円未満:31万5106人
- 7万円以上~8万円未満:57万8950人
- 8万円以上~9万円未満:80万2179人
- 9万円以上~10万円未満:101万1457人
- 10万円以上~11万円未満:111万2828人
- 11万円以上~12万円未満:107万1485人
- 12万円以上~13万円未満:97万9155人
- 13万円以上~14万円未満:92万3506人
- 14万円以上~15万円未満:92万9264人
- 15万円以上~16万円未満:96万5035人
- 16万円以上~17万円未満:100万1322人
- 17万円以上~18万円未満:103万1951人
- 18万円以上~19万円未満:102万6888人
- 19万円以上~20万円未満:96万2615人
- 20万円以上~21万円未満:85万3591人
- 21万円以上~22万円未満:70万4633人
- 22万円以上~23万円未満:52万3958人
- 23万円以上~24万円未満:35万4人
- 24万円以上~25万円未満:23万211人
- 25万円以上~26万円未満:15万796人
- 26万円以上~27万円未満:9万4667人
- 27万円以上~28万円未満:5万5083人
- 28万円以上~29万円未満:3万289人
- 29万円以上~30万円未満:1万5158人
- 30万円以上~:1万9283人
階級ごとの人数をたどると、月額1万円未満の層から30万円以上の層まで、幅の広さがそのまま人数の分かれ方に表れています。平均の1つの数字だけを目安にすると、自分の位置を取り違えることになります。
3.3 国民年金の平均年金月額を、全体と男女別で確かめる
- 〈全体〉平均年金月額:5万9310円
- 〈男性〉平均年金月額:6万1595円
- 〈女性〉平均年金月額:5万7582円
3.4 国民年金は、どの階級に人数が集まっているのか
- 1万円未満:5万1828人
- 1万円以上~2万円未満:21万3583人
- 2万円以上~3万円未満:68万4559人
- 3万円以上~4万円未満:206万1539人
- 4万円以上~5万円未満:388万83人
- 5万円以上~6万円未満:641万228人
- 6万円以上~7万円未満:1715万5059人
- 7万円以上~:299万7738人
1階の部分は、全体・男性・女性のいずれも5万円台に収まっています。分布をみても、月額1万円未満から7万円以上までの範囲にとどまり、2階の部分ほどのばらつきはありません。満額が定められているためで、いちばん人数が多いのは「6万円以上~7万円未満」の階級です。多くの方が満額に近い額を受け取っていることがうかがえます。
4. 現役時代の平均年収から、65歳以降の月額をどこまで見積もれるのか
将来の年金がいくらになるかは、現役時代の平均年収と厚生年金の加入年数によって動きます。ここでは年収別の早見表を手がかりに、おおまかな目安をつかんでみましょう。ただし、表に並ぶ数字の読み方には、先に押さえておきたい前提があります。
4.1 「ねんきん定期便」の金額を、将来の見込み額と読み違えないために
毎年誕生月に届く「ねんきん定期便」を見て、老後はこれだけ受け取れると受け止めてしまう方がいます。ただし、50歳未満に届く定期便に記載されている金額は、これまでの加入実績に応じた現時点での金額であって、将来受け取る予定の額ではありません。
もう1つ気をつけたいのが、定期便や早見表に載る数字がすべて額面だという点です。年金からは所得税・住民税・社会保険料(国民健康保険や介護保険料)が差し引かれ、実際の手取りは額面の80〜85%程度になります。取り崩しの計画を額面のまま立てると、この差のぶんだけ毎年ずれていきます。
4.2 【早見表】平均年収200万円から700万円で、65歳からの月額はいくらになるのか
次の表は、20歳から60歳までの40年間にわたって厚生年金に加入し、国民年金も満額受け取り、その間ずっと表に書かれた平均年収で働き続けた場合の見積もりです。65歳から受け取る月額を、額面で示しています。
| 平均年収 | 厚生年金(月額換算) | 国民年金(満額) | 合計受給額(月額・額面) |
|---|---|---|---|
| 200万円 | 約3.7万円 | 約7.1万円 | 約10.8万円 |
| 300万円 | 約5.5万円 | 約7.1万円 | 約12.6万円 |
| 400万円 | 約7.3万円 | 約7.1万円 | 約14.4万円 |
| 500万円 | 約9.1万円 | 約7.1万円 | 約16.2万円 |
| 600万円 | 約11.0万円 | 約7.1万円 | 約18.1万円 |
| 700万円 | 約12.8万円 | 約7.1万円 | 約19.9万円 |
※概算です。実際に受け取る額は、加入していた時期や賞与の有無、今後の制度の見直しによって変わります。
4.3 自分の見込み額を確かめる手立てはどれか「ねんきん定期便・ねんきんネット」
早見表は、40年間ずっと同じ平均年収で働いた場合を置いた目安です。転職や育児休業などで収入が動いてきた方は、日本年金機構が用意している「ねんきんネット」で確かめていただくのが確実です。
マイナポータル経由でログインすれば、これまでの加入記録をもとに、これからの働き方の条件を細かく置いたうえで見込み額を出せます。60歳までいまの給与で働き続けた場合というように、条件を変えて何通りか出しておくと、取り崩しを始める年齢を決める材料になります。
5. 65歳以上・夫婦のみの無職世帯では、毎月どれだけ足りていないのか
受け取る側の額を確かめたら、次は出ていく側です。総務省が公表している「家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均結果の概要」から、65歳以上の無職世帯の1カ月あたりの収支をみていきます。まずは夫婦のみの世帯です。
5.1 夫婦のみの無職世帯に、1カ月あたりいくら入っているのか
- 実収入:25万4395円
- うち社会保障給付:22万8614円 ※主に年金
5.2 夫婦のみの無職世帯から、1カ月あたりいくら出ていくのか
- 実支出:29万6829円
- うち消費支出:26万3979円
消費支出が、一般に生活費と呼ばれる部分です。内訳は次のとおりです。
- 食料:7万8964円
- 住居:1万7739円
- 光熱・水道:2万3540円
- 家具・家事用品:1万1237円
- 被服及び履物:5354円
- 保健医療:1万7941円
- 交通・通信:3万1325円
- 教育:0円
- 教養娯楽:2万6538円
- その他の消費支出:5万1341円
- うち諸雑費:2万2047円
- うち交際費:2万3257円
- うち仕送り金:1135円
税金や社会保険料などの非消費支出は3万2850円で、その中身は次のように分かれます。
- 直接税:1万2547円
- 社会保険料:2万296円
入ってくる25万4395円に対して、出ていく合計は29万6829円。差し引きすると、毎月4万2434円が足りていない形になります。この差を、どの置き場所から埋めていくのかが取り崩しの話にあたります。
6. 65歳以上・単身の無職世帯では、収支の差はどこまで縮むのか
次に、ひとり暮らしの世帯を同じ調査から確かめます。収入も支出も夫婦の世帯より小さくなりますが、差がそのまま半分になるわけではありません。
6.1 単身の無職世帯に、1カ月あたりいくら入っているのか
- 実収入:13万1456円
- うち社会保障給付:12万212円 ※主に年金
6.2 単身の無職世帯から、1カ月あたりいくら出ていくのか
- 支出:16万1435円
- うち消費支出:14万8445円
消費支出の中身は次のように分かれます。
- 食料:4万2545円
- 住居:1万1416円
- 光熱・水道:1万5565円
- 家具・家事用品:6069円
- 被服及び履物:3049円
- 保健医療:8388円
- 交通・通信:1万3601円
- 教育:0円
- 教養娯楽:1万6132円
- その他の消費支出:3万1681円
- うち諸雑費:1万4052円
- うち交際費:1万6956円
- うち仕送り金:591円
非消費支出の平均額は1万2990円でした。
- 直接税:7072円
- 社会保険料:5912円
ひとり暮らしの世帯では、入ってくる13万1456円に対して、出ていく合計が16万1435円。1カ月あたり2万9980円が足りない計算です。夫婦の世帯の4万2434円と比べると小さく見えますが、収入そのものが半分ほどですから、家計に占める重さは変わりません。あとの試算では、この2万9980円を取り崩す額として使います。
7. 収入のすべてを年金でまかなっている世帯は、どれくらいあるのか
手元のお金をいつから使い始めるかを考えるうえで、いまの高齢者世帯が実際にどう暮らしているのかも参考になります。厚生労働省の「2024(令和6)年 国民生活基礎調査の概況」によれば、高齢者世帯(※)の平均所得構成を見ると、「公的年金・恩給」が63.5%を占めています。これに、働いて得る「稼働所得」の25.3%と、「財産所得」の4.6%が続きます。
対象を「公的年金・恩給を受給している世帯」に絞ると、総収入のすべてが「公的年金・恩給」だという世帯は43.4%にのぼりました。
※高齢者世帯:65歳以上の人のみで構成されるか、またはこれに18歳未満の未婚の人が加わった世帯を指します。
7.1 総所得に占める「公的年金・恩給」の割合で、世帯はどう分かれているのか
- 公的年金・恩給の総所得に占める割合が100%の世帯:41.3%
- 公的年金・恩給の総所得に占める割合が80~100%未満の世帯:17.1%
- 公的年金・恩給の総所得に占める割合が60~80%未満の世帯:14.1%
- 公的年金・恩給の総所得に占める割合が40~60%未満の世帯:13.6%
- 公的年金・恩給の総所得に占める割合が20~40%未満の世帯:9.7%
- 公的年金・恩給の総所得に占める割合が20%未満の世帯:4.2%
裏返すと、半数以上の世帯は年金以外の何らかの収入で家計を補っているということになります。補い方は、働き続ける、預貯金を取り崩す、運用しているお金から出す、私的年金を受け取るといった手段の組み合わせです。ここで大事なのは、どこから出すかによって、その年の所得としての数え方や税の扱いが変わるという点です。同じ金額を用意するのでも、置き場所によって残り方が変わってきます。
8. 年金から差し引かれるのは、どんな種類のお金なのか
額面と手取りの差は、取り崩す額そのものに関わってきます。年金額が一定以上(65歳以上で年額18万円以上など)の場合、次の項目が年金から直接天引き(特別徴収)されます。これにより、手取り額は額面の約80%〜85%に目減りします。
- 介護保険料: 65歳以上の全員が対象。市区町村によって金額が異なります。
- 国民健康保険料(または後期高齢者医療保険料): 75歳未満は国保、75歳以上は後期高齢者医療制度の保険料が引かれます。
- 所得税および復興特別所得税: 一定の控除額を超えた場合に課税されます。
- 個人住民税および森林環境税: 前年の所得に応じて課税されます。
差し引かれる額は住んでいる市区町村や前年の所得で変わりますので、実際にいくら手元に残るのかは、届く通知書と年金の窓口で確かめていただくのが確実です。
9. 投資をしなくても受け取る額を増やせる公的な手立ては、どこにあるのか
取り崩す順番を考える前に、生きているあいだ届き続ける部分そのものを厚くする道もあります。値動きのある資産を増やさなくても、公的な制度を使って受け取る額を増やせる場面があります。
9.1 70歳まで厚生年金に加入し続けると、2階部分はどう積み上がるのか
65歳以降も会社員として働き続け、厚生年金に加入し続ける形です。厚生年金は原則70歳まで加入できますので、長く働いて保険料を納めた分だけ、将来受け取る老齢厚生年金(報酬比例部分)が増えていきます。ただし増える幅には上限があります。
9.2 受け取り始める時期を後ろにずらすと、額面はどこまで動くのか
年金の受給開始年齢は原則65歳ですが、66歳から75歳までの間で受給を遅らせることができます。1ヶ月遅らせるごとに受給額が0.7%増額され、70歳まで遅らせれば42%、75歳まで遅らせれば最大84%増額されます。増額された年金は一生涯続きます。ただし、増えるのは額面であり、手取りの目減りや加給年金を受け取れなくなる可能性まで合わせて考える必要があります。
9.3 国民年金の任意加入で、1階部分を満額へ近づけられるのか
20歳から60歳までの間に未納期間や免除期間があり、国民年金が満額に達していない場合には、60歳から65歳になるまでの間に「任意加入制度」を使って保険料を追加で納める道があります。1階部分の額を満額に近づけられる仕組みです。自分に未納や免除の期間が残っているかどうかは、年金の記録で確かめられます。
9.4 繰下げで増えるのは額面、手取りと加給年金はどう動くのか
受給開始を最長75歳まで遅らせる仕組みは、額面が最大84%増える制度です。ただし、額面が増えれば所得も増えるため、所得税・住民税の税率が上がったり、社会保険料の負担の階層が上がって天引き額が膨らんだりします。結果として、手取りとしての実質的な増分は、額面が増えた分の6割から7割程度にとどまるケースもあります。
さらに、老齢厚生年金を繰り下げて待っている期間中は、年金版の家族手当にあたる「加給年金(特別加算込みで年間約41万円)」が支給されません。年の差のあるご夫婦の場合、厚生年金は繰り下げずに65歳から受け取って加給年金を受け取り切り、老齢基礎年金だけを繰り下げるというように、制度を組み合わせたほうがトータルの手取りが多くなるケースもあります。どの組み合わせが当てはまるかは加入の記録と家族の状況によって変わりますので、年金の窓口で確かめていただくのが確実です。
10. 受け取り方をめぐって寄せられる3つの質問には、どう答えられるのか
相談の場で繰り返し出てくる問いを3つ取り上げます。いずれも、使い始める時期を決めるときに引っかかりやすいところです。
10.1 60歳で退職して失業手当を受け取る間、特別支給の老齢厚生年金はどうなるのか
両方を同時に受け取ることはできません。65歳未満の方がハローワークで失業手当(基本手当)の求職の申し込みを行うと、その翌月から失業手当の受給が終了するまでの間、特別支給の老齢厚生年金は全額支給停止となります。これを併給調整と呼びます。どちらを受け取るほうが多くなるかは金額しだいですので、事前に両方の見込み額を出して見比べてから決めることになります。
10.2 配偶者が65歳になったとき、加給年金の扱いはどう変わるのか
加給年金は、配偶者が65歳になって自身の老齢基礎年金を受け取るようになると停止されます。そのかわり、配偶者の生年月日に応じて、配偶者自身の老齢基礎年金に「振替加算」という形で一定額が一生涯上乗せされる仕組みが用意されています。世帯として受け取る額の変わり目にあたりますので、取り崩しの計画を立てるときは、この時期を紙の上に書き込んでおきます。
10.3 年金に税金はかかるのか、確定申告は必要になるのか
公的年金は雑所得として所得税や住民税の課税対象となります。ただし、65歳以上で公的年金等の収入が年間205万円未満(65歳未満は年間155万円未満)であれば、所得税はかかりません。また、公的年金等の収入が400万円以下で、かつその年金に係る雑所得以外の所得が20万円以下である場合は、所得税の確定申告が不要となる「確定申告不要制度」があります。ただし、源泉徴収された税金の還付を受ける場合などは、確定申告を行うことも可能です。手元の資産を取り崩した年は、この雑所得以外の所得の側が動くことがありますので、申告が必要になるかどうかを毎年確かめておくことになります。
毎回の振込額が今年からどう動いたのかを押さえておきたい方には、来月、6月15日支給分から年金が増える!厚生年金+基礎年金「月15万円(年180万円)」を超える人はどれくらい?2026年度最新金額と106万円の壁見直しを解説が参考になります。
11. 【独自試算】課税される口座と非課税の口座、どちらから先に取り崩すかで20年後の残り方はどこまで変わるのか
ここまでは、受け取る側の額と出ていく額を確かめてきました。ここからは、その差を埋めるお金を、どの置き場所から先に取り崩すかという1点だけを取り出して計算します。取り崩す額も年数も同じでも、順番が違えば、税のかからない側に残る額が変わります。前提は次のとおりです。
- 70歳から取り崩し始め、90歳になるまでの20年間(240カ月)を見ます
- 毎月末に2万9980円ずつ取り崩します。65歳以上・無職単身世帯の1カ月あたりの不足額(家計調査報告 家計収支編 2025年(令和7年)平均)をそのまま使いました
- 手元の資産は、課税される口座に359万7600円、非課税で運用できる口座に359万7600円、合わせて719万5200円とします。この719万5200円は、2万9980円を240カ月取り崩した総額とちょうど同じ額です
- どちらの口座も年3%で運用できたと仮定します。月利は(1+年利)の12分の1乗から1を引いて求め、約0.2466%になります
- 税金と手数料は計算に入れていません。順番の違いだけを見るためです
- 比べるのは、課税される口座から先に取り崩す場合、非課税の口座から先に取り崩す場合、両方から半分ずつ取り崩す場合の3通りです
まず、20年間に取り崩す総額は2万9980円×240カ月で719万5200円。はじめに置いた額と同じですから、20年後に残っている分は、運用によって増えた分にあたります。その残りは、どの順番で取り崩しても約319万6000円で変わりません。変わるのは、その約319万6000円がどちらの口座に残っているかです。
課税される口座から先に取り崩す場合、その口座は143カ月目、つまり11年11カ月目に底をつきます。取り崩し始めてから約12年後、70歳から数えれば81歳を過ぎたころです。そこから先は非課税の口座から取り崩すことになり、20年後には非課税の口座に約319万6000円が残ります。課税される口座に残るのは0円です。
順番を入れ替えて、非課税の口座から先に取り崩す場合は、そのまま裏返しになります。非課税の口座は同じ143カ月目に底をつき、20年後に残る約319万6000円は、すべて課税される口座の中にあります。非課税の口座に残るのは0円です。両方から半分ずつ取り崩した場合は、20年後にそれぞれ約159万8000円ずつ残ります。
課税される口座から先に取り崩した場合の途中経過も並べておきます。5年後は課税される口座に約223万4000円、非課税の口座に約417万1000円。10年後は約65万4000円と約483万5000円。15年後は0円と約442万7000円。非課税の口座は、手をつけずに置いた12年ほどのあいだに残高を増やし、そのあと取り崩す側に回っています。
この試算で見ていただきたいのは、20年後に残る合計額ではなく、同じ約319万6000円が「増えた分に税がかからない側」にあるのか、「税がかかる側」にあるのかが、順番だけで入れ替わるという関係のほうです。増えた分にかかる税の額まで織り込めば、差はさらに開く方向に動きます。なお、値動きのある資産では元本割れが起こることもあり、年3%という利回りは前提として置いた数字で、毎年同じように増えることを示すものではありません。取り崩し方によって税がどう扱われるかは、加入している制度の内容や収入の状況によっても変わります。あくまで目安として読み、順番を確定させる前に、金融機関や税務署、税理士に確かめてください。
12. 【監修者コメント・村岸 理美】平均月額と家計の不足額は、それぞれどの時点の、誰の数字なのか
今回のデータで最も注目していただきたいのは、厚生年金の平均年金月額15万289円という数字が、令和6年度の実績であり、しかも国民年金の金額を含んだ全年齢の平均だという点です。厚生年金は報酬比例の仕組みですから、2階部分だけを取り出した額ではありません。〈男性〉16万9967円と〈女性〉11万1413円の開きも、現役時代の働き方の差がそのまま残ったものです。ご自身がこの分布のどちら側に近いのかを、まずは客観的な数字で確かめていただくことが大切です。
家計収支の数字にも、適用の条件が付いています。夫婦のみの世帯の毎月4万2434円、単身世帯の毎月2万9980円という不足額は、いずれも2025年(令和7年)平均の平均像で、住居費の平均が1万7739円と低めに出ている点には注意が必要です。持ち家の方が多く含まれるためで、家賃を払い続ける前提の方は、この差を足して読み替えていただくとよいと思います。年収別の早見表も、40年間ずっと同じ平均年収で働いた場合の額面ですから、転職や休職をはさんだ方の見込み額とは離れます。
記事中の試算のように、同じ金額を取り崩しても、どちらの口座から先に使うかで税のかからない側に残る額が入れ替わります。ここで気をつけていただきたいのは、年3%という利回りが前提として置かれた数字であることと、非課税で運用できる制度も私的年金の制度も、受け取れる年齢や受け取り方による税の扱いに細かい条件があることです。ファイナンシャル・プランナーとしてお伝えしたいのは、他人の平均と比べて一喜一憂するのではなく、自分の数字から逆算していただきたいということです。ねんきん定期便やねんきんネットで見込み額を確かめ、そのうえで制度ごとの条件を年金の窓口や金融機関、税務の専門家に確かめながら進めていただくとよいと思います。


