2026年10月分から、年金生活者支援給付金の所得の基準額が引き上げられます。
老後の家計を支えるお金には、物価の動きに合わせて見直されるものと、いったん決まったら額が動かないものがあります。年金に上乗せされる公的な給付は前者で、手元の資金の置き場所として候補に挙がる債券は後者です。土台の高さが人によって違うので、どちらをどれだけ持つのが合っているかは一律には決まりません。
ただ、性質の違いだけは先に押さえておけます。物価が上がった年に、片方は受け取る額が見直され、もう片方は同じ額のまま買えるものが減っていきます。ここでは年金の受け取り額の個人差、給付金の額と支給要件、そして請求の手続きまでを順に確かめたうえで、物価が2%上がった年に両者の実質の価値がどう分かれるのかを独自に試算します。
なお、年金生活者支援給付金の対象者と給付額に関する詳しい解説は、下記の記事より一部を引用・参照しています。本文中の引用部分は引用ブロックで示しています。
1. 年金の受け取り額には、どれくらいの個人差があるのか
対象になる方の条件や、ハガキが届かないときの考え方は、年金生活者支援給付金とは?2026年最新の対象者・いくらもらえるか・ハガキが届かない理由を徹底解説で確認できます。
厚生労働省「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によれば、公的年金の平均月額は、国民年金(老齢基礎年金)で5万円台、厚生年金(国民年金部分も含む)で15万円台という水準です。
ただ、グラフを見ていただくと分かるように、平均の周りに寄り集まっているわけではありません。厚生年金を月額30万円以上受け取っている人もいれば、国民年金・厚生年金ともに月額3万円未満となる人まで、幅広い受給額のゾーンにちらばっています。平均に近い金額になりそうか、それともそこから離れそうかは、この分布のどこに自分がいるかで決まります。
そして、年金とその他の所得を合わせても一定の基準以下の所得となる場合には、「年金生活者支援給付金」の支給対象となる可能性があります。分布の下のほうにいるかもしれないと思った方は、この上乗せの制度をあわせて確かめておく意味があります。
2. 「年金生活者支援給付金」は、いくら受け取れる制度なのか
年金生活者支援給付金は、年金収入やその他の所得の額が一定の基準以下となる年金生活者を支えるために、2019年に始まった制度です。2カ月に一度、公的年金に上乗せする形で支給されます。
いま受け取っている年金に応じて、次の3種類が用意されており、それぞれに支給要件と支給額(基準額)が定められています。
- 老齢年金生活者支援給付金
- 障害年金生活者支援給付金
- 遺族年金生活者支援給付金
2.1 2025年度から2026年度にかけて、支給金額はどう変わったのか
2026年度に支給される額は、前年度より3.2%高い水準になりました。物価の動きに合わせて年度ごとに見直されるルールがあるためです。
2026年度の額は次のとおりです。
- 老齢年金生活者支援給付基準額(月額):5620円
- 障害年金生活者支援給付金(月額):1級7025円・2級5620円
- 遺族年金生活者支援給付金(月額):5620円
老齢については、この基準額をもとに保険料納付済期間等に応じて実際の給付額が計算される仕組みです。基準額がそのまま届くとはかぎりません。
いずれも月あたりの金額で、支給日には2カ月分がまとめて年金に上乗せされます。上の金額どおりに受給できる場合、1回の支給で約1万1000円、年額にすると約6万7000円を受け取れる計算になります。
なお、「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」によれば、2025年3月における平均給付月額は、老齢年金生活者支援給付金4146円、障害年金生活者支援給付金5727円、遺族年金生活者支援給付金5228円でした。これは2025年3月において認定されている平均給付金額です。
3. 3種類の「年金生活者支援給付金」は、支給要件のどこが分かれているのか
要件は3種類で共通ではありません。順に見ていきましょう。
3.1 「障害年金生活者支援給付金」と「遺族年金生活者支援給付金」で対象になるのはどんな方か
この2つは、それぞれの年金(障害基礎年金もしくは遺族基礎年金)を受給中で、前年の所得が491万8000円以下という方が対象です。
判定に用いる所得には、障害年金や遺族年金などの非課税収入は含まれません。また、扶養親族などの数に応じて、所得の基準額は上がる扱いになっています。
この491万8000円は令和8年10月分からの額です。令和8年9月分までは479万4000円以下でしたので、時期によって線の位置が違うことになります。
3.2 「老齢年金生活者支援給付金」で対象になるのは、どんな条件を満たす方か
老齢については、本人の所得以外の要件がいくつか加わります。下の3つを、すべて満たす方が支給の対象です。
- 65歳以上の老齢基礎年金の受給者であること
- 同一世帯の全員が市町村民税非課税であること
- 前年の公的年金等の収入金額とその他の所得(給与所得や利子所得など)との合計額が、昭和31年4月2日以後生まれの方は82万6500円以下、昭和31年4月1日以前に生まれの方は82万4100円以下であること
老齢の判定にも、障害年金・遺族年金等の非課税収入は含まれません。
3つ目に挙げた82万6500円と82万4100円は、令和8年10月分からの額です。令和8年9月分までとは金額が違うため、新旧を並べておきます。
老齢年金生活者支援給付金の所得基準額
- 令和8年9月分まで:80万9000円以下(昭和31年4月1日以前に生まれた方は80万6700円以下)
- 令和8年10月分から:82万6500円以下(昭和31年4月1日以前に生まれた方は82万4100円以下)
基準額をわずかに超えた場合の「補足的老齢年金生活者支援給付金」はどう働くのか
基準額ぎりぎりで対象になる方との間に不公平感が生じないよう、基準額をわずかに超えて対象外となる方には「補足的老齢年金生活者支援給付金」が支給される仕組みが置かれています。所得が増えるにつれて、補足的老齢年金生活者支援給付金の給付額は減っていきます。
対象となる所得の範囲も、令和8年10月分から引き上げられます。下限と上限が同じ幅で動くため、範囲として押さえておいてください。
補足的老齢年金生活者支援給付金の対象となる所得の範囲
- 令和8年9月分まで:80万9000円を超え90万9000円以下(昭和31年4月1日以前に生まれた方は80万6700円を超え90万6700円以下)
- 令和8年10月分から:82万6500円を超え92万6500円以下(昭和31年4月1日以前に生まれた方は82万4100円を超え92万4100円以下)
4. 請求しないと受け取れない「9月の緑の封筒」は、どう扱えばよいのか
この給付金を受け取るには、請求の手続きが要ります。支給の対象になったからといって、自然に年金へ上乗せされるわけではありません。
4.1 毎年9月に順次送付される請求書が、すでに年金を受け取っている方に届いたときは何をするのか
すでに年金を受給中の方で、所得が下がって対象となった場合は、毎年9月1日以降に順次「年金生活者支援給付金請求書(はがき型)」が送付されます。すでに年金を受け取っている方のなかでも、繰上げ受給をしている場合は書類の様式が異なります。
これから65歳を迎える方の場合は、誕生日の3カ月前に、老齢基礎年金の請求書に同封されて給付金の請求書が届きます。同封されている請求書に必要事項を記入し、老齢基礎年金の請求書とともに提出します。
4.2 手続きは毎年しなければならないのか、2年目以降はどうなるのか
一度請求書を提出すれば、支給要件を満たすかぎり2年目以降の手続きは要らず、継続して受給できます。
継続支給の判定結果は前年の所得に基づいて決まり、毎年10月分(12月支給分)から1年間反映されます。支給の対象外となった場合には「年金生活者支援給付金不該当通知書」が郵送されます。
また、毎年度(4月分から)の支給金額は、毎年6月上旬に送付される「年金生活者支援給付金 支給金額(改定)通知書」および「年金生活者支援給付金 振込通知書」で確かめられます。
「ふつう」のシニアは年金を月いくらもらってる?60歳代以上の平均額と、無職世帯のリアルな家計収支を公開では、世帯としての収入と支出の差まで取り上げています。
5. 【独自試算】物価が2%上がった年に、給付金と固定利率の債券では実質の価値がどう違うのか
物価が動いたときの効き方を、同じ金額から出発して比べてみます。前提は次のとおりです。
- 物価が1年で2%上がる年を想定する。この2%は比較のために置いた仮の数字で、実際の物価の動きを予測したものではない
- 給付金は物価の動きに合わせて年度ごとに見直されるルールがあるため、翌年度の改定率が物価上昇率と同じ2%になった場合を置く
- 比べる相手は、年6万7440円の利息を固定で受け取る債券とする。利率も受け取る額も、満期まで変わらないものとして扱う
- 給付金の月額は、2026年度の老齢の給付基準額5620円と、2025年3月時点の平均給付月額4146円の2通りを使う
- 税、手数料、為替、途中で売った場合の価格の動きは考えない。所得の要件を満たし続ける場合を置く
まず、基準額どおりに受け取れた場合の年額をそろえます。5620円 × 12カ月 = 6万7440円です。債券側も、この6万7440円を毎年の利息として受け取っているものとします。出発点は同じ金額です。
1年後、物価が2%上がったとしましょう。
- 給付金:5620円 × 1.02 = 約5732円、年額は5732円 × 12カ月 = 6万8784円。前年より1344円増える
- 債券:受け取る利息は6万7440円のまま。物価が2%上がったあとの購買力に直すと 6万7440円 ÷ 1.02 = 約6万6118円で、1322円分だけ買えるものが減る
名目の金額では1344円の差ですが、買えるものの量で見ると、給付金は6万7440円分の重みを保ち、債券は約6万6118円分に下がります。1年でこの差です。
物価が2%上がる年が続いた場合、固定側の目減りはこう広がります。
- 5年後:6万7440円 ÷ 1.02の5乗 = 約6万1079円。6361円分の目減り
- 10年後:6万7440円 ÷ 1.02の10乗 = 約5万5324円。1万2116円分の目減り
10年で1万2000円台というのは、年額6万7440円に対して2割近い水準です。利率が動かないことは、受け取る額が読めるという長所であり、物価が上がる局面では実質の重みが削られていくという短所でもあります。
平均給付月額4146円の水準で受け取っている場合も同じ形で置いてみます。年額は4146円 × 12カ月 = 4万9752円。2%の改定があれば 4146円 × 1.02 = 約4229円で、年額は5万748円になります。同じ4万9752円を固定で受け取り続けた場合の1年後の購買力は 4万9752円 ÷ 1.02 = 約4万8776円で、976円分の目減りです。もとの額が小さいほど、目減りの絶対額も小さくなります。
ここから言えるのは、どちらかに寄せる必要はないということです。額が読めるお金と、物価に合わせて動くお金を両方持っておくと、物価がどちらに振れても片方が支えになります。なお債券は、満期まで持てば額面が戻る前提でも、途中で売る場合には価格変動リスクを負い、元本割れとなる可能性があります。
これは一定の前提を置いた目安であり、将来の受取額や物価の動きを保証するものではありません。給付金の改定率が物価上昇率とそろうとはかぎらず、所得の要件を満たさなくなれば支給は止まります。ご自身が対象になるかどうかや受け取れる額は、年金事務所やお住まいの市区町村の窓口でご確認ください。

