5. 【公的施設編】特養に入るときに知っておきたい落とし穴が2つある
ここからは、民間施設とはコスト構造も入居の仕組みも異なる公的施設、なかでも「特別養護老人ホーム(特養)」について見ていきます。
「特養は安いから、年金だけでもすぐに入れる」と考えている方は少なくありません。しかし、実際には次の2つの制約があるため、注意が必要です。
5.1 落とし穴1:待機者は減っても、依然として20万人超いる
厚生労働省の調査によると、令和7年度時点で特養(要介護3以上)の入所申込者(待機者)は全国で20.6万人。うち在宅で待機している人は8.6万人です。
前回の令和4年度調査(要介護3以上25.3万人、在宅10.6万人)と比べると、それぞれ約18%減少していますが、依然として20万人を超える人が入所を待っている状態に変わりはありません。
「費用が安いからすぐに入れる」というわけではなく、申し込んでから実際に入居できるまでには一定の期間がかかることを前提に考える必要があります。
5.2 落とし穴2:資産があると、費用の軽減が受けられないことがある
特養などの施設では、所得や資産が少ない人向けに食費・居住費を軽減する「補足給付(負担限度額認定)」という制度があります。
この制度は「資産があると入居を断られる」というものではなく、預貯金等が段階ごとの基準額を超えると、軽減の対象から外れて食費・居住費を全額自己負担することになるという仕組みです。厚生労働省老健局の資料(2026年5月)によると、所得要件と資産(預貯金等)要件は次のとおりです。
第1段階(生活保護受給者など、所得要件なし)
預貯金等は単身1000万円以下・夫婦2000万円以下
第2段階(住民税非課税世帯で、年金収入+その他所得が80.9万円以下)
預貯金等は単身650万円以下・夫婦1650万円以下
第3段階①(住民税非課税世帯で、年金収入+その他所得が80.9万円超〜120万円以下)
預貯金等は単身550万円以下・夫婦1550万円以下
第3段階②(住民税非課税世帯で、年金収入+その他所得が120万円超)
預貯金等は単身500万円以下・夫婦1500万円以下
第4段階(世帯に課税者がいる場合)
対象外(食費・居住費は全額自己負担)
所得の条件を満たしていても、預貯金が基準額を超えていれば軽減は受けられず、「特養=低コスト」という前提そのものが崩れます。
入居できるかどうかではなく、費用が軽減されるかどうかを左右する制度である点は、事前に知っておきたいポイントです。
6. 特養以外に、年金の範囲内で検討できる施設は?
特養以外にも、年金の範囲内で検討できる公的な施設があります。費用相場は事業者や地域によって幅がありますが、目安は次のとおりです。
ケアハウス(軽費老人ホームC型・一般型)
- 入居一時金:施設によって無料の場合から数十万円程度かかる場合まで幅がある
- 月額費用:食費等の固定的な費用に加え、前年収入に応じた費用(応能負担)が上乗せされる仕組みで、収入が低いほど自己負担額も低くなる
軽費老人ホーム(A型・B型)
- A型・B型とも、食費等の固定的な費用に前年収入に応じた費用が上乗せされる仕組みで、収入が低いほど自己負担額も低くなる
- B型は食事の提供がない分、A型より費用が抑えられる傾向にある
養護老人ホーム
- 前年(対象)収入が150万円程度までの場合、費用徴収月額はおおむね0円~8万1100円程度で、収入が上がるほど段階的に増える仕組み(上限は月14万円)
- 環境上・経済的な理由で自宅での生活が難しい方向けの措置施設のため、入居には自治体の判断が必要
ケアハウス・軽費老人ホームの費用は、各種資料をもとにした目安であり、事業者・地域によって差があります。
養護老人ホームの費用徴収基準額は、老人福祉法に基づき全国共通で定められていますが、実際の金額は収入区分や自治体の運用によって変わるため、いずれも詳細は自治体窓口や地域包括支援センター、各施設への確認をおすすめします。
7. 厚生年金なら民間も視野に、国民年金のみなら公的施設が中心になる
ここまでの内容を、年金の種類別に整理すると次のようになります。
厚生年金を受給している場合(平均15万1142円)は、基本料金がその範囲内に収まる民間施設が全国に66.5%あるため、実費や将来の値上がりも見込んだうえで、民間施設も現実的な選択肢に入ります。
一方、国民年金のみを受給している場合(平均5万9431円)は、月10万円以内の施設でも全体の14.4%(3255件)しかなく、5万9431円ちょうどに収まる施設はさらにごく一部に限られます。実際、月10万円以内の施設の内訳を見た別の調査(クーリエ、2026年8月30日、対象22669件)でも、10万円以内3241件(14.3%)のうち住宅型有料老人ホームが45.9%、グループホームが43.8%を占めており、決して選択肢が豊富とは言えません。
また、住宅型やグループホームは、施設内スタッフによる定額制の「介護付き」とは異なり、基本料金を「部屋と食事」に絞ることで安く抑えている分、介護が必要になった際は外部の訪問介護などと個別に契約し、利用した分だけ費用がかかる仕組みです。
身体状況の変化で介護の必要度が上がると、この分の費用が膨らみやすい点にも注意が必要です。
国民年金のみで年金の範囲内に収めたい場合は、民間施設よりも、特養や、前年収入に応じて費用が抑えられる養護老人ホームなど、公的な仕組みを中心に検討するのが現実的です。
8. まとめにかえて|「年金だけで入れる」は本当だが、早めの情報収集がカギ
年金の範囲内で入居できる施設は、全国的に見れば決して少なくありません。
ただし、もっとも費用が抑えられる特養には、待機者数と資産要件という2つの制約があり、「安いからすぐに入れる」わけではない点には注意が必要です。民間施設についても、基本料金の安さだけでなく、実費や将来の値上がりリスクまで含めて検討することが欠かせません。
要介護度が上がってから慌てて探すのではなく、地域包括支援センターや自治体の窓口に早めに相談し、特養・ケアハウス・軽費老人ホーム・民間施設など複数の選択肢を並行して情報収集しておくことが、いざというときの安心につながります。
※本記事に記載されている年金受給額、施設にかかる費用、および各種制度に関するデータは、執筆時点(2026年9月)の公的資料および民間調査に基づいた平均値・目安です。
※実際の年金受給額や、施設の月額利用料、介護保険の自己負担額等は、個人の要介護度、所得・資産状況、居住地域、および各施設によって大きく異なります。
※法改正等により制度内容が変更される場合があります。施設選びや各種制度のご利用にあたっては、必ず最新情報を自治体の窓口、地域包括支援センター、または各施設に直接お問い合わせのうえ、ご自身の状況に合わせてご判断ください。
9. 筆者からのコメント
「特養は資産があると不利になる」という誤解を耳にすることがありますが、正確には少し違います。
資産そのものが不利に働くのではなく、一定の基準額を超えると、食費・居住費を軽減する補足給付の対象から外れるだけであり、施設に入居できないわけではありません。基準額も単身か夫婦か、所得の段階によって細かく分かれています。
また、特養は申し込んでから入居までに時間がかかることが前提の施設です。要介護3以上になってから初めて情報を集め始めると、費用面・時間面の両方で選択肢が狭まってしまいます。
年金の範囲内で入れる施設を探す際は、費用の安さだけでなく、待機の実情や資産要件、実費の有無まであわせて早い段階から確認しておくことをおすすめします。迷ったときは一人で判断せず、地域包括支援センターやケアマネジャーに相談しながら、複数の選択肢を同時に比較検討していくとよいでしょう。
参考資料
- 厚生労働省年金局「令和6年度 厚生年金保険・国民年金事業の概況」
- クーリエ「【貯金がなくても大丈夫か】厚生年金の平均受給額15.1万円以内の老人ホームは全国66.5%」(2026年8月29日)
- クーリエ「『月々の支払い、内訳を知っていますか』有料老人ホームの月額費用内訳調査」(2026年8月31日)
- クーリエ「【毎月10万円までしか払えない人へ】月10万円以内で入居できる老人ホームは全国3,241件・14.3%」(2026年8月30日)
- 厚生労働省「特別養護老人ホームの入所申込者の状況(令和7年度)に関する調査結果」(令和7年12月25日公表)
- 厚生労働省老健局「補足給付の現状について」(令和8年5月27日)
- 総務省「家計調査報告(貯蓄・負債編)2025年(令和7年)平均結果(二人以上の世帯)」
- 総務省統計局「家計調査報告(家計収支編)2025年(令和7年)平均結果の概要」
- 公益社団法人全国有料老人ホーム協会「有料老人ホームでの生活に必要な費用」
- 広島市「養護老人ホーム被措置者費用徴収基準表」(老人福祉法に基づく全国共通基準)
