「103万円の壁」「106万円の壁」「130万円の壁」……似た数字が並び、何が自分に関係するのか分からなくなっていませんか。パートで働く方、配偶者や大学生の子がいる方に向けて壁を整理します。
なお、106万円の壁の見直しに関する詳しい説明は、下記の記事より一部を引用・参照しています。
1. 「年収の壁」は何種類ある?税金と社会保険、そもそも管轄が違う
「年収の壁」とひとくくりに呼ばれますが、実際には性質の異なる複数の制度が並んでいます。大きく分けると、税金の壁と社会保険の壁の2種類です。
1.1 税金の壁は税務署、社会保険の壁は勤務先や年金事務所が判定する
所得税の壁(かつての103万円、現在の178万円)は税務署が、社会保険の壁(106万円・130万円)は健康保険組合や年金機構が判定します。ここでは106万円・130万円の壁と、配偶者や大学生の子がいる場合の壁を中心に整理します。
次の章から、パートで働く本人の壁を中心に見ていきます。
2. 106万円の壁は消えても、130万円の壁は残る。パート本人の社会保険の壁
「106万円の壁」と「130万円の壁」は、どちらも社会保険の話ですが性質が異なります。違いを知らずに「壁がなくなった」と思い込むと、思わぬ保険料負担に驚くことになります。
2.1 106万円の壁は、2026年10月に「賃金要件」が撤廃される
106万円の壁は、月額賃金8.8万円以上(年収換算で約106万円)という「賃金要件」を軸に、短時間労働者の社会保険加入基準として運用されてきました。令和7年6月成立の年金制度改正法により、賃金要件は令和8年10月1日に撤廃されます。
社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律
賃金要件が撤廃されたあとは、「週の所定労働時間20時間以上」という要件が主な基準として残ります。「106万円さえ意識しなければよい」わけではない点に注意が必要です。
2.2 130万円の壁は、社会保険の被扶養者認定の基準として存続する
130万円の壁は、配偶者や家族の社会保険の扶養に入れるかを決める年間収入の基準です。106万円の壁とは異なり、廃止の予定はありません。
106万円の壁が話題になるたびに「壁が全部なくなった」と誤解されがちですが、130万円の壁は独立して残ります。
3. 【編集者の視点】
106万円の壁の撤廃は、賃金要件という「入口」の1つがなくなるという話であり、社会保険への加入基準そのものがすべてなくなるわけではありません。
特に注意したいのが、勤務先の従業員数に関する要件(企業規模要件)です。短時間労働者への社会保険適用は段階的に拡大が進んでおり、賃金要件の撤廃とは別のスケジュールで動いています。総務・人事担当者に確認しておきましょう。
4. 2026年4月から変わった、130万円の壁の「判定方法」
130万円の壁は、金額より見落とされやすい変更が令和8年4月から始まっています。判定に使う収入の数え方が変わったのです。
4.1 「収入の見込み」から「労働契約書」ベースの判定へ
従来、社会保険の被扶養者認定は、過去や現時点の収入、将来の見込みから「今後1年間の収入見込み」を総合的に判断する方法でした。
令和7年10月1日付の厚労省通知により、この判定方法が見直されました。
労働契約内容による年間収入が基準額未満である場合の被扶養者の認定における年間収入の取扱いについて
出典:厚生労働省保険局・年金局「労働契約内容による年間収入が基準額未満である場合の被扶養者の認定における年間収入の取扱いについて」(令和7年10月1日付通知)
新しい運用では、労働契約で定められた賃金から見込む年間収入を基準に、労働条件通知書等の書類で確認する方法に変わりました。施行は令和8年4月1日からです。
4.2 【新旧の判定方法】
従来の判定方法
- 基準:今後1年間の収入見込み(過去の実績・現在の収入なども加味)
- 繁忙期の残業などで実収入が増えると、扶養から外れる可能性があった
2026年4月以降の判定方法
- 基準:労働契約で定められた賃金からの年間収入見込み
- 労働条件通知書等の書類で確認し、実収入が一時的に基準額を超えても契約上の賃金が基準未満なら扶養を維持できる場合があります
4.3 一時的に収入が増えても、事業主の証明で扶養を続けられる特例もある
判定方法の見直しとは別に、令和5年10月開始の「一時的な収入変動」の特例もあります。人手不足による労働時間延長等で一時的に収入が基準を超えても、事業主証明があれば被扶養者認定を継続できます。
全国健康保険協会(協会けんぽ)によると、この特例は原則連続2回まで使えます。基準額は属性により異なり、通常130万円、60歳以上や障害厚生年金受給者は180万円、19歳以上23歳未満(配偶者を除く)は150万円です。
5. 【編集者の視点】
一時的な収入変動の特例は、証明書さえ出せば自動的に適用されるわけではありません。事業主への証明依頼が必要なため、収入増が分かった時点で早めに担当部署へ相談しましょう。
なお、この特例は社会保険上の扶養に関する話です。税金の扶養(配偶者控除・扶養控除)の判定には別の基準が使われ、社会保険の扶養を維持できても税金の扶養条件を自動的に満たすとは限りません。
6. 配偶者がいる人の壁。「150万円」はもう昔の数字かもしれない
配偶者がいる人が意識する「配偶者特別控除」も、基準が動いてきた制度です。現時点の基準を整理します。
6.1 配偶者特別控除が満額になるのは、配偶者の合計所得95万円以下
配偶者特別控除は、配偶者の合計所得金額に応じて段階的に控除額が変わる制度です。控除を受ける本人の合計所得が900万円以下で、配偶者の合計所得が58万円超95万円以下であれば、満額の38万円が控除されます。
控除を受ける納税者本人のその年における合計所得金額が900万円以下で、かつ、配偶者の合計所得金額が58万円を超え95万円以下である場合、配偶者特別控除の額は38万円です。
出典:国税庁タックスアンサー「No.1195 配偶者特別控除」
配偶者の合計所得が133万円を超えると対象から外れます。令和7年度改正時点の給与収入換算では「123万円超201万5999円以下」が対象です。
6.2 【配偶者特別控除の区分】
満額(38万円)の場合
- 配偶者の合計所得:58万円超95万円以下
- 給与収入換算:123万円超160万円以下
段階的に減っていく場合
- 配偶者の合計所得:95万円超133万円以下
- 給与収入換算:160万円超201万5999円以下
対象外になる場合
- 配偶者の合計所得:133万円超
- 給与収入換算:201万6000円以上
6.3 給与所得控除の引き上げ分は、まだ公式な換算が示されていない
財務省の大綱本文に、配偶者特別控除の所得区分(58万円・95万円・133万円)を変更する記載は見当たりませんでした。給与所得控除の最低保障額は令和8・9年分に限り74万円に上がり、配偶者にも及ぶはずですが、反映した給与収入換算を示す公式資料は確認できませんでした。
確実なのは配偶者の合計所得ベースの基準(58万円・95万円・133万円)であり、給与収入換算は最新情報を都度確認する必要があります。
7. 【編集者の視点】
配偶者特別控除のように、複数の改正が積み重なっている制度は、給与明細や源泉徴収票の数字だけでは判断がつきにくいものです。
年末調整の時期が近づいたら、勤務先配布の「配偶者控除等申告書」の記載例を確認し、不明点は担当者や税務署に問い合わせましょう。国税庁のタックスアンサーは随時更新されるため、申告直前の再確認をおすすめします。
8. 大学生の子がいる家庭の壁は、パートの壁とは別物
大学生年代の子を扶養する家庭には、パート本人とは別の壁があります。混同しやすい点を整理します。
8.1 税金の壁は197万円、社会保険の壁は150万円で基準が異なる
19歳以上23歳未満の子については、令和7年12月から「特定親族特別控除」が導入されました。合計所得123万円以下という要件は変わりませんが、給与収入への換算は年分ごとに動きます。
年齢が19歳以上23歳未満であること、年間の合計所得金額が123万円以下であること(給与のみの場合は給与収入が188万円以下)
出典:国税庁タックスアンサー「No.1177 特定親族特別控除」
この188万円は令和7年分の給与所得控除(65万円)が前提です。国税庁のQ&Aには「改正後の給与所得控除額を適用して算出された合計所得金額に応じて…控除額を正しく記載する必要があります」と明記され、控除が74万円になる令和8年分・令和9年分は123万円+74万円で197万円に変わります(編集部試算)。
一方、社会保険の扶養(健康保険の被扶養者認定)では、19歳以上23歳未満(配偶者を除く)の基準額は150万円です。「大学生のアルバイトは103万円まで」という理解のままなら、税金(令和8年分は197万円)と社会保険(150万円)のどちらの基準かを整理し直す必要があります。
※本記事は、編集部が財務省・国税庁・厚生労働省・日本年金機構・全国健康保険協会が公表する公式の最新一次資料を直接確認の上、執筆・検証しています。
9. なぜこんなに壁がバラバラなのか。「ずるい」と感じたときに知っておきたいこと
年収の壁は所得税・住民税・社会保険という異なる制度が、別々のタイミングで見直された結果、バラバラの金額になっています。
「なぜ統一しないのか」という感覚は自然です。所得税は国税庁、住民税は市区町村、社会保険は厚生労働省・年金機構・健康保険組合と所管が異なるため、改正のタイミングがそろいません。
大切なのは、複数ある壁を一度に覚えず、自分に関係する壁だけを切り分けることです。パート本人なら106万円・130万円、配偶者がいるなら配偶者特別控除、大学生の子がいるなら特定親族特別控除を、年に一度見直せば十分です。
10. まとめ
- 年収の壁は税金と社会保険で管轄が異なり、106万円の壁が2026年10月に撤廃されても、130万円の壁は別の制度として残ります。
- 130万円の壁は2026年4月から労働契約書の内容を基準に判定する仕組みに変わり、一時的な収入増には事業主証明による特例もあります。
- 配偶者特別控除の所得区分は据え置かれていますが、給与収入換算は給与所得控除の引き上げにより更新される可能性があり、最新情報の確認が欠かせません。
- 大学生の子がいる家庭の壁は税金(令和8年分は197万円)と社会保険(150万円)で基準が異なり、パート本人の壁とも別の制度です。
「年収の壁」は所管も金額も異なる複数の制度の集まりです。数字をそのまま当てはめる前に、確認すべき壁を切り分けることが近道です。
制度は今後も見直しが続きます。年に一度は自分に関係する壁の基準額を確認し、勤務先や税務署、健康保険組合の窓口も活用しましょう。
11. よくある質問
11.1 Q. 「103万円の壁」はもうなくなったのですか?
A. 所得税の非課税ラインとしての103万円は、令和8年度税制改正で178万円に引き上げられました。ただしこの178万円は、本人の合計所得金額が489万円以下の場合に基礎控除の特例加算42万円がフルに適用された数字です。489万円を超えると特例加算は段階的に縮小・消失するため、数字が消えたのではなく仕組みが複雑になったと考えるのが正確です。
11.2 Q. 106万円の壁がなくなれば、パートの社会保険料は一切かからなくなりますか?
A. いいえ。106万円の壁で撤廃されるのは「賃金要件」のみで、「週の所定労働時間20時間以上」という要件は残ります。130万円の壁(被扶養者認定基準)は撤廃の予定がなく、別の基準として存続します。
11.3 Q. 一時的に130万円を超えたら、すぐに扶養から外れますか?
A. 必ずしもそうとは限りません。2026年4月からは労働契約上の賃金が基準未満なら、実収入が一時的に超えても扶養を続けられる場合があります。事業主の証明があれば原則連続2回まで継続できる特例もあります。
11.4 Q. 大学生の子のアルバイトは103万円までと聞いたのですが、今はどうなっていますか?
A. 税金面では令和7年12月の年末調整から「特定親族特別控除」が導入され、合計所得123万円以下まで親が控除を受けられます。給与収入換算は給与所得控除の引き上げにより令和8年分・令和9年分は188万円から197万円に変わっています。社会保険の被扶養者認定の基準は別で、19歳以上23歳未満(配偶者を除く)は150万円です。
参考資料
- 財務省「令和8年度税制改正の大綱」(令和7年12月26日閣議決定)
- 厚生労働省「年金制度改正法が成立しました」
- 厚生労働省保険局・年金局「労働契約内容による年間収入が基準額未満である場合の被扶養者の認定における年間収入の取扱いについて」(令和7年10月1日付通知)
- 日本年金機構「労働契約内容による年間収入の取扱いについて」
- 全国健康保険協会「被扶養者の認定における特例について」
- 国税庁タックスアンサー「No.1195 配偶者特別控除」
- 国税庁「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について」
- 国税庁タックスアンサー「No.1177 特定親族特別控除」
- 国税庁「令和8年度税制改正(所得税の基礎控除の引上げ等関係)Q&A」(令和8年5月)
LIMO編集部年収解説班

