「介護費用も医療費控除の対象になる」と聞いて確定申告をしようとしたものの、実際にどこまでが対象なのか分からず戸惑った経験はないでしょうか。介護保険サービスは種類が多く、対象・対象外の線引きも複雑です。
この記事では、国税庁の公表情報にもとづき、介護費用のうち医療費控除の対象になるサービスと、その控除額の考え方を編集部で整理します。
1. 施設サービスは「特養は2分の1、老健・介護医療院は全額」という違いがある
まず、施設に入居している場合の医療費控除の対象範囲を確認します。
1.1 特別養護老人ホームだけ、控除対象が半分に限定される
国税庁によると、介護保険施設に入居している場合の医療費控除の対象額は、施設の種類によって異なります。特別養護老人ホーム(指定介護老人福祉施設)の場合、施設サービスの対価(介護費・食費・居住費)に係る自己負担額として支払った金額の「2分の1に相当する金額」が控除対象です。
一方、介護老人保健施設と介護医療院の場合は、施設サービスの対価に係る自己負担額として支払った金額の「全額」が控除対象になります。同じ「介護保険施設」というくくりでも、特別養護老人ホームだけが2分の1という限定的な扱いになっている点は、意外と知られていません。
「介護施設に入居しているのだから、支払った費用は全額控除の対象になるはず」と考えていると、特別養護老人ホームに入居しているケースでは、実際の控除額が想定より少なくなる可能性があります。確定申告の際は、自分(または扶養している家族)が入居している施設の種類を確認し、正しい割合で計算することが必要です。
1.2 【介護保険施設の種類別・医療費控除の対象額】
前提:国税庁「医療費控除の対象となる介護保険制度下での施設サービスの対価」に基づく編集部整理1/2
出所:国税庁「No.1125 医療費控除の対象となる介護保険制度下での施設サービスの対価」などを基にLIMO編集部作成
- 特別養護老人ホーム(指定介護老人福祉施設):自己負担額の2分の1
- 介護老人保健施設:自己負担額の全額
- 介護医療院:自己負担額の全額
2. 在宅サービスは「生活援助中心型」かどうかで対象・対象外が分かれる
次に、自宅で介護保険サービスを利用している場合の対象範囲を確認します。
2.1 訪問看護・訪問リハビリは対象、生活援助中心型の訪問介護は対象外が原則
国税庁によると、訪問看護・訪問リハビリテーション・居宅療養管理指導・通所リハビリテーション・短期入所療養介護など、医療系のサービスは常に医療費控除の対象になります。一方、訪問介護(ホームヘルプサービス)のうち、調理・洗濯・掃除といった家事援助が中心の「生活援助中心型」は、医療費控除の対象外です。
訪問入浴介護や通所介護(デイサービス)、小規模多機能型居宅介護といった福祉系サービスは、単独では控除対象になりませんが、1か月のケアプランの中に訪問看護などの医療系サービスが位置付けられている場合に限り、医療費控除の対象に含められます。医療系サービスと組み合わせて利用しているかどうかが、控除対象になるかどうかの分かれ目です。
3. 【編集者の視点】
医療系サービス(訪問看護や訪問リハビリ等)と併せて利用する場合、身体介護(入浴・排せつ・食事の介助等)が中心の訪問介護は対象になりますが、生活援助(家事代行)が中心の訪問介護は、原則として対象外とされています。
自分が利用している訪問介護サービスがどちらに区分されているかは、ケアプランを作成しているケアマネジャーに確認するのが確実です。領収書だけでは判断がつかない場合もあるため、迷ったときは早めに相談しておくとよいでしょう。
4. 編集部試算:特別養護老人ホームと介護老人保健施設で、控除額はどう変わるか
ここでは、実際の金額をもとに、施設の種類によって控除対象額がどれだけ変わるかを試算します。
4.1 年間120万円の自己負担なら、控除対象額は60万円か120万円かに分かれる
仮に、施設サービスの対価として年間120万円の自己負担額を支払ったケースで試算します。特別養護老人ホームの場合、控除対象額はその2分の1にあたる60万円です。一方、介護老人保健施設や介護医療院の場合は、120万円の全額が控除対象額になります。
同じ120万円を支払っていても、控除対象額に60万円の差が生じる計算です。医療費控除は、対象額から10万円(または総所得金額等の5%)を差し引いた金額に、所得税率を掛けて還付額の目安を計算します。仮に所得税率が10%の人であれば、控除対象額の差60万円は、還付額にして約6万円の差になる可能性があります。実際の還付額は、他の医療費との合算状況や所得水準によって変わるため、あくまで大づかみの目安です。
4.2 【施設の種類別・控除対象額の試算(年間自己負担額120万円の場合)】
前提:国税庁の医療費控除ルールに基づく編集部試算(年間自己負担額120万円のケース)2/2
出所:国税庁「No.1125 医療費控除の対象となる介護保険制度下での施設サービスの対価」などを基にLIMO編集部作成
- 特別養護老人ホーム:60万円(120万円の2分の1)
- 介護老人保健施設・介護医療院:120万円(全額)
5. 【編集者の視点】
実務上の注意点は、この試算があくまで施設サービスの対価部分に限った比較である点です。実際には、通院にかかった医療費や、他の家族の医療費なども合算して医療費控除を計算するため、最終的な還付額はこの試算より大きくなる場合も、逆に他の控除との兼ね合いで変わる場合もあります。
また、施設を選ぶ段階で「医療費控除で有利だから」という理由だけで施設の種類を決めるのは本末転倒です。あくまで、実際に利用している施設の控除ルールを正しく理解し、確定申告で漏れなく申告することが目的だと捉えておくとよいでしょう。
6. 控除を受けるには、確定申告での手続きが必要
ここまで見てきた対象範囲を踏まえ、実際に控除を受けるための手続きを確認します。
6.1 領収書・証明書類を保管し、確定申告で申告する
医療費控除は、年末調整では手続きが完結せず、確定申告で申告する必要があります。介護保険サービスの対価として支払った金額は、施設や事業者から発行される領収書や、サービス利用証明書に記載されている「医療費控除対象額」の記載を確認したうえで、他の医療費と合算して申告します。
1年間(1月〜12月)に支払った医療費の合計額が10万円(総所得金額等が200万円未満の場合はその5%)を超える部分が、医療費控除の対象になります。介護保険サービスの自己負担額だけでなく、通院にかかった医療費や、市販薬の購入費(対象となるものに限る)なども合算して計算できるため、家族全体でどれだけの医療費・介護費用がかかったかを、年間を通じて把握しておくことが大切です。
なお、住民税非課税世帯であれば、高額療養費・介護・修学支援など複数の優遇措置を受けられる場合があり、医療費控除とあわせて活用できる制度がないか確認しておく価値があります。
7. 医療費控除と高額介護サービス費、両方を使える場合もある
介護費用の負担を軽減する制度は、医療費控除だけではありません。あわせて知っておきたい制度を整理します。
7.1 高額介護サービス費で払い戻された分は、控除の対象から除く
介護サービスの自己負担が1か月の上限額を超えた場合、超えた分が払い戻される「高額介護サービス費」という制度があります。この制度で払い戻しを受けた金額は、実質的に自己負担していないことになるため、医療費控除の対象額を計算する際は、支払った金額から払い戻し分を差し引く必要があります。
例えば、年間の施設サービスの対価として120万円を支払い、そのうち高額介護サービス費として10万円の払い戻しを受けた場合、医療費控除の計算に使う自己負担額は120万円ではなく、払い戻し後の110万円をベースに考える必要があります。高額介護サービス費と医療費控除は、それぞれ別の制度ですが、実際の申告では両者のつながりを意識しておく必要があります。
また、医療費と介護費用の自己負担が年間で高額になった世帯向けには、「高額医療・高額介護合算療養費制度」という、医療保険と介護保険の自己負担を合算して一定額を超えた分が払い戻される制度もあります。医療費控除、高額介護サービス費、高額医療・高額介護合算療養費制度は、それぞれ独立した制度であるため、対象になりそうな制度がないか、まとめて確認しておくことをおすすめします。
8. 親の介護費用を扶養している子どもが控除できる場合もある
最後に、介護費用を負担している家族側の視点を整理します。
8.1 生計を一にしていれば、子どもが支払った分も控除対象になる
医療費控除は、本人だけでなく、生計を一にする配偶者やその他の親族のために支払った医療費・介護費用も対象になります。親が要介護状態になり、その介護費用を子どもが実質的に負担している場合、子ども自身の確定申告で医療費控除を申告できる可能性があります。
「生計を一にする」とは、必ずしも同居している必要はなく、生活費の仕送りなどによって生計を支えている場合も含まれます。離れて暮らす親の介護費用を負担している場合でも、実態として生計を支えているのであれば、控除の対象になり得ます。誰が費用を負担し、誰の名義で申告するのが有利かは、世帯の状況によって異なるため、迷う場合は税務署や税理士に相談することをおすすめします。
兄弟姉妹で親の介護費用を分担している場合は、実際に費用を支払った人がそれぞれ申告する形になります。誰か一人がまとめて申告する必要はなく、実態に即して分担分をそれぞれ申告することも可能です。
※本記事は、編集部が国税庁が公表する公式の最新情報を直接確認の上、執筆・検証しています。
9. まとめ
- 介護保険サービスの一部は、支払った自己負担額が医療費控除の対象になります。
- 特別養護老人ホームは自己負担額の2分の1のみ、介護老人保健施設・介護医療院は全額が対象です。
- 訪問看護・訪問リハビリ等の医療系サービスは常に対象、生活援助中心型の訪問介護は原則対象外です。
- 控除を受けるには確定申告での申告が必要で、年間の医療費・介護費用を合算して計算します。
- 生計を一にする親族の介護費用を負担している場合、子ども自身の確定申告で控除できる可能性があります。
介護費用の医療費控除は、施設の種類やサービスの内容によって対象範囲が細かく分かれています。「介護費用だから全額対象」という単純な理解ではなく、自分(または家族)が利用しているサービスがどの区分に当たるのかを確認しておくことが、正確な申告につながります。
領収書やサービス利用証明書は、確定申告の時期にまとめて探すのではなく、支払いのたびに保管しておく習慣をつけておくと、いざ申告する際にスムーズです。
10. よくある質問
10.1 Q. 特別養護老人ホームの費用は全額医療費控除の対象になりますか。
A. 全額ではありません。施設サービスの対価(介護費・食費・居住費)に係る自己負担額のうち、2分の1に相当する金額が控除対象です。介護老人保健施設・介護医療院は全額が対象になる点と異なります。
10.2 Q. デイサービス(通所介護)の費用は医療費控除の対象になりますか。
A. 単独では対象外ですが、1か月のケアプランに訪問看護などの医療系サービスが位置付けられている場合に限り、対象に含められます。
10.3 Q. 訪問介護はすべて医療費控除の対象になりますか。
A. 原則対象になりません。医療系サービス(訪問看護やデイケア等)と併せて利用する場合に限り、身体介護が中心の訪問介護も対象になります。
10.4 Q. 離れて暮らす親の介護費用でも控除を受けられますか。
A. 生計を一にしていれば可能性があります。同居していなくても、生活費の仕送りなどによって実質的に生計を支えている場合は、「生計を一にする」とみなされ、子どもの確定申告で控除を申告できることがあります。
10.5 Q. 医療費控除はいくらから対象になりますか。
A. 1年間に支払った医療費の合計額が10万円(総所得金額等が200万円未満の場合はその5%)を超える部分が対象です。介護保険サービスの自己負担額と、通院費用などを合算して計算します。
10.6 Q. 高額介護サービス費で払い戻しを受けた分も、医療費控除の対象になりますか。
A. なりません。高額介護サービス費として払い戻しを受けた金額は、実質的に自己負担していないことになるため、医療費控除の計算では、支払った金額から払い戻し分を差し引いた金額をベースに考える必要があります。
10.7 Q. 介護費用と医療費、両方をまとめて申告できますか。
A. できます。医療費控除は、介護保険サービスの自己負担額と、通院などの医療費を合算して計算する仕組みです。家族全体の医療費・介護費用をまとめて把握し、1年分をまとめて確定申告で申告することをおすすめします。
10.8 Q. 医療費控除の申告に必要な書類は何ですか。
A. 施設や事業者から発行される領収書、またはサービス利用証明書が必要です。証明書に「医療費控除対象額」が記載されている場合は、その金額をもとに申告します。確定申告書には医療費控除の明細書を添付する必要があるため、支払いのたびに書類を保管しておくとスムーズです。
参考資料
齊藤 慧
