「介護保険料はいくらになるのか」——40歳で天引きが始まったときはピンとこなくても、65歳を迎えて「第1号被保険者」になると、保険料の金額が急に自分ごとになります。しかも、その金額は年齢だけでなく、前年の所得によっても大きく変わる仕組みです。
なお、介護保険料の天引き開始時期や自己負担割合の基本については、下記の記事より一部を引用・参照しています。
この記事では、65歳以上の介護保険料が「所得段階」という仕組みでどう決まるのか、実際の自治体の例をもとに編集部が整理します。
1. 介護保険料は「基準額×乗率」で決まる——年齢と所得の掛け算
まず、65歳以上の介護保険料がどのような仕組みで決まるのかを確認します。
1.1 基準額は市区町村ごとに設定される
介護保険料は、40歳から64歳までの第2号被保険者と、65歳以上の第1号被保険者とで、決まり方が異なります。40歳から64歳までは、加入している医療保険の算定方式に上乗せする形で徴収されますが、65歳以上になると、住んでいる市区町村が3年ごとに設定する「基準額」をもとに、前年の所得に応じた金額が決まる仕組みに切り替わります。
令和6年度から令和8年度までの基準額は、全国平均で月額6225円と公表されています。ただし、これはあくまで全国平均であり、実際の金額は住んでいる市区町村によって異なります。介護サービスの利用状況や高齢化率が地域ごとに違うため、基準額にも地域差が生じます。
この基準額に、前年の所得に応じた「乗率」をかけたものが、実際に納める保険料です。乗率が1.0倍の段階が「基準額どおり」の標準段階にあたり、所得が低い人ほど乗率は低く、所得が高い人ほど乗率は高く設定されています。
2. 所得段階は国の標準13段階を超えて細分化されている自治体が多い
介護保険料の「所得段階」は、国が示す標準では13段階ですが、実際にはこれを上回る段階数を設定している自治体が少なくありません。
2.1 多摩市の例では18段階、乗率は0.25倍〜4.00倍
多摩市(東京都)の令和6〜8年度の資料を確認すると、所得段階は18段階(第8期の17段階から1段階増)に設定されています。基準額は年額6万9800円(月額5817円)で、これが乗率1.0倍にあたる第5段階です。
2.2 【介護保険料の所得段階別イメージ(多摩市・令和6〜8年度の例)】
- 第1段階(生活保護受給者など):乗率0.25倍、年額1万7400円
- 第5段階(基準額・標準段階):乗率1.00倍、年額6万9800円
- 第18段階(合計所得3000万円以上):乗率4.00倍、年額27万9200円
最も所得が低い段階と最も高い段階とでは、年額でおよそ16倍の差があります。多摩市では、所得が高い人により多く負担してもらう観点から、最高乗率をそれまでの3.75倍から4.00倍へ引き上げたことも公表されています。同じ「介護保険料」という名前の制度でも、住んでいる自治体によって段階数も倍率の刻み方も異なるという点は、意外と知られていません。
3. 【編集者の視点】
実務上の注意点は、「所得段階」の判定基準が単純な年収だけでなく、年金収入と他の所得を合算した「合計所得金額」等で決まる点です。年金収入だけを見て自分の段階を予想すると、実際の請求額とずれることがあります。
正確な段階を知りたい場合は、住んでいる市区町村から送付される介護保険料の決定通知書や、市区町村の介護保険担当窓口で確認するのが確実です。
4. 令和8年度は所得段階の判定基準そのものも見直された
令和8年度は、所得段階の数だけでなく、判定基準の金額自体にも見直しが入っています。
4.1 年金収入等の基準額が80万9000円から82万6500円に
令和8年4月1日施行の介護保険法施行令改正により、所得段階のうち第1段階・第2段階・第4段階・第5段階の判定に用いる「年金収入等」の基準額が、80万9000円から82万6500円に見直されました。
4.2 【所得段階の判定基準額の見直し(令和8年度〜)】
- 改定前(〜令和7年度):80万9000円
- 改定後(令和8年度〜):82万6500円
この見直しの背景にあるのは、老齢基礎年金の満額そのものの増額です。令和7年(1〜12月)に支給される老齢基礎年金の満額が、それまでの基準額である80万9000円を上回る水準になりました。 基準額を据え置いたままにすると、老齢基礎年金を満額受給しているだけの人まで自動的に一段高い所得段階に区分されてしまいます。これによって保険料負担が増えることのないよう、基準額そのものを80万9000円から82万6500円へ引き上げる調整が行われました。
つまり、この見直しは収入や制度そのものが変わったわけではなく、年金額の改定に合わせて「物差し」の方を動かした、という性質の調整です。今後の年度でどのような基準になるかは、年金額の改定にあわせてあらためて見直される可能性があるため、自治体の最新の案内を確認する必要があります。
5. 【編集者の視点】
実務上の注意点は、「年金収入が増えていないのに段階が変わった」と誤解しないことです。今回の見直しは、老齢基礎年金の満額という国全体の基準が上がったことに合わせた技術的な調整であり、自分自身の年金収入や所得そのものが増減したわけではありません。
介護保険料の通知書を受け取って金額が変わっていた場合は、まず所得段階の区分がどう変わったのかを確認し、必要であれば市区町村の窓口に問い合わせることをおすすめします。
6. 自分の保険料をシミュレーションしてみる
ここまでの仕組みを踏まえて、自分の介護保険料がどのくらいになりそうか、実際に試算してみます。
6.1 年金収入200万円のケースで考える
例えば、多摩市の基準(基準額年額6万9800円・18段階)にあてはめて、公的年金収入が年間200万円で、他に所得がない65歳の人を仮定します。この場合、住民税は課税されるものの、公的年金等控除を差し引いた後の所得水準から、基準額付近の段階に該当する可能性が高いと考えられます。
一方、同じ多摩市に住んでいても、年金収入が400万円を超えるようなケースでは、より高い段階に区分され、年額の保険料も基準額の1.5倍前後まで上がる可能性があります。同じ「65歳以上」というくくりでも、所得によって年額で数万円単位の差が生じる点は、介護保険料を考えるうえで見落とされがちなポイントです。
ただし、この試算はあくまで多摩市の段階・乗率を用いた一例です。実際の金額は、住んでいる市区町村の所得段階表と、自分の合計所得金額によって変わるため、正確な金額は自治体の通知書や窓口で確認する必要があります。
なお、介護保険料の天引き開始時期や自己負担割合の基本、年金からの天引き対象となる条件もあわせて確認しておくと、65歳以降の家計への影響がより具体的にイメージできます。介護費用そのものの総額感については、介護にかかる総額の試算も参考になります。
7. 保険料が高くて払えないときは、減免や猶予の相談窓口がある
ここまでは保険料の金額の決まり方を見てきましたが、実際に「所得段階どおりの金額を払うのが難しい」という状況になることもあります。そうした場合の対応も確認しておきます。
7.1 災害や失業などの事情があれば、減免や徴収猶予の対象になる場合がある
介護保険料は、原則として所得段階に応じて機械的に決まりますが、災害で大きな損害を受けた場合や、失業・事業の休廃止などで収入が著しく減少した場合には、市区町村の判断により保険料の減免や徴収猶予が認められることがあります。
減免の対象になるかどうか、どの程度の減免率が適用されるかは、市区町村ごとの条例で定められており、全国一律の基準はありません。所得段階の仕組みと同じく、この点も「自分が住んでいる自治体の制度」を確認する必要がある部分です。
また、保険料を滞納したまま一定期間が過ぎると、介護サービスを利用する際の自己負担割合が引き上げられたり、いったん全額を自己負担したうえで払い戻しを受ける形に変更されたりするなど、サービス利用面での不利益が生じる仕組みになっています。収入が減って支払いが難しいと感じた時点で、滞納する前に市区町村の窓口へ相談しておくことが、実務上の防衛策になります。
8. 【編集者の視点】
実務上の注意点は、減免・徴収猶予の制度は「申請しなければ適用されない」という点です。収入が減っているのに黙って保険料を払い続けている人が一定数いると考えられますが、市区町村の窓口に相談すれば、状況に応じた対応が受けられる可能性があります。
「所得段階が固定されたもの」と思い込まず、状況が変わったタイミングで見直しの相談ができる仕組みがあることを知っておくと、いざというときの選択肢が広がります。
※本記事は、編集部が多摩市・足立区が公表する公式の最新一次資料を直接確認の上、執筆・検証しています。
9. 40〜64歳(第2号被保険者)は、なぜ医療保険料と一体で徴収されるのか
ここまでは65歳以上の第1号被保険者を中心に見てきましたが、40〜64歳の第2号被保険者の仕組みも、意外と誤解されがちな部分です。
9.1 介護保険料は単独では請求されず、医療保険料に上乗せされる
40歳から64歳までの人は、国民健康保険や協会けんぽ、健康保険組合など、加入している医療保険の保険料に、介護保険料分を上乗せする形で徴収されます。介護保険料だけの請求書や、給与明細の独立した項目として届くわけではなく、医療保険料の一部として合算されているため、「介護保険料をいくら払っているか」を意識しづらい仕組みになっています。
協会けんぽの場合、令和8年度の介護保険料率は全国一律で定められており、標準報酬月額にこの料率を掛けた金額を、健康保険料率分と合算して労使折半で負担します。国民健康保険の場合は、市区町村ごとに医療分・後期高齢者支援金分・介護納付金分という3つの区分で保険料が計算され、介護納付金分がいわゆる介護保険料に相当します。
実務上の注意点は、65歳の誕生月を境に、徴収のされ方がまったく別物に切り替わるという点です。40〜64歳のうちは医療保険料に埋め込まれていた介護保険料が、65歳になった途端、年金からの天引き(特別徴収)または納付書での支払い(普通徴収)という、独立した徴収に変わります。
この切り替わりのタイミングで、「介護保険料が急に上がった」と感じる人もいますが、実際には上がったのではなく、これまで見えていなかった負担が、初めて単独の項目として可視化されただけというケースが少なくありません。
制度を知らないまま驚くよりも、あらかじめこの仕組みを理解しておくことが、自分の家計を正確に把握する第一歩になります。役所の側も、この2段階の仕組みを積極的に広報しているわけではないため、知っているかどうかで受け止め方が大きく変わってくる部分です。
10. まとめ
- 65歳以上の介護保険料は、市区町村ごとの基準額(全国平均・月額6225円)に、所得段階に応じた乗率をかけて決まります。
- 所得段階は国の標準13段階を超えて細分化している自治体が多く、多摩市の例では18段階、乗率は0.25倍〜4.00倍です。
- 令和8年度は、所得段階の判定に使う年金収入等の基準額が80万9000円から82万6500円に見直されています。
- 正確な保険料額は、全国平均や他自治体の例ではなく、自分が住んでいる市区町村の資料・通知書で確認する必要があります。
介護保険料は「年齢が来たら一律に決まる」ものではなく、住んでいる市区町村と前年の所得という2つの要素が掛け合わさって決まる仕組みです。65歳を迎える前に、大まかな仕組みだけでも知っておくと、実際に通知書が届いたときに落ち着いて内容を確認できます。
正確な金額を知りたい場合は、住んでいる市区町村の介護保険担当窓口や公式ホームページで、最新の所得段階表を確認することをおすすめします。
11. よくある質問
11.1 Q. 介護保険料はいくらになりますか。
A. 全国平均の基準額は月額6225円(令和6〜8年度)ですが、実際の金額は市区町村の基準額と、前年の所得に応じた段階(乗率)によって決まります。正確な金額は、住んでいる市区町村の所得段階表で確認する必要があります。
11.2 Q. 所得段階は全国共通ですか。
A. 国が示す標準は13段階ですが、実際には多くの市区町村がこれを上回る段階数を独自に設定しています。例えば多摩市は18段階、足立区は19段階です。
11.3 Q. 令和8年度に何が変わりましたか。
A. 所得段階の判定に使う年金収入等の基準額が、80万9000円から82万6500円に見直されました。これは老齢基礎年金の満額が増額し、基準額を上回る水準になったことに合わせた調整で、給与所得控除など税制改正とは別の措置です。
11.4 Q. 40歳から64歳までの保険料の決まり方と何が違いますか。
A. 40歳から64歳(第2号被保険者)は、加入している医療保険の算定方式に上乗せする形で徴収されます。65歳以上(第1号被保険者)になると、市区町村が設定する基準額と所得段階にもとづく決まり方に切り替わります。
11.5 Q. 自分の所得段階はどこで確認できますか。
A. 住んでいる市区町村から送付される介護保険料の決定通知書、または市区町村の介護保険担当窓口・公式ホームページで確認できます。
11.6 Q. 引っ越しをすると、介護保険料は変わりますか。
A. 変わる可能性があります。基準額も所得段階の刻み方も市区町村ごとに異なるため、同じ所得であっても、引っ越し先の自治体によって年額の保険料が変わることがあります。引っ越しを検討している場合は、あらかじめ転居先の所得段階表を確認しておくと、家計の見通しを立てやすくなります。
11.7 Q. 保険料を滞納するとどうなりますか。
A. 滞納したまま一定期間が過ぎると、介護サービスを利用する際の自己負担割合が引き上げられたり、いったん全額を自己負担したうえで払い戻しを受ける形に変更されたりするなど、サービス利用面で不利益が生じます。支払いが難しいと感じた時点で、滞納する前に市区町村の窓口へ相談することをおすすめします。
11.8 Q. 介護保険料はどうやって納めますか。
A. 65歳以上の場合、原則として年金からの天引き(特別徴収)で納めます。年金額が年間18万円未満などの一部のケースでは、市区町村から送られる納付書や口座振替で納める「普通徴収」に切り替わります。天引きの対象になるかどうかは、年金の受給額や受給開始のタイミングによって変わるため、通知書の内容をあらかじめ確認しておくと安心です。
11.9 Q. 40〜64歳の介護保険料はどうやって払いますか。
A. 加入している医療保険(国民健康保険・協会けんぽ・健康保険組合等)の保険料に上乗せされる形で、単独ではなく合算して徴収されます。国民健康保険では「介護納付金分」として計算され、被用者保険では健康保険料率と介護保険料率を合わせた金額が労使折半で徴収されます。
11.10 Q. 65歳になったら手続きは必要ですか。
A. 特別な申請は不要です。65歳の誕生日が属する月から自動的に第1号被保険者に切り替わり、市区町村から介護保険被保険者証と、所得段階に応じた保険料の通知が送られてきます。年金受給額が一定以上であれば、原則として年金からの天引き(特別徴収)が自動的に開始されます。
11.11 Q. 所得段階が上がると、介護サービスの自己負担割合も上がりますか。
A. 直接連動するものではありません。介護保険料の所得段階と、介護サービス利用時の自己負担割合(原則1割、所得に応じて2割・3割)は、それぞれ別の基準で判定される仕組みです。ただし、どちらも前年の所得を基準にしている点は共通しているため、保険料の段階が高い人ほど、自己負担割合も高くなりやすい傾向はあります。
正確な自己負担割合は、市区町村から送付される「介護保険負担割合証」で確認できます。制度の呼び方は似ていても、判定の物差しは別物という点を押さえておくと混乱しにくくなります。毎年送られてくる書類が複数あるからこそ、それぞれ何を判定した結果なのかを整理しておくと安心です。
参考資料
齊藤 慧
