「厚生年金をずっと納めてきたのだから、年金生活者支援給付金は関係ないだろう」——制度名に「基礎年金」という言葉が入っているせいで、こう考えている厚生年金受給者は少なくないかもしれません。しかし、これは制度の仕組みを誤解した思い込みです。
逆に、「厚生年金をもらっている以上、老齢基礎年金の給付金の対象にはなれない」と決めつけてしまうと、本来受け取れるはずの給付金を見逃す可能性があります。名前だけで判断せず、実際の支給要件を確認することが大切です。
結論から言うと、老齢年金生活者支援給付金は、厚生年金の受給有無ではなく、老齢基礎年金を受給しているかどうかと、前年の所得等の基準で判定されます。この記事では、厚生年金受給者がなぜ誤解しやすいのか、その理由と実際の判定の仕組みを編集部で整理します。
なお、年金生活者支援給付金の制度全体や2026年度の基準額については、下記の記事より一部を引用・参照しています。
1. 「厚生年金受給者は対象外」という誤解はなぜ生まれるのか
まず、この誤解がなぜ広がりやすいのかを確認します。制度の名称や仕組みを正しく理解しないまま自己判断してしまうと、本来対象になるはずの人が請求手続きを見送ってしまう可能性があります。
1.1 制度名に「基礎年金」とあるため、厚生年金受給者は無関係だと感じやすい
老齢年金生活者支援給付金は、正式には老齢基礎年金の受給者を対象とした制度です。この「基礎年金」という言葉から、「厚生年金を受け取っている自分は対象外なのでは」と考えてしまう人が一定数いると考えられます。会社員として長く働き、厚生年金保険料を納め続けてきた人ほど、この誤解を持ちやすい傾向があるかもしれません。
しかし、実際には老齢基礎年金と老齢厚生年金は、多くの人にとって同時に受給する年金です。会社員や公務員として働いていた期間は、国民年金の第2号被保険者として扱われ、厚生年金保険料の中に国民年金の保険料相当分も含まれています。そのため、厚生年金保険料を納めていた期間は、老齢基礎年金の受給資格期間にもカウントされる仕組みになっています。
この仕組みは、国民年金と厚生年金が「1階部分」「2階部分」という二階建ての構造になっていることに由来します。1階部分である老齢基礎年金は全国民共通の土台であり、会社員・公務員はその上に2階部分である老齢厚生年金を積み上げる形で受給します。厚生年金だけを単独で受け取るという仕組みは、制度上そもそも存在しません。
そのため、「厚生年金を受給している」という状態は、通常「老齢基礎年金も同時に受給している」ことを意味します。この二階建ての構造を知らないまま「厚生年金」と「老齢基礎年金」を別々の制度だと考えてしまうと、給付金の対象からも自分を除外してしまいかねません。
2. 編集部試算:厚生年金受給者が実際に判定される基準
それでは、厚生年金受給者は具体的に何を基準に判定されるのかを確認します。厚生年金の金額そのものよりも、公的年金等控除後の所得を含めた総合的な所得額が焦点になります。
2.1 判定されるのは「老齢基礎年金の受給」と「前年所得」の2点
老齢年金生活者支援給付金の支給要件は、65歳以上で老齢基礎年金を受けていること、本人の前年所得が一定基準以下であること、同一世帯の全員が住民税非課税であることの3つです。令和8年度の所得基準額は、前年所得80万9000円以下(老齢年金生活者支援給付金)、80万9000円超90万9000円以下(補足的老齢年金生活者支援給付金・減額調整支給)です。
ただし令和8年10月分からは基準額が引き上げられ、82万6500円以下(満額)、82万6500円超92万6500円以下(減額調整支給)に変わります。
2.2 【老齢年金生活者支援給付金・判定される3つの要素】
前提条件:日本年金機構「老齢年金生活者支援給付金」の令和8年度所得基準額(昭和31年4月2日以後生まれ)を編集部で整理1/2
出所:日本年金機構「老齢(補足的老齢)年金生活者支援給付金」などを基にLIMO編集部作成
- 年齢・受給状況:65歳以上で老齢基礎年金を受給(厚生年金の受給有無は判定に含まれない)
- 本人の前年所得:【9月分まで】80万9000円以下(満額)/80万9000円超〜90万9000円以下(減額調整支給)
- 本人の前年所得:【10月分から】82万6500円以下(満額)/82万6500円超〜92万6500円以下(減額調整支給)
- 世帯の課税状況:同一世帯の全員が住民税非課税(厚生年金の受給有無は判定に含まれない)
この表からわかる通り、判定要素のいずれにも「厚生年金の受給有無」という項目はありません。厚生年金を受給していても、老齢基礎年金の受給と所得・世帯の基準を満たしていれば、対象になります。
ここでいう「前年所得」には、厚生年金や老齢基礎年金などの公的年金等控除後の所得のほか、給与所得や不動産所得など、他の所得も合算されます。厚生年金の受給額が多い人ほど、この所得基準を超えやすくなるのは事実ですが、それはあくまで所得の合計額が基準を超えるかどうかの問題であり、「厚生年金を受給していること」自体が除外理由になるわけではありません。
3. 【編集者の視点】
実務上の注意点は、「厚生年金の受給有無」ではなく「前年の所得額」が対象可否を分けるという点です。厚生年金の受給額が多い人ほど、結果的に前年所得が基準額を超えやすくなるため、対象外になるケースが多いのは事実です。しかし、それは制度の設計上「厚生年金受給者を排除している」わけではなく、あくまで所得基準を満たすかどうかの結果にすぎません。
厚生年金の受給額が少ない、または短期間しか厚生年金に加入していなかった人は、老齢基礎年金を受給していて所得基準を満たしていれば、厚生年金を受給していても対象になる可能性があります。「厚生年金=対象外」と決めつけず、実際の所得額を確認することが大切です。
4. 例外的に対象外となるケース:特別支給の老齢厚生年金のみの受給者
一方で、厚生年金受給者の中にも、実際に対象外となるケースがあります。ここを正確に理解しておくことが重要です。「厚生年金=関係ない」という誤解とは逆に、「厚生年金を受け取り始めた=給付金の対象になった」と早合点するのも、同じくらい注意が必要な思い込みです。
4.1 60〜64歳で特別支給の老齢厚生年金のみを受給している場合
生年月日によっては、65歳になる前から「特別支給の老齢厚生年金」を受け取れる場合があります。この年金は老齢厚生年金の一部を先行して受け取る仕組みであり、老齢基礎年金とは別の年金です。この期間は、老齢基礎年金をまだ受給していないため、老齢年金生活者支援給付金の対象にはなりません。
つまり、「厚生年金を受給している」という状態だけを見ると同じでも、それが特別支給の老齢厚生年金なのか、65歳以降の本来の老齢厚生年金(老齢基礎年金とあわせて受給するもの)なのかによって、給付金の対象可否が変わります。この点は、単に「厚生年金受給者かどうか」では判断できない、制度上の細かな区分です。
特別支給の老齢厚生年金は、生年月日や性別によって支給開始年齢が異なり、対象となる人は限られています。昭和36年4月2日以後生まれの男性、昭和41年4月2日以後生まれの女性は、原則としてこの制度の対象外となり、老齢厚生年金の受給開始も65歳からになります。自分がこの特別支給の対象世代に該当するかどうかも、あわせて確認しておくとよいでしょう。
4.2 【受給している年金の種類と給付金の対象可否】
前提条件:厚生年金受給者を「特別支給の老齢厚生年金(60〜64歳)」と「65歳以降の老齢厚生年金」に分けて対象可否を編集部で整理2/2
出所:日本年金機構「老齢(補足的老齢)年金生活者支援給付金」などを基にLIMO編集部作成
- 特別支給の老齢厚生年金のみ(60〜64歳):老齢基礎年金はまだ受給していないため対象外
- 老齢厚生年金+老齢基礎年金(65歳以降):老齢基礎年金を受給しているため、所得・世帯基準を満たせば対象
5. 【編集者の視点】
「厚生年金を受給し始めた=老齢基礎年金も受給している」と思い込んでいる人は少なくありません。しかし、特別支給の老齢厚生年金だけを受け取っている60代前半の期間は、老齢基礎年金の受給権がまだない状態であり、この給付金の対象にはなりません。
この構図は、老齢基礎年金を繰上げ受給した場合に給付金が65歳まで支給されないケースとも共通しています。「厚生年金や年金を受け取り始めた」という事実だけでなく、「老齢基礎年金を受給しているかどうか」を切り分けて確認する習慣が、誤解を防ぐ鍵になります。
※本記事は、編集部が日本年金機構が公表する公式の最新情報を直接確認の上、執筆・検証しています。
6. 自分の状況を確認する方法
最後に、自分が対象になるかどうかを確認する方法を整理します。制度名や年金の受給有無だけで自己判断せず、実際の書類や窓口で確認することが、見落としを防ぐ最も確実な方法です。
6.1 ねんきん定期便や年金証書で、受給している年金の種類を確認する
自分が受け取っている年金が、老齢基礎年金を含むものかどうかは、年金証書や年金振込通知書の記載内容で確認できます。「老齢基礎年金」という名称の記載があれば、すでに老齢基礎年金を受給していることになります。
ねんきん定期便にも、これまでの年金加入期間や、将来受け取る年金の見込額が記載されています。50歳以上の人に送付されるねんきん定期便では、老齢基礎年金と老齢厚生年金がそれぞれ別の欄に記載されているため、自分がどちらの年金をどのタイミングから受け取る見込みなのかを、あらかじめ確認しておくことができます。
6.2 所得基準に該当するか不安な場合は、年金事務所に相談する
前年の所得が基準額に近く、対象になるかどうか判断がつかない場合は、年金事務所や街角の年金相談センターに相談することをおすすめします。厚生年金の受給額だけで自己判断せず、実際の所得額をもとに確認するのが確実です。
すでに要件を満たしているにもかかわらず請求手続きを行っていない場合、給付金は自動的には支給されません。65歳になる誕生月の初旬に日本年金機構から請求書が送付されるため、届いた場合は速やかに提出することが、支給を受けるための前提になります。
なお、関連して年金生活者支援給付金の給付基準額の計算式についても、あわせて確認しておくと理解が深まります。
7. まとめ
- 老齢年金生活者支援給付金は、厚生年金の受給有無ではなく、老齢基礎年金の受給と所得基準で判定されます。
- 厚生年金保険料を納めた期間は、老齢基礎年金の受給資格期間にもカウントされる仕組みです。
- 令和8年度の所得基準額は、前年所得80万9000円以下(満額)、80万9000円超90万9000円以下(減額調整支給)ですが、10月分からは82万6500円以下(満額)、82万6500円超92万6500円以下(減額調整支給)に引き上げられます。
- 60〜64歳で特別支給の老齢厚生年金のみを受給している場合は、老齢基礎年金をまだ受給していないため対象外です。
- 「厚生年金=対象外」と決めつけず、自分が老齢基礎年金を受給しているかどうかを確認することが大切です。
「厚生年金を受給しているから対象外」という思い込みは、制度名の印象から生まれる誤解です。実際には、厚生年金保険料を納めた期間は老齢基礎年金の受給資格にもつながっており、多くの会社員・公務員は両方の年金を同時に受け取ります。判定の鍵は厚生年金の受給有無ではなく、老齢基礎年金の受給と所得基準にあることを押さえておきましょう。
制度名だけで対象・対象外を判断せず、実際の要件を一つずつ確認する姿勢が、給付金の見落としと早合点の両方を防ぐことにつながります。
自分の状況を正確に確認したい場合は、年金証書や振込通知書の記載を確認するか、年金事務所に相談することをおすすめします。特に65歳が近づいている人は、届く請求書を見落とさないよう、あらかじめ制度の全体像を把握しておくことをおすすめします。
あわせて、年金だけでは生きられない?年金生活者支援給付金の仕組みと全体像も参考にしてみてください。
8. よくある質問
8.1 Q. 厚生年金を受給していると、年金生活者支援給付金の対象外になりますか。
A. 厚生年金の受給有無は、直接の判定基準ではありません。老齢基礎年金を受給しており、所得・世帯の基準を満たしていれば対象になります。
8.2 Q. なぜ「基礎年金」という名前の給付金なのに、厚生年金受給者にも関係があるのですか。
A. 会社員・公務員として厚生年金保険料を納めていた期間は、国民年金の第2号被保険者として老齢基礎年金の受給資格期間にもカウントされるためです。多くの厚生年金受給者は、老齢基礎年金もあわせて受給しています。
8.3 Q. 60代前半で厚生年金を受け取っていますが、対象になりますか。
A. 60〜64歳で特別支給の老齢厚生年金のみを受給している場合は、老齢基礎年金をまだ受給していないため対象外です。老齢基礎年金の受給が始まる65歳以降に、あらためて要件を確認する必要があります。
8.4 Q. 自分が対象かどうか、どこで確認すればよいですか。
A. 年金証書や年金振込通知書で老齢基礎年金の受給有無を確認できます。所得基準に該当するか不安な場合は、年金事務所に相談することをおすすめします。
8.5 Q. 要件を満たしていれば、自動的に給付金が振り込まれますか。
A. 自動的には振り込まれません。65歳になる誕生月の初旬に送付される請求書を提出する必要があります。要件を満たしているのに請求書を提出していない場合、給付金は支給されないため注意が必要です。
参考資料
齊藤 慧

