8. 70歳代に多い「一度書き出したきりになっていて、今のものと合っているのか分からない」というご相談。ファイナンシャルアドバイザー・松本 真奈が伝えたいこと

思い立って一覧を作ってみたものの、そのあとが続かない。これは、記録を残そうとされた方の多くが通る道です。解約したもの、住まいや連絡先が変わったこと、あとから増えた付き合い。作った時点では正しかった内容が、日々の暮らしのなかで少しずつ実際と離れていきます。ここでは、ファイナンシャルアドバイザーが日頃の面談でよく受けるご相談のひとつを、個人が特定されないよう内容を一般化したうえで取り上げます。

8.1 70歳代に多いお悩み相談は「一度書き出したきりになっていて、今のものと合っているのか分からない」

70歳代(ご相談者)
何年か前に思い立って、持っているものを紙に書き出しました。ただ、それきりになっています。そのあとやめた契約もありますし、住まいが変わって届け先も変えました。書いたものと今とが合っているのか、自分でも分かりません。いっそ最初から作り直したほうが早い気もするのですが、また同じように書いたきりになりそうで、手が止まっています。しまってある場所も、家族に伝えたかどうか覚えていません。

相談の場では、こうしたお話をよくうかがいます。書き出したこと自体は、それだけで大きな一歩です。困っておられるのは書く力ではなく、書いたあとをどう続けるかという部分にあります。記録は作った日を境に古くなっていくものですから、続かないのはご本人の怠りというより、続く形になっていなかった、という整理に行き着くことが少なくありません。

8.2 【ファイナンシャルアドバイザー・松本 真奈が回答】作り直すより、直しやすい形と見直す時期を決めるほうが先

松本 真奈

最近は、資産に関するマネーリテラシーが上がってきており、並行して「終活」に差し掛かっている方も増えています。
ご自身がしっかりと準備してきた資産をどう使って行くのか、もしくは家族に残していくのかを考える際にも記録は非常に大切な作業です。

「古くなってしまったのだから、最初から作り直すしかない」と考えてしまう前に、紙のままがよいのかデータにしたほうがよいのかをご自身の続けやすさで選び直し、いつ見直すかを暦の日や届く通知といった出来事にひもづけて先に決めておき、その置き場所をご家族が分かる形にしておくことで、古くなっても直しながら使い続けられる記録になります。

8.3 ポイント1:紙のままか、データにするか。どちらが正しいかではなく、直しやすいほうを選ぶ

まず考えたいのが、その記録をどんな形で持っておくかです。紙とデータには、それぞれ違うよさと不便さがあります。紙は、開けば誰でもそのまま読めます。機器の使い方を知らないご家族でも、必要なときに手に取れるのが強みです。一方で、書き直すたびに線を引いたり書き足したりすることになり、枚数が増えると探しにくくなります。データは反対で、書き直すのも並べ替えるのもたやすく、いつも新しい状態を保ちやすい形です。ただ、どこにしまってあるか、どうやって開くのかをご家族が知らなければ、必要なときに見てもらえません。どちらがすぐれているということはなく、紙のままのほうが合っておられる方もたくさんいらっしゃいます。相談の場でお尋ねしているのは、ふだん書きものをどちらでなさっているか、ということです。ふだんの習慣から離れた形を選ぶと、直す手間が増えて続かなくなります。紙もデータも両方作って、どちらが新しいのか分からなくなるのがいちばん困りますので、正本はどちらかに決めておくと迷いません。

8.4 ポイント2:見直す時期は、暦の日や届く通知といった出来事にひもづけて決めておく

続かない記録に共通しているのは、いつ手を入れるかが決まっていないことです。気がついたときに直そうと考えていると、その「気がついたとき」はなかなか訪れません。相談の場でおすすめしているのは、見直しをご自身の予定ではなく、向こうからやってくる出来事にひもづけてしまう方法です。たとえば、ご自身やご家族のお誕生日、年に一度届く契約内容のお知らせ、公的な通知が届く時期。そうした、放っておいても巡ってくる機会を目印にしておくと、思い出す手間が要らなくなります。届いた封書を開いたついでに、その一枚だけを見て古いところに手を入れる、という程度で十分です。また、契約をやめたとき、届け先を変えたとき、新しく何かを始めたときのように、変化が起きたその場で直してしまうのが、いちばん手間の少ないやり方です。ここで大事なのは、全部を見返そうとしないことです。すべてを点検しようとすると腰が重くなり、結局そのままになります。変わったところだけを直し、直した日付を書き添えておく。それだけでも、読む側は「ここから先は確かめ直そう」と判断できるようになります。

8.5 ポイント3:置き場所をご家族が知っているか。そして、書き残さないものを決めておく

どれだけ手入れの行き届いた記録でも、置き場所が伝わっていなければ、必要なときに開かれません。入院なさったとき、急な事情でしばらく動けないとき。そうした場面でご家族が最初の一歩を踏み出せるようにしておくことが、記録を持っておくことのいちばんの値打ちだと考えています。中身を細かく共有していただく必要はありません。どこにしまってあるか、それだけが伝わっていれば十分です。データの場合は、どの機器のどこにあるのかまで伝わっているかを確かめておきます。そのうえで、書き残さないものも決めておいてください。暗証番号やパスワードといったものは、この記録には書かないでください。その一枚が誰かの手に渡れば、書いてあるとおりに動かせてしまうためです。いくら預けているかという金額も、載せずにおくことをおすすめします。値動きのあるものをお持ちであれば残高は日々変わりますし、価格の変動によって元本を下回ることもありますから、書いた数字が実際と合っている期間はごく短いのです。載せるのは在りかまでで、中身の多寡までは載せない。そう線を引いておくと、あとから手を入れる回数そのものが減っていきます。なお、契約や手続きの取り扱いは改正や見直しによって変わることがありますので、実際の進め方は公的機関の情報や契約先の窓口、関連する部署でお確かめください。

記録は、完璧に作り込むほど続かなくなります。空欄が残っていても、古い記述が混じっていても、直せる形で手元にあることのほうが大切です。どんな形が続けやすいかはご家庭ごとに違いますので、実際の整え方については、状況を確かめながら専門家とご一緒に考えていただければと思います。

9. まとめにかえて

記録は、作った日がいちばん正しく、そこから少しずつ古くなっていきます。契約をやめた、住まいや届け先が変わった、新しい付き合いが増えた。そうした出来事が重なるたびに、書いたものと実際とのあいだにずれが生まれます。ですから、書き出したあとに手が止まってしまうのは、めずらしいことではありません。

この記事では、紙のままかデータにするかを続けやすさで選ぶこと、いつ見直すかを暦の日や届く通知といった出来事にひもづけて決めておくこと、そして置き場所をご家族に伝えたうえで、暗証番号や金額のように書き残さないものを決めておくことを、相談の現場でよく交わされる整理として取り上げました。どれも手間のかかることではありませんが、この三つが決まっているかどうかで、記録が使えるものであり続けるかどうかが変わってきます。

大切なのは、きちんと作ることよりも、直しながら持ち続けられることです。埋まらない欄があってもかまいませんし、ときどき古いままの箇所が残っていてもかまいません。値動きのある資産には価格の変動があり、元本割れとなる可能性があります。また、契約の内容や手続きの取り扱い、税に関する定めは改正によって変わることがありますので、最新の内容は公的機関の情報や契約先の窓口でご確認ください。ご自身の状況に沿った判断については、関連する部署や専門家に確かめながら進めていただければと思います。

参考資料