6. 60歳代に多い「利率の決まった債券なら、迷わずに始められそう」というご相談。IFA・木村 悦朗が伝えたいこと

ご自分が受け取る公的年金は、平均に近い金額になりそうでしょうか。それとも、そこから離れそうでしょうか。60歳代に入ると、この見当が少しずつつくようになります。前半でみたように、公的年金そのものの受け取り額とは別に、要件に当てはまる方には年金生活者支援給付金という上乗せの仕組みがあり、この給付金は物価の動きに応じて毎年度見直されるかたちになっています。一方で、手元の資金の置き場所として候補に挙がる債券は、買った時点で利率が決まり、そこから受け取る利息の額はその後動きません。証券会社で個人の資産運用に携わってきた立場から申し上げると、この二つの性質の違いは、口座を開いたあとで最初の一歩を決めるときに効いてきます。相談の場では次のような声を耳にします。

6.1 60歳代に多いお悩み相談は「利率が決まっているものから始めれば、間違いはないのでは」

60歳代(ご相談者)

「会社員として働いてきて、老後のお金がこれで足りるのかどうか、ずっと気にはなっていました。個人年金保険には以前から入っていますが、それだけで足りるのかというと心もとない気がしています。投資の勉強はオンラインで一度したことがあるのですが、いざ自分で始めるとなると自信がつかず、そのままになっていました。

非課税で投資ができる制度の口座も開いてはあるのですが、何を買えばいいのか分からず、一度も使っていません。値動きのあるものは怖いので、利率が決まっている債券のようなものから始めればよいのかとも思うのですが、それで老後の備えとして足りているのかどうか、判断のしかたが分かりません」

相談の場でも、口座を開くところまでは進みながら、最初に何を持つかを決められないまま時間が過ぎている、という方に数多くお会いします。

6.2 【IFA・木村 悦朗が回答】決め手は利率の高さではなく、物価が動いたときの効き方

木村 悦朗
「値動きが怖いから、まず利率の決まったものだけにしておこう」という考えは良く分かります。但し、まずは非課税で投資ができる制度について確認した上で、債券と運用先で迷ったときに相談できる窓口を先に確かめておくことが大切です。次に、投資先を値動きの性質が違うものへ分けたうえで、どこまでの下げなら受け止められるのかを整理する。その上で、これからの収入と支出を見通してすでに入っている保険の受け取り方まで並べ直すことが、物価に応じて動く収入と額の決まった利息のどちらにも偏りすぎない、落ち着いた順序になります。

6.3 ポイント1:制度の枠と、迷ったときに相談できる窓口を先に確かめる

要点を先に申し上げると、口座を開いたのに一度も使えていないという状態は、勉強が足りないから起きているのではありません。決める場面がひとりきりだから起きています。まず制度の側を確かめておきます。非課税で投資ができる制度の口座では、その口座で持てる商品から得られた利益に税金がかからないかたちになっており、同じ成果でも手元に残る分が変わってきます。もっとも、どの商品でもその扱いになるわけではなく、制度の口座で持てるものと、課税される通常の口座で持つことになるものが分かれます。利率が決まっているものを組み入れたいと考えるときはここが関わってきますので、どの商品が制度の対象になるのか、税金の扱いはどうなるのかを、口座を開く金融機関の窓口や税務の専門家にご確認ください。ただ、枠があるだけでは一歩目は出ません。先に考えていただきたいのも商品の名前ではなく、どの窓口で持つかという点です。金融機関によって、候補の絞り込みや売買する時期について相談できる範囲は違いますし、その相談にかかる費用の扱いも違います。ご自分で調べて決めきる前提でよいのか、都度相談しながら進めたいのか。後者であれば、相談できる体制があるところに口座を寄せたほうが、結果として最初の一歩が早くなります。申し込む前に、サポートの範囲と費用の扱いを書面で確かめておいてください。

6.4 ポイント2:値動きの性質が違うものを重ねて持ち、手放さずにいられる下げの幅を先に言葉にする

次に、何を持つかです。ご相談の場では、いくつかの具体的な候補を並べてご説明しています。債券は、満期まで持てば受け取る利息と戻ってくる額の見当がつきます。安心の理由はここにあります。ただ、決まっているということは、物価が上がった年にも受け取る利息は増えないということでもあります。公的年金や、要件に当てはまる方が受け取る給付金は、物価の動きに応じて見直されるかたちになっています。同じ「収入」と呼んでいても、物価が動いたときに一緒に動く部分と、額が固定されたままの部分では、時間が経ったあとの実質的な重みが変わってきます。ですから、債券だけ、投資信託だけと一つに寄せず、値動きの性質が違うものを重ねて持つ形にしておきます。外貨で運用する債券や保険であれば、円に換える時点の為替によって手取りが変わりますので、その分の振れも数えておく必要があります。そのうえで、どこまでの下げなら手放さずにいられるのかを、あらかじめ言葉にしておいてください。ここが決まっていないと、下がった局面で判断そのものができなくなります。

6.5 ポイント3:これからの収入と支出を見通してから、いま入っている保険の受け取り方まで並べ直す

最後に、順序の話をします。これからの収入と支出の見通しを一枚に並べたうえで、すでに入っている個人年金保険などをどう扱うかまで併せて検討していきます。公的年金の見込み額は、ねんきん定期便やねんきんネットで確かめられます。年金生活者支援給付金については、年齢や所得などの要件があり、対象になるかどうかはご自身の状況によって変わりますので、日本年金機構の案内や年金事務所でご確認ください。そのうえで、いま入っている保険については、受け取りが始まる時期、受け取り方の選択肢、途中でやめた場合にどう扱われるかを、契約時の書面で確かめておきます。すでに持っているものを動かさずに新しいものを足すと、同じ性質の資産が重なってしまうことがあります。逆に、受け取り方を変えるだけで、生活費に充てられる部分の形が整うこともあります。新しく始めるものと、すでに持っているものを同じ紙の上に並べてから決める。この順序にするだけで、利率が決まっているものをどれだけ組み入れるかという問いに、自分の言葉で答えられるようになります。

これは一つの考え方であり、利率が決まっているものをどれだけ組み入れるかは、公的年金や給付金の見込み、これから予定している支出によって状況ごとに異なります。

7. まとめにかえて

年金生活者支援給付金の額は物価の動きに合わせて見直され、債券の利率は買った時点で決まります。同じ「毎年入ってくるお金」でも、物価が上がった年に片方は見直され、もう片方は同じ額のまま買えるものが減っていきます。試算で見たとおり、その差は1年では小さく、年数を重ねると目に見える大きさになりました。

まずは、6月に届く通知書とねんきんネットの見込み額を並べて、額が動くお金と動かないお金がそれぞれいくらあるのかを書き出してみてください。そのうえで、対象になるかどうかや所得の基準額の最新の扱いは、年金事務所やお住まいの市区町村の窓口で確かめながら進めていただければと思います。制度の適用や改定の時期についての最終的な確認は、所管の窓口や専門家へのご相談をお願いします。

参考資料