「高額療養費は自己負担が一定額を超えたら戻ってくる」——ここまでは知っていても、その「一定額」が所得や年齢によって何段階にも分かれていること、しかも令和8年8月の改定で金額そのものが変わったことまで正確に把握している人は、意外と多くありません。
この記事では、令和8年8月〜令和9年7月に適用される最新の自己負担限度額を、69歳以下・70歳以上それぞれの所得区分ごとに、厚生労働省の公式資料にもとづき表ごと丸ごと整理します。なお、高額療養費と医療費控除の違いに関する詳しい説明は、下記の記事より一部を引用・参照しています。
1. 高額療養費の自己負担限度額とは
まず基本を確認します。高額療養費制度は、同じ月(1日〜末日)に支払った医療費の自己負担額が、一定の上限額を超えた場合に、その超えた分が払い戻される仕組みです。
1.1 上限額は「年齢」と「所得区分」の組み合わせで決まる
この上限額は、加入者が69歳以下か70歳以上かで区分の立て方が異なり、さらにそれぞれの中で所得に応じて何段階かに分かれています。「高額療養費の上限は◯万円」という単一の数字は存在せず、自分がどの区分に当てはまるかを確認して初めて、実際の上限額がわかる仕組みになっています。
1.2 払い戻しは「申請」しないと受けられない
高額療養費は、上限額を超えた分が自動的に戻ってくるわけではありません。原則として、加入している医療保険者(協会けんぽ・健康保険組合・市区町村国保など)に自分で申請する必要があります。
ただし、事前に「限度額適用認定証」を医療機関の窓口に提示しておけば、支払いの段階で自己負担限度額までの支払いに抑えられる仕組みもあります。急な入院などで一時的に高額な費用を立て替える負担を避けたい場合は、この認定証の利用を検討するとよいでしょう。
1.3 マイナ保険証があれば限度額適用認定証が原則不要になる
マイナンバーカードを健康保険証として利用する「マイナ保険証」を医療機関の窓口で提示すれば、限度額適用認定証を事前に取り寄せなくても、窓口での支払いが自己負担限度額までに抑えられる場合があります。事前の手続きの手間を減らせる点は、覚えておきたいポイントです。
2. 【69歳以下】所得区分別の自己負担限度額(令和8年8月〜)
まずは69歳以下の方の区分を確認します。厚生労働省は令和8年8月診療分から一部の所得区分(区分ア〜ウ)において自己負担限度額を引き上げ改定しており、以下はその改定後・現行の金額です。
所得水準に応じて5段階に分かれており、それぞれ計算式と多数回該当時の金額、新設された年間上限額が定められています。
2.1 区分は「標準報酬月額」または「年間所得」で判定される
健康保険加入者は標準報酬月額、国民健康保険加入者は年間所得(旧ただし書所得)を基準に、5つの区分のいずれかに当てはめられます。所得区分の具体的な判定方法については、高額療養費の所得区分はどう判定されるか(年収基準)で詳しく解説しています。
69歳以下の所得区分別 自己負担限度額(令和8年8月〜令和9年7月)
- 約1160万円以上(区分ア):27万300円+(医療費-90万1000円)×1%(多数回該当14万100円/年間上限168万円)
- 約770万〜約1160万円(区分イ):17万9100円+(医療費-59万7000円)×1%(多数回該当9万3000円/年間上限111万円)
- 約370万〜約770万円(区分ウ):8万5800円+(医療費-28万6000円)×1%(多数回該当4万4400円/年間上限53万円)
- 約370万円以下(区分エ):6万1500円(多数回該当4万4400円/年間上限53万円)
- 住民税非課税世帯(区分オ):3万6900円(多数回該当2万4600円/年間上限29万円)
2.2 「医療費」は総医療費、自己負担額ではない点に注意
計算式の中の「医療費」は、窓口で支払った自己負担額ではなく、保険適用前の総医療費(10割)を指します。この点を取り違えると、自分で計算したときに実際の上限額と合わなくなるため注意が必要です。
2.3 「年間上限額」は令和8年8月の改定で新設された仕組み
令和8年8月から令和9年7月までの1年間の自己負担額に上限を設ける「年間上限額」が新たに設けられました。月ごとの負担が積み重なっても、年間の上限に達した後は、加入している医療保険者への申請で超過分の還付を受けられます。
3. 【編集者の視点】
「自分がどの区分に当てはまるか」を勘違いしたまま高額療養費を見積もると、想定より払い戻しが少なく感じてしまうことがあります。
特に境界線に近い年収の方は、賞与の有無などで標準報酬月額が変わり、区分が年度によってずれることもあるため、毎年確認しておくと安心です。
4. 【70歳以上】所得区分別の自己負担限度額(令和8年8月〜)
次に70歳以上の方の区分を確認します。70歳以上は外来(個人ごと)の上限額が別に設けられている点が、69歳以下との大きな違いです。こちらも令和8年8月診療分から改定後の金額になっています。
4.1 「現役並み所得者」だけでも3段階に分かれている
70歳以上の「現役並み所得者」は、現役並みⅠ・現役並みⅡ・現役並みⅢの3段階に分かれています。「現役並み所得者はひとまとめの区分」という理解のままだと、実際の上限額を大きく見誤ります。この3区分の自己負担限度額の計算式は、69歳以下の区分ア・イ・ウとそれぞれ同じ金額です。
70歳以上の所得区分別 自己負担限度額(令和8年8月〜令和9年7月)
- 現役並みⅢ:27万300円+(医療費-90万1000円)×1%(多数回該当14万100円/年間上限168万円)
- 現役並みⅡ:17万9100円+(医療費-59万7000円)×1%(多数回該当9万3000円/年間上限111万円)
- 現役並みⅠ:8万5800円+(医療費-28万6000円)×1%(多数回該当4万4400円/年間上限53万円)
- 一般:外来2万2000円/ひと月6万1500円(多数回該当4万4400円)
- 住民税非課税(区分オ相当):外来1万1000円/ひと月2万5700円(多数回該当2万4600円)
- 住民税非課税(所得が一定以下):外来8000円/ひと月1万5700円(多数回該当の適用なし)
4.2 後期高齢者医療制度も、この区分の考え方を引き継ぐ
75歳以上が加入する後期高齢者医療制度も、基本的にはこの70歳以上の区分の考え方を引き継いでいます。国民健康保険から後期高齢者医療制度に切り替わっても、高額療養費の仕組み自体が大きく変わるわけではありません。
4.3 69歳以下と70歳以上で「外来だけの上限」の有無が変わる
69歳以下の区分には、外来だけの上限額という考え方はなく、入院・外来を合わせた1か月の上限額のみが定められています。一方、70歳以上の区分には「外来(個人ごと)」という上限額が別に設けられており、入院を伴わない通院だけでも、この外来の上限額に達すれば払い戻しの対象になります。
この違いを知らないと、70歳以上の方が「入院していないから高額療養費は関係ない」と誤解してしまうことがあります。通院だけを続けている場合でも、確認しておく価値があります。
5. 【編集者の視点】
この早見表は、令和8年8月〜令和9年7月に適用される金額です。厚生労働省の資料によれば、令和9年8月からは所得区分がさらに細分化され、金額も再度変わる予定です。
「一度覚えたから大丈夫」と思い込まず、実際に申請するタイミングで最新の上限額を加入している医療保険者に確認することをおすすめします。この記事の内容も、制度改正があれば随時更新していきます。
6. 早見表を使うときに気をつけたいポイント
最後に、この早見表を実際に使う際に注意しておきたい点を整理します。
6.1 「多数回該当」は直近12か月に4回以上高額療養費を受けた場合の特例
表中の「多数回該当」は、直近12か月以内に3回以上高額療養費の支給を受けている場合、4回目以降の上限額がさらに引き下げられる仕組みです。長期の治療が続く方にとっては、特に重要な特例です。
ただし、70歳以上の「住民税非課税(所得が一定以下)」の区分だけは、この多数回該当の仕組みが適用されない点に注意が必要です。
6.2 世帯合算をすると、上限額に届きやすくなる場合がある
同じ月に、同じ世帯の複数の医療機関での自己負担額を合算できる「世帯合算」という仕組みもあります。1つの医療機関の窓口負担だけでは上限額に届かなくても、家族分を合わせると届くケースがあるため、あわせて確認しておくとよいでしょう。
※本記事は、編集部が厚生労働省が公表する公式の最新一次資料を直接確認の上、執筆・検証しています。
6.3 差額ベッド代・食事代は対象外
高額療養費の対象になるのは、公的医療保険が適用される診療費用のみです。差額ベッド代(個室料金など)や入院時の食事代は、原則として対象に含まれません。この違いについては、高額療養費と医療費控除の違い・併用の仕方の記事でも整理しています。
6.4 限度額適用認定証は事前に用意しておくと安心
入院や手術が事前にわかっている場合は、限度額適用認定証をあらかじめ用意しておくと、窓口での支払いを自己負担限度額までに抑えられます。急な入院の場合は事後申請になりますが、その場合でも高額療養費の払い戻し自体は受けられます。
マイナ保険証を利用していない場合は、加入している医療保険者に申請すれば認定証が交付されます。手続きに数日かかることもあるため、入院・手術の予定がわかった時点で早めに準備しておくとよいでしょう。窓口での支払い額そのものを抑えられる分、まとまった現金を用意する必要がなくなる点は大きなメリットです。
6.5 払い戻しには申請から数か月かかることがある
高額療養費の払い戻しは、申請してすぐに振り込まれるわけではありません。医療機関からの診療報酬明細書の確認作業などが必要になるため、申請から実際の振り込みまで、数か月程度かかるのが一般的とされています。
「立て替えた分がすぐ戻ってくる」というイメージのまま家計を回していると、一時的な資金繰りに困ることがあります。まとまった医療費の支払いが見込まれる場合は、当面の生活費とは別に、立て替え分の余裕を見ておくと安心です。
6.6 複数の医療機関にかかった場合は明細を分けて管理する
同じ月に複数の医療機関を受診した場合、高額療養費の計算は医療機関ごと(入院・外来も別)に行われた上で、最終的に世帯合算されます。どの医療機関でいくら支払ったかが分かるよう、領収書や明細書は医療機関ごとに整理しておくと、後から申請する際にスムーズです。特に持病で複数の科を受診している方は、月をまたいで記録を残しておく習慣をつけておくと安心です。
7. まとめ
- 高額療養費の自己負担限度額は、69歳以下で5区分、70歳以上で6区分(うち現役並みは3段階)に分かれています
- 「医療費」は総医療費(10割)を指し、窓口負担額そのものではありません
- 制度の見直しが議論されているため、申請時は最新の上限額を確認しましょう
自分がどの所得区分に当てはまるかは、給与明細の標準報酬月額や、確定申告書の所得金額から確認できます。まずはご自身の区分を確認し、この早見表と照らし合わせてみてください。
区分の判定に迷う場合や、申請方法がわからない場合は、加入している医療保険者(協会けんぽ・健康保険組合・国保)に問い合わせるのが確実です。
8. よくある質問
8.1 Q. 高額療養費の上限額は年齢だけで決まりますか。
A. いいえ。69歳以下か70歳以上かという年齢の区分に加えて、所得水準によっても上限額が変わります。同じ年齢でも所得区分が違えば、上限額は大きく異なります。
8.2 Q. 69歳以下の所得区分はいくつありますか。
A. 5区分です。年収約1160万円〜、約770万〜1160万円、約370万〜770万円、〜約370万円、住民税非課税、の5段階に分かれています。
8.3 Q. 70歳以上の「現役並み所得者」はひとまとめですか。
A. いいえ。現役並みⅠ・現役並みⅡ・現役並みⅢの3段階に分かれており、それぞれ自己負担限度額が異なります。
8.4 Q. 「多数回該当」とはどのような仕組みですか。
A. 直近12か月以内に3回以上高額療養費の支給を受けている場合、4回目以降の上限額がさらに引き下げられる特例です。70歳以上の「住民税非課税(所得が一定以下)」の区分には適用されません。
8.5 Q. 差額ベッド代も高額療養費の対象になりますか。
A. 原則として対象外です。公的医療保険が適用される診療費用のみが対象で、差額ベッド代や食事代は含まれません。
8.6 Q. この上限額は今後も変わりませんか。
A. この記事の金額は令和8年8月〜令和9年7月に適用されるものです。厚生労働省の資料によれば、令和9年8月からは所得区分がさらに細分化され、金額も再度変わる予定です。申請時は最新の情報を確認してください。
8.7 Q. 高額療養費は自動的に払い戻されますか。
A. 原則として自動では戻りません。加入している医療保険者への申請が必要です。事前に限度額適用認定証を用意するか、マイナ保険証を利用すれば、窓口での支払い自体を抑えられます。
8.8 Q. 70歳以上は入院していなくても高額療養費の対象になりますか。
A. なる場合があります。70歳以上には「外来(個人ごと)」の上限額が別に設けられているため、通院だけでもその上限額に達すれば対象になります。
8.9 Q. 払い戻しはどのくらいの期間で受け取れますか。
A. 申請から実際の振り込みまで、数か月程度かかるのが一般的です。まとまった医療費の支払いが見込まれる場合は、立て替え分の資金繰りにも余裕を見ておくと安心です。
参考資料
齊藤 慧

