「自分の年金は、みんなより多いのか少ないのか」——そんな疑問を持ったことはないでしょうか。
厚生労働省が公表した最新の統計によると、老齢年金の平均受給額は月15万289円です。ただし、この数字だけで自分の立ち位置を判断すると、実態を見誤るおそれがあります。
実は、平均を下回っている人のほうが多数を占めています。男女で見ると、その差はさらにはっきりします。
本記事では、厚生労働省「令和6年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」の一次資料に基づき、年金の平均受給額と男女差の実態を、受給額の分布まで踏み込んで確認します。
- 老齢年金の平均受給額は月15万289円ですが、これを下回る人が全体の約半数を占めています。
- 厚生年金の平均受給額は男性16万9967円・女性11万1413円で、5万8554円の差があります。
- 編集部試算では、男性だけ「中央値が平均を上回る」逆転が起きており、平均だけでは実態を読み誤りやすいことが分かります。
1. そもそも「年金の平均受給額」とは何を指すのか
「年金の平均受給額」という言葉には、実は複数の年金制度の数字が含まれています。まず、どの制度の、どの数字を指しているのかを整理します。
1.1 国民年金と厚生年金は別の制度
公的年金には、国民年金(老齢基礎年金)と厚生年金保険(老齢厚生年金)の2つがあります。
国民年金は20歳から60歳までの全員が加入する制度です。厚生年金は、会社員や公務員など、雇われて働く人が加入します。
厚生年金に加入している人は、国民年金にも同時に加入しているため、厚生年金の受給額には国民年金部分(基礎年金)が含まれています。
1.2 今回使うのは令和6年度の最新データ
年金額は毎年度改定されるほか、受給者の平均額も年ごとに変わります。今回使用するのは、厚生労働省年金局が令和7年12月に公表した「令和6年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」です。
令和6年度末(2025年3月末)時点の、老齢年金受給権者の平均年金月額を確認していきます。
2. 令和6年度の平均受給額を男女別に見る
まず、厚生年金と国民年金それぞれの平均受給額を、男女別に確認します。
2.1 厚生年金の平均受給額
厚生年金(老齢年金)の受給権者の平均年金月額は、令和6年度末現在で全体15万289円です。
男女別に見ると、男性は16万9967円、女性は11万1413円となっています。男女の差は5万8554円です。
2.2 国民年金の平均受給額
国民年金(老齢基礎年金等、原則25年以上の受給資格期間がある人)の平均年金月額は、令和6年度末現在で全体5万9310円です。
男女別では、男性6万1595円、女性5万7582円となっており、厚生年金に比べると差は小さくなっています。
2.3 【令和6年度末・老齢年金の平均受給額(男女別)】
前提条件:令和6年度末現在、老齢年金受給権者の平均年金月額(厚生労働省「令和6年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」より、基礎年金相当額を含む)1/2
出所:厚生労働省年金局「令和6年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」などを基にLIMO編集部作成
厚生年金(老齢年金)の場合
- 全体:15万289円
- 男性:16万9967円
- 女性:11万1413円
国民年金(老齢基礎年金等)の場合
- 全体:5万9310円
- 男性:6万1595円
- 女性:5万7582円
3. 平均を下回っている人が実は半数を占める
ここまでの数字は、あくまで「平均」です。平均には、受給額が高い人も低い人もすべて含まれています。
そこで、令和6年度の統計に掲載されている、年金月額を1万円刻みで区分した受給権者数の分布データを使い、平均を下回っている人がどれくらいいるかを編集部で試算しました。
3.1 厚生年金では半数近くがすでに平均未満
厚生労働省の分布データを基に編集部で計算したところ、厚生年金の受給権者のうち、平均(15万289円)を下回っている人は約50.3%でした(前提:階級内は均等に分布すると仮定した推計値)。
つまり、厚生年金を受け取っている人のおよそ半数は、「平均並み」にすら届いていない計算になります。
3.2 女性は男性より下回る割合が高い
男女別に見ると、この傾向はさらにはっきりします。編集部の試算では、女性は自分の平均(11万1413円)を下回っている人が約55.1%、男性は自分の平均(16万9967円)を下回っている人が約46.3%でした。
女性のほうが、一部の受給額が高い人によって平均が押し上げられている度合いが大きいと考えられます。
3.3 【平均を下回っている人の割合(編集部試算)】
前提条件:令和6年度末現在の厚生年金(老齢年金)受給権者の年金月額階級別分布(厚生労働省資料)を基に、編集部が階級内均等分布を仮定して算出2/2
出所:厚生労働省年金局「令和6年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」などを基にLIMO編集部作成
全体の場合
- 平均年金月額:15万289円
- 平均を下回る人の割合:約50.3%
男性の場合
- 平均年金月額:16万9967円
- 平均を下回る人の割合:約46.3%
女性の場合
- 平均年金月額:11万1413円
- 平均を下回る人の割合:約55.1%
4. 【編集者の視点】
「平均より少ない」と分かると、それだけで不安になる方は少なくないでしょう。ですが、今回の試算が示す通り、平均を下回っている人のほうが実は多数派です。
ここで注意したいのは、この平均・分布はあくまで全国全体の集計であり、加入期間や年齢構成が異なる人たちをひとまとめにした数字だという点です。
実務の場面では、「国民年金だけで働いてきた期間が長い人」と「厚生年金に長く加入してきた人」を同じ枠で比べてしまう誤解がよく起こります。同じ「年金」でも、前提となる加入履歴が違えば、数字の意味は大きく変わります。
転職や退職を挟んだ期間、専業主婦(夫)だった期間など、働き方が変わった時期に記録の抜けや誤りが生じているケースも見受けられます。
自分の年金額を知りたい場合、全国平均と比較するより、日本年金機構から毎年送られる「ねんきん定期便」で、自分自身の加入実績と将来の見込み額を確認するほうが実務的には有効です。
特に50歳以上の方に送られる定期便には、実際の見込み額が記載されています。見込み額に不安がある場合は、年金事務所の窓口で、加入期間の記録に漏れがないかを確認しておくと安心です。
なお、短時間労働者への被用者保険の適用は令和6年10月から従業員51人以上の企業にも広がりました。従来は加入対象外だった働き方でも、厚生年金の対象になる場合があるということです。将来の受給額を見据えて働き方を選ぶ際の材料として、こうした制度の変化も知っておく価値があります。
5. 年金の男女差はどこから生まれるのか
厚生年金で5万8554円という男女差が生まれる背景を、厚生労働省の公表資料に基づいて確認します。
5.1 加入中の賃金(標準報酬月額)に差がある
厚生年金保険(第1号)の標準報酬月額の平均は、令和6年度末現在で男性37万7千円、女性26万7千円です。
年金額は現役時代の賃金と加入期間に応じて決まる仕組みのため、この賃金の差が年金額の差につながっていると考えられます。
5.2 短時間労働者に占める男女の比率も異なる
令和6年度末現在の短時間労働者数は111万人で、男性26万人・女性85万人となっています。短時間労働者の標準報酬月額の平均も、男性16万8千円・女性15万1千円と、通常の被保険者より低くなっています。
厚生労働省はこの男女差の要因について明示的な分析を公表していませんが、加入中の賃金や働き方の実態に男女差があることが、年金額の差につながる構造の一つと考えられます。
なお、今回確認した資料には、男女別の厚生年金への平均加入期間そのものを示す数字は掲載されていません。加入期間の長さも年金額に影響する要素ですが、その差の大きさを直接示すデータは、今回の資料からは確認できませんでした。
6. 編集部試算:男性は「中央値のほうが平均より高い」逆転が起きている
「平均は高額な人に引き上げられ、中央値のほうが実態に近い」という言い方をよく見かけます。ですが、厚生年金の男性のデータでは、逆の現象が起きていました。
6.1 分布データから中央値を編集部で算出
厚生労働省の公表資料には、年金月額を1万円刻みの階級に分けた受給権者数の分布表が掲載されています。この分布表を使い、編集部で男女別の中央値を算出しました(前提:令和6年度末現在、階級内は均等に分布すると仮定した推計値)。
算出の結果、男性の中央値は約17万4238円となり、平均(16万9967円)を上回りました。女性の中央値は約10万7849円で、平均(11万1413円)をやや下回っています。
6.2 「平均は高く見える」は女性だけに当てはまる
一般的には「平均は少数の高額受給者に引き上げられ、中央値のほうが実態に近い低めの数字になる」と説明されることが多いです。
この説明は女性には当てはまりますが、男性には当てはまりません。男性の場合、平均よりも中央値のほうが高く出ており、逆の構造になっています。
6.3 【平均と中央値(編集部試算)の比較】
男性の場合
- 平均:16万9967円
- 中央値(編集部試算):約17万4238円
女性の場合
- 平均:11万1413円
- 中央値(編集部試算):約10万7849円
7. 【編集者の視点】
「平均より中央値が高い」逆転が男性で起きている理由を、憶測ではなく厚生労働省の資料の記述から確認します。
資料には、特別支給の老齢厚生年金の定額部分の支給開始年齢引き上げが完了しているため、65歳未満の受給権者は原則、報酬比例部分のみの年金になっている、という説明があります。つまり、64歳までの受給権者の年金額は、65歳以上の受給権者と比べて低くなりやすい仕組みです。
令和6年度末時点で、65歳未満(60〜64歳)の厚生年金受給権者は合計77万人おり、その平均年金月額は8万2267円と、65歳以上の受給権者と比べてかなり低くなっています。この年齢層が分布の低い側に一定数積み重なることで、平均が押し下げられている可能性があります。
一方で、資料には「繰上げ受給を選択した人は、年金額が減額される代わりに基礎年金も同時に繰上げされるため、平均年金月額が高くなっている」という記述もあり、低い年齢層の中でも受給の選び方によって金額の出方は一様ではありません。
男女それぞれの分布を見比べると、女性は元々の受給額の水準が低いため、少数の高額な受給者が平均を引き上げる効果が相対的に大きく出やすいと考えられます。男性は受給額の水準が高い層が広く分布しているため、平均と中央値の位置関係が変わりやすいという見方もできます。
この分析はあくまで資料の記述に基づく一つの説明であり、要因を断定するものではありません。ご自身の年金額を正確に知りたい場合は、ねんきん定期便や年金事務所での確認を優先してください。
※本記事は、編集部が厚生労働省が公表する公式の最新一次資料を直接確認の上、執筆・検証しています。
8. まとめ
- 老齢年金の平均受給額は月15万289円ですが、これを下回る人が全体の約50.3%を占めます。
- 厚生年金の平均受給額は男性16万9967円・女性11万1413円で、差は5万8554円です。
- 国民年金の平均受給額は男性6万1595円・女性5万7582円で、厚生年金より男女差は小さくなっています。
- 編集部試算では、厚生年金の男性は中央値が平均を上回るという、女性とは逆の構造が見られました。
「平均」という一つの数字は、自分の立ち位置を知る出発点にはなりますが、それだけで年金を評価するには材料が足りません。分布や男女差まで見ることで、平均という数字の見え方は変わってきます。
自分の年金額を具体的に把握したい場合は、日本年金機構から届く「ねんきん定期便」を確認し、記録に疑問があれば年金事務所に相談することから始めてみてください。
9. よくある質問
9.1 Q. 年金の平均受給額はなぜ男女で差があるのですか。
A. 厚生労働省の資料によると、厚生年金保険(第1号)の標準報酬月額の平均は男性37万7千円・女性26万7千円と差があります。年金額は現役時代の賃金や加入期間に応じて決まるため、この賃金の差が年金額の男女差につながっていると考えられます。
9.2 Q. 国民年金だけの場合の平均受給額はいくらですか。
A. 国民年金(老齢基礎年金等、原則25年以上の受給資格期間がある人)の平均年金月額は、令和6年度末現在で全体5万9310円、男性6万1595円、女性5万7582円です。
9.3 Q. 平均受給額と中央値はどちらを参考にすべきですか。
A. どちらも一つの手がかりにはなりますが、どちらか一方だけで自分の年金を判断するのは適切ではありません。ご自身の年金額は、日本年金機構の「ねんきん定期便」やねんきんネットで確認するのが確実です。
9.4 Q. 厚生年金の加入期間にも男女差はあるのですか。
A. 今回確認した「令和6年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」には、男女別の平均加入期間を直接示す数字は掲載されていません。加入期間は年金額に影響する要素の一つですが、その差の大きさをこの資料から確認することはできませんでした。
参考資料
- 厚生労働省年金局「令和6年度厚生年金保険・国民年金事業の概況」(令和7年12月公表)
齊藤 慧
