「老後は月15万円くらいもらえたら」「できれば月20万円は欲しい」——そう考えたとき、そのためには現役時代にどれくらいの年収が必要なのか、具体的にイメージできる人は多くありません。この記事では、日本年金機構が公表する計算式をもとに、その必要年収を編集部で逆算します。
「いくら稼げば、将来いくらもらえるのか」という掛け算を、逆向きに解いていきましょう。
1. 厚生年金の受給額は、この計算式で決まる
まず、厚生年金の金額がどのような計算式で決まるのかを確認します。
1.1 「平均標準報酬額×5.481/1000×加入月数」が基本の式
日本年金機構によると、老齢厚生年金のうち報酬比例部分は、平成15年4月以後の加入期間について「平均標準報酬額×5.481/1000×被保険者期間の月数」という式で計算されます。現役時代の給与水準(平均標準報酬額)と、厚生年金に加入していた月数の掛け算で決まる仕組みです。
この報酬比例部分に、老齢基礎年金(令和8年度は満額で月7万608円)を足したものが、老後に受け取る年金の合計額になります。
2. 編集部試算:月15万円・20万円に必要な現役時代の年収
ここからが本題です。40年間(20歳から60歳まで480か月)ずっと厚生年金に加入し続けたと仮定して、目標の受給額に必要な年収を逆算します。
2.1 月15万円なら平均年収約434万円、月20万円なら約708万円
老齢基礎年金の月7万608円を差し引いた、厚生年金部分に必要な金額を先に求めます。月15万円が目標なら、厚生年金部分に必要なのは月7万9392円(年95万2704円)です。この金額を計算式から逆算すると、平均標準報酬月額は約36万2124円、年収に換算すると約434万円が目安になります。
同じように月20万円を目標にすると、厚生年金部分に必要なのは月12万9392円(年155万2704円)で、平均標準報酬月額は約59万0184円、年収換算では約708万円が目安です。
2.2 【目標月額別・現役時代に必要な平均年収の目安】
前提条件:20歳から60歳まで40年間(480か月)継続して厚生年金に加入し、平均標準報酬月額が現役期間を通じて一定だった場合の編集部試算。賞与は考慮せず月給ベースの年収換算1/2
出所:日本年金機構「老齢基礎年金の受給要件・支給開始時期・年金額」などを基にLIMO編集部作成
- 月15万円を目指す場合:厚生年金部分は月7万9392円、必要な平均年収の目安は約434万円
- 月20万円を目指す場合:厚生年金部分は月12万9392円、必要な平均年収の目安は約708万円
3. 【編集者の視点】
実務上の注意点は、この試算が「40年間ずっと厚生年金に加入し、平均年収が一定だった場合」という、かなり単純化した前提に基づいている点です。実際には、就職・転職・昇給・育休などで年収は年ごとに変動し、厚生年金に加入していない期間がある人も少なくありません。
この試算はあくまで「大づかみの目安」として捉え、自分の正確な見込み額はねんきん定期便やねんきんネットで確認することをおすすめします。
自分の状況に近づけて考えたい場合は、これまでのおおよその平均年収と、これまでの厚生年金加入年数を、それぞれこの記事の試算値と見比べてみるとよいでしょう。今の年収がまだ目標水準に届いていなくても、これから昇給や転職でどこまで近づけられそうかを考える材料になります。
4. 加入期間が短いと、同じ年収でも受給額は下がる
先ほどの試算は40年間の加入を前提にしていましたが、加入期間が短い人は、同じ年収でも受給額が下がります。
4.1 加入月数が計算式に直接掛け算されているため、短いほど不利になる
計算式「平均標準報酬額×5.481/1000×加入月数」を見ると分かるとおり、加入月数が短くなれば、その分だけ厚生年金部分の金額も比例して小さくなります。たとえば加入期間が30年(360か月)だった場合、40年(480か月)加入した人と同じ平均年収でも、厚生年金部分は4分の3の金額にとどまります。
転職の合間に自営業やフリーランスの期間があった人、出産・育児で厚生年金に加入していない期間があった人は、この加入月数の影響を受けやすい点に注意が必要です。
加入期間の空白は、後から埋め合わせることができません。転職や独立を検討している場合は、厚生年金に加入し続けられる働き方かどうかを、年収の高さと同じくらい重視して判断する価値があります。目先の年収アップだけを追い求めて加入期間が途切れると、結果的に老後の受給額を下げてしまう可能性があるためです。
4.2 【加入期間別・厚生年金部分の受給額の目安】
前提条件:平均標準報酬月額約36万2124円(月15万円試算と同じ水準)を前提に、加入期間別の厚生年金部分(月額)を編集部で試算2/2
出所:日本年金機構「老齢基礎年金の受給要件・支給開始時期・年金額」などを基にLIMO編集部作成
- 40年(480か月)加入:厚生年金部分は月約7万9392円
- 30年(360か月)加入:厚生年金部分は月約5万9544円
- 20年(240か月)加入:厚生年金部分は月約3万9696円
加入期間が10年短くなるごとに、厚生年金部分がおよそ4分の1ずつ減っていく計算です。
5. 【編集者の視点】
実務上の防衛策としては、転職や独立を挟む際に、厚生年金の加入期間がどこで途切れるのかを意識しておくことです。空白期間ができる場合は、国民年金の任意加入や、iDeCoなどの私的年金で補う選択肢も検討する価値があります。
加入期間の通算状況は、ねんきん定期便やねんきんネットで確認できます。定期的にチェックしておく習慣をつけておくとよいでしょう。
6. 年収を上げる以外に、受給額を増やす方法もある
最後に、年収そのものを上げる以外の、受給額を増やすアプローチを確認します。
6.1 繰下げ受給を使えば、同じ加入実績でも増額できる
日本年金機構によると、老齢年金は繰下げ受給を選ぶことで、1か月あたり0.7%、最大75歳まで繰り下げれば84%増額されます。現役時代の年収や加入期間が試算より少なかった場合でも、受給開始のタイミングを工夫することで、月々の受給額を増やせる余地があります。
具体的に見てみます。65歳時点で受け取れる年金額が月18万円だった人が、70歳まで5年間(60か月)繰り下げると、増額率は42%(0.7%×60か月)になります。18万円に42%を上乗せすると、月額は約25万5600円まで増える計算です。65歳の時点で目標の20万円に届かなかった人でも、繰下げ受給という選択肢を組み合わせることで、結果的に目標を上回る受給額に到達できる余地があります。
年収を上げることも、加入期間を延ばすことも、繰下げ受給を選ぶことも、それぞれ独立した変数として、老後の受給額に影響します。どれか1つだけにこだわらず、組み合わせで考えることが大切です。現役時代の年収だけで結果が決まるわけではない、という点は覚えておく価値があります。
ただし、繰下げ受給には注意点もあります。繰り下げている間は年金を受け取れないため、その間の生活費を別の収入や貯蓄でまかなう必要があります。また、加給年金や振替加算など、一部の給付は繰下げによる増額の対象外になる場合があります。安易に「繰り下げれば安心」と考えるのではなく、自分の資産状況や健康状態も踏まえて判断することが望ましいでしょう。
7. 賞与を含めるかどうかで、必要な「月給」の水準は変わる
ここまでの試算では、必要年収を「平均標準報酬月額×12」という、賞与を含まない月給ベースの単純な換算で示してきました。この前提について、もう一歩踏み込んで確認しておきます。
7.1 実際の制度では、賞与も年金額の計算に反映されている
日本年金機構によると、平成15年4月の総報酬制導入以降、賞与にも厚生年金保険料がかかり、その分は「標準賞与額」として、月々の標準報酬月額と合算した「平均標準報酬額」で年金額が計算されます。つまり、賞与がある人は、月給だけの人より少ない月給水準でも、同じ厚生年金額に到達できる計算になります。
言い換えると、この記事の試算はあくまで「賞与がまったく無い場合の、月給だけで到達すべき水準」という、やや保守的な(厳しめの)目安です。賞与を含めた実際の年収で考えるなら、必要な水準はここで示した金額よりも低くなる場合があります。
たとえば、年2回・合計で月給の4か月分相当の賞与を受け取っている人であれば、年間の総支給額は「月給×12+月給×4」=月給の16か月分になります。この場合、月給そのものは、この記事で示した「必要年収÷12」の水準より低くても、賞与を合わせた総支給額ベースでは同じ厚生年金額に到達できる可能性があります。
逆に、フリーランスや自営業からの転職などで賞与が無い、または少ない働き方をしている人は、この記事の試算がそのまま実態に近い目安になります。自分の働き方における賞与の有無・金額を踏まえて、この試算を上振れ・下振れどちらの方向に補正すべきかを考えることが大切です。
業種や企業規模によって賞与の水準は大きく異なるため、一律の補正係数を示すことはできません。自分の直近数年分の賞与実績を振り返り、月給の何か月分に相当するかを把握しておくと、この記事の試算をより実態に近づけて使えるようになります。
なお、ここで示した「標準報酬月額」「標準賞与額」という言葉は、いずれも厚生年金保険料や年金額の計算で使われる専門用語で、実際の給与明細の額面とは区分が異なる場合があります。詳しい仕組みを知りたい場合は、日本年金機構の公表資料で確認することをおすすめします。
※本記事は、編集部が日本年金機構が公表する公式の最新情報を直接確認の上、執筆・検証しています。
なお、関連して年金「平均受給額」の残酷な現実と男女格差についても、あわせて確認しておくと理解が深まります。
8. まとめ
- 厚生年金は「平均標準報酬額×5.481/1000×加入月数」という計算式で決まります。
- 編集部の試算では、月15万円を目指すなら平均年収約434万円、月20万円なら約708万円が、40年間加入を前提にした目安になります。
- 加入期間が短くなると、同じ年収でも厚生年金部分の受給額は比例して下がります。
- 繰下げ受給を使えば、現役時代の実績が試算より少なくても、受給開始のタイミングで増額できる余地があります。
- 自分の正確な見込み額は、ねんきん定期便やねんきんネットで確認することをおすすめします。
「月15万円・20万円もらうには、いくら稼げばいいのか」という疑問には、日本年金機構が公表する計算式を使うことで、大づかみの答えを出せます。ただし、この試算はあくまで単純化した目安であり、実際の受給額は加入期間や年収の変動によって大きく変わります。
より正確な見込み額を知りたい場合は、ねんきん定期便やねんきんネット、年金事務所での相談を活用することをおすすめします。
年収・加入期間・受給開始タイミングという3つの変数を、それぞれ自分がどこまでコントロールできるかを整理しておくと、老後の年金額に対する見通しがより具体的になります。今の働き方を続けた場合の到達点を知ることは、将来の選択肢を広げる第一歩になるはずです。
あわせて、ねんきん定期便から読み解く受給額のリアルも参考にしてみてください。
9. よくある質問
9.1 Q. この試算は誰にでも当てはまりますか。
A. 当てはまりません。40年間ずっと厚生年金に加入し、平均年収が一定だったという単純化した前提での試算です。実際の年収は年ごとに変動するため、あくまで大づかみの目安として使ってください。若いうちは年収が低く、年齢とともに上がっていく人が大半なので、平均年収の考え方には幅を持たせておくとよいでしょう。
9.2 Q. 賞与も計算に含まれていますか。
A. この記事のメインの試算では、月給ベースの年収換算にとどめており、賞与は考慮していません。実際の厚生年金保険料・受給額の計算では、賞与も標準賞与額として反映されるため、賞与のある会社員であれば、この記事で示した水準よりも低い月給でも目標に届く場合があります。
9.3 Q. 加入期間が短い場合、年収を上げれば取り戻せますか。
A. 部分的には可能です。計算式は年収(平均標準報酬額)と加入月数の掛け算のため、年収を上げれば、その分だけ厚生年金部分は増えます。ただし加入月数そのものを後から増やすことはできません。繰下げ受給による増額と組み合わせて考えるのも一つの方法です。
9.4 Q. 自分の正確な必要年収を知りたい場合はどうすればよいですか。
A. ねんきん定期便やねんきんネットで、これまでの加入実績と将来の見込み額を確認できます。より詳しい試算をしたい場合は、年金事務所に相談することをおすすめします。この記事の試算はあくまで出発点として活用してください。
9.5 Q. 転職を繰り返してきた場合、この試算はどう見ればよいですか。
A. 転職のたびに年収が変動していても、厚生年金の受給額は加入期間全体を通じた平均標準報酬額で計算されます。単年の年収だけで判断せず、これまでの加入期間全体を通じた平均像として捉えることが大切です。加入期間中に無職や自営業の期間があった場合は、その間は厚生年金への上乗せがない点もあわせて考慮しておくとよいでしょう。
関連して老後資金の正しい「内訳」と不足額のあぶり出しもあわせてご覧ください。
参考資料
齊藤 慧
